第12話 虚像は公爵令嬢に救われる5

「アタシの名前はダリア」

「花の名前と同じね。実物は見た事が無いのだけれど、本で見た事があるわ」

「魔物の仲間が付けてくれたんだ」


 ロキには何が何だか、分からなかった。


「別に気に入ってる訳じゃないけど、アタシの名前はこれしかないから、仕方なく使ってやってる」

「素敵な名前ね。ダリアはきっと綺麗な花なんでしょうね」

「……見たいなら、今度アタシが取ってきても良い。アタシなら、魔法で誰にも気付かれずに外に行けるから……」


 食事を取りに行くために部屋を後にするまでは、確かにセルディナに牙を剥いていた筈の赤髪の魔物は……ロキが食堂から食べやすいパンなどを選んで戻ってくるまでの数分の間で、何故かセルディナへ懐いていた。


「セルディナ様。もう誑し込んでしまわれたのですか?」

「あら、ロキ。誑し込むなんて酷いじゃない」


 戻ったロキに気が付いたセルディナは、「誑し込む」というロキの言葉に頬を膨らませて、それからふわりと笑って「仲良くなったのよ」と言った。

 ダリアは……セルディナよりも、同族である筈のロキが怖いのか。戻ってきたロキに、びくりと肩を竦めた。先ほどセルディナに威嚇をした際に、容赦なく制圧したのが原因だろう。


「襲われていなかったようで、一先ず安心です」


 だが怯えられた所で、それを気にするロキではない。勿論、セルディナに嫌われてしまったら、しばらく持ち直せないだろうけれど。


「もう大丈夫よ。ねぇ、ダリア」

「……もう、お前を……「お前?それは、セルディナ様の事を指しているのでしょうか?」……ッ!」


 「セルディナ様に嫌われてしまったら……」なんて考えていたロキは、ダリアの口から出た言葉に、思わず低い声で返してしまった。


「セ、セルディナ!」

「セルディナ?セルディナ様を呼び捨てにするなど……」

「セルディナ様!」


 慌てて言い直すダリアだったが、セルディナが「あら、セルディナでも良いのよ?」なんて横から言い出すものだから、セルディナとロキの間で挟まれてしまう。


「セ、セナって、愛称で呼んだら……駄目か?」


 セルディナは友達(なんて言ったら、またロキに突っかかれそうだが……)だけど、ロキの圧が強すぎる。ダリアはぐるぐると考えて……最終的に、愛称の提案をした。


「セナ!すごいわ。愛称で呼ばれた事なんて無いから、嬉しいわ」

「……まぁ、セルディナ様が喜ばれているのなら、良いでしょう」

「ロキもセナって呼んでも良いのよ」

「…………セ……恐れ多くて難しいです」


ダリアはそんな二人のやり取りを見て……なるほど、セルディナとロキこいつらは意外とアホなようだ、と結論を下した。




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