第27話 公爵令嬢は本心をひた隠す
「セルディナ様は何故、魔物を救おうとするのでしょうか」
ロキがセルディナにそう尋ねたのは、セルディナが新設する予定の孤児院を購入する手続きを終えた帰り道の事だった。
「
アルシアを騙して外出しているため、馬車は使えなくて。歩きながらの帰り道、尋ねられたセルディナは「ロキに隠し事は出来ないわね」と、顔を隠すために深く被った外套の下で笑った。
孤児院の新設を無理矢理に進めているのは、ダリアやギナンのように、スラムに暮らす魔物や、暮らす場所のない魔物の居場所を作るため。少しでも早く話を進めて、今なお苦しい思いをしている魔物を助けるためだった。
しかしそれは、まだ誰にも話していない事で……
「お父様も周りの人も、王妃教育の一環だと勘違いしてくれたのに。どうしてロキは気が付いたのかしら?」
「セルディナ様は理由も無く、人に仕事を押し付ける人ではありませんから」
……問いかけたセルディナに対し、ロキはそう答えた。
それは、セルディナを信頼しているからこそ出てくる答えで。
「……そんなに、出来た人でもないのよ」
セルディナはボソリと、ごくごく小さな声で呟いた。
「セルディナ様?」
不思議そうな顔をしたロキに、セルディナは「何でもないわ」と、笑みを浮かべた。
セルディナの様子を不審に思ったのか、心配そうに眉を下げるロキが、あまりにも優しくて。セルディナは不意に、死の淵を見た日の事を思い出した。
グラシアに毒を盛られて、指先すら動かなかったセルディナを助けたのはロキだった。あの日も、ロキは心配そうに眉を下げていて……。
「私ね、貴方を自由にしたいの」
その表情を見ながら、セルディナはポツリと呟いた。
孤児院の新設は、魔物を救うため。それに偽りはない。ロキと同じ魔物を救いたくて。しかし、それだけでもないのだ。
「もしも魔物の待遇が今後も変わらなかったら、数を集めておけば暴動をおこせるかもしれない」なんて、セルディナはロキに言う事は出来なくて。
セルディナは、他の魔物が傷ついてしまったとしても、ロキだけは絶対に助けたいのだ。
だってロキだけだったから。
死を待つだけだったセルディナを救ってくれて。独りぼっちだったセルディナの側に居てくれて。セルディナを心配してくれて。笑いかけてくれたのは、ロキだけしか居なかったから。
セルディナを助けてくれたロキが、自由になれる世界が欲しくて。幸せだと感じる世界にしたくて。
……あの日。毒によって死ぬ筈だったセルディナは、ロキの幸せだけを願っていた。
「……私はセルディナ様が望む限り、側に居ます」
「…………ありがとう」
―――それなのに私は、ロキを縛ることしか出来ない。
セシルがロキとの契約の際に命じたのは、セルディナの側に居ること。セルディナの命令を聞くこと。逆らう事は許さないという事。
ロキを自由にしたいのに、セルディナが居る限り、ロキを自由にすることが出来ない。
そんな自分が、セルディナは大嫌いだった。
「私ね、頑張るから。魔物が幸せだと思える国に変えて見せるから」
そう言って笑うセルディナに、ロキは何故か言葉を掛けることが出来なかった。
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