第13話 虚像は公爵令嬢に救われる7
柔らかいパンに、とろみの付いたスープ。
「パンに塗る物よ」とセルディナに渡された白い物体は、ナイフで簡単に切れるくらいに柔らかくって。セルディナの真似をしてパンに塗って、それを齧ったダリアは、甘くてしょっぱくて、信じられないくらいパンに驚いた。
「消化に良いものの方が良かったかしら……」
一口齧って固まったダリアに、セルディナが心配そうに言ったが、ダリアの耳には届かなかった。
―――こんなに美味しいもの、もう一生食べられないかもしれない!
取りあげられてしまってはいけないと、ダリアは慌てて口の中にパンを詰め込む。少しの力でも噛み切れる程柔らかいパンは、ダリアの弱った体でも食べやすい。噛むほどに甘さが増す気がするパンに、飲み込むのも勿体ないと思いながらも、美味しすぎるパンはあっという間になくなってしまう。
パンが食べ終えたダリアは、その次にスープへ手を伸ばした。両手で皿ごと持ち上げると、直接口を付けて飲み込んでいく。黄色のスープは甘くて。スープなんて腹持ちが悪いからと食べさせて貰った事なんて無かったダリアは、あまりに美味しいものだから、そのまま一息に飲み干してしまった。
「…………ぷはぁっ」
全て平らげたダリアは、皿から口を離した瞬間、自身を見つめるセルディナの瞳に気が付いた。
ダリアが「あ……」と声を上げたのは、ダリアの前に座るセルディナの手に、一口大に千切られたパンがあったから。目の前のテーブルにシルバーの食器もあったのに、ダリアはそれを使わないまま、出された食事を食べ終えてしまった。
食事の所作なんて気にしたことも無かったダリアは、しかしセルディナの視線を受けて、生まれて初めて「恥ずかしい」と思った。
「美味しかったなら良かったわ」
……しかし、セルディナは気にした素振りもないままに、ダリアに向かって笑って。
「……セルディナ様、私も一つ頂いても良いでしょうか」
「もちろんよ」
固まるダリアの前でパンに手を伸ばしたロキが、先ほどのダリアと同じようにパンに齧りつく。美しい服を着て、綺麗な顔で、手の平ほどの大きさのパンを大きく噛み千切ったロキは、ちぐはぐで不自然だった。
……まるでダリアに気にしないのために、わざとそんな食べ方をして見せたかのように。
「もう少しパンを食べるかしら?」
セルディナに問いかけられて、ダリアは頷く。セルディナは自分の皿からパンを取って、ダリアに渡した。
「セルディナ様。必要でしたら、もう少し取ってきますので……」
「良いのよ。あまりお腹も空いていないし……それに、私はロキとも一緒に食べたいわ」
そんな何気ない光景が……つい先ほどまで死にかけていたダリアには、異世界のように見えた。
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