第26話 “オンライン小説サイト”から:エッセイと小説

 本”オンライン小説サイト”において、コンスタントにエッセイを投稿させてもらっている。PVの多寡は別にしても、日々感じたことや昔の思い出を綴ることによって思考力が養われるし、何よりも表現することの楽しみを見出せる。


 ただ僕の場合は、“一期一会”をテーマに、出会った人に対するエピソードを語ることで、過去の出来事と折り合い――もしくは決別、あるいは懺悔――を着けるという目的がある。

 本連載の「はじめに」でも述べたように、過去に出会った人たちを振り返ることで、これから出会えるであろう人に対して、何らかの意義深さが生まれてくればそれでいいと思っている。


 書くという行為はけっこうな意味を持ち、これまで10冊程度の書籍を発刊させてもらってきた。主に日々の診療を中心とした、いわゆる“医療エッセイ”だ。

 改めて言うことでもないが、エッセイとは、テーマを与えられていようがいまいが、少しの意外性を掘り下げつつ、より忠実にリアルを伝える文章である。基本的にはノンフィクションで、空想上の物語は許されない。自分目線で書くことが基本であり、言い方を換えるなら、“一人称視点”ということになる。

 が、しかし、一人称視点における最大のデメリットは、視点主(多くは主人公、つまり作者である自分)以外の心理や描写を直接的に表現できない。作者の見たもの、聞いたものしか書き表すことができず、自分の知らない場所で起こったドラマは描けない。

 一方、小説でよく用いられる技法は、“三人称視点”である。“神目線”というもので、すべての登場人物の客観的な心理描写を可能とする。


 エッセイの場合、視点で悩む必要はないのだが、その代わり、しっかりとした所感と心証(しんしょう)、それに基づく考察と、できれば希望のようなまとめが必要である。それらがなければただの情報になってしまう。


 エッセイを書きながらの生活というのは、現実を受け入れている――とまではいかないにしても、現実を見据えている――ことかもしれない。“リアリスト”と言えば聞こえはいいが、事実を直視し、ある意味ニヒルな態度で世の中を眺めている。

 結果、現実の中からしか物事を立ち上げられなくなり、想像の占める割合が少なくなる。


「小説を書いてみたい」、これがいまの僕の望みである。が、しかし、残念ながら書けないだろうと思っている。

 一人称視点でしか物語を展開できなかったエッセイストには、小説における三人称視点で書くことに、どうしてもためらいというか、正直言えば苦手意識がある。空想上の世界で主人公を動かすという、虚構の世界に馴染めないからだ。

 実際の出来事への文章化を心がけてきた人間にとって、小説という形式において、フィクションを創造していくことは、やはり難しい・・・・・・と感じる。

 まあ、一言で言えば、現実の世界に囚われすぎてしまったがために、想像力が足りなくなったということである。

 もちろん、すべて言い訳だ。


 ということで、ここで書いてきたことはすべて実話に基づいているが、相当な部分で脚色や誇張がある。一人称視点で限りなくエッセイに近いものではあるが、フィクションのみで構成される小説を書く前に、“私小説”というジャンルを開拓しようと考えた。

 これが僕の、このオンライン小説で原稿を書いてみようと思ったきっかけである。


 知り合いの異世界モノを書く作家から、「書いているうちに勝手にキャラが動き出す。だから自分は、それにしたがってペンを走らせるだけでいい」という、「本当か?」と思えるような羨ましい話しを聞いた――実は、プロの作家ではよくある現象のようだ。

 小説家が主人公に乗り移っているのか、それとも、主人公が小説家に憑依(ひょうい)しているのか、それはわからないが、とにかく作者の意図とは別に、キャラが動き回るのだそうだ。


 僕の書いている文章は、キャラは自分自身なので、僕が動かなければ誰も、何も動かない。絶対的に不利だ。

 だから、現実味のないファンタジーやメルヘンといったジャンルを嫌い、「いくら小説だからといっても、多少の現実味がなければ、キャラは動かないだろうし、自分は共感を持って読むことはでない」というようなことを、先の作家に言った。

 そうしたところ、「良質のファンタジーというのは、あり得ない夢物語を、呪いだとか祟りだとか、魔法だとかチートだとか言ってただ描いているわけではなく、著者なりの特殊な技法を用いて人間の心理をえぐり出しているのですよ」と返された。

 

 キャラの立った作家だからできる心的表象(ひょうしょう)なのだ。

 素直に反省。

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