第3話 彼女の想い

 しんちゃんこと石橋慎介いしばししんすけに次のデートに誘われたその夜。私はルンルン気分だった。


 食事中に、


「お姉ちゃん、ニヤニヤしてる」


 なんて妹に言われる始末。


 部屋の中で、デート用の服をクローゼットから引っ張り出して身体に当ててみると、気分が高揚してくる。慎ちゃんはフェミニンな感じのが好みだし、そっち方面で攻めてみようかな。思いついたのを片っ端から着て、鏡の前でああでもない、こうでもないと悩む時間はとても楽しい。


 私と慎ちゃんは小学校からの付き合いの幼馴染だ。とはいっても、他の誰かと比べて凄い親しくしていたわけじゃなくて、時々遊ぶくらいの仲だった。


 それが変わり始めたのは中学生になってからだろうか。私が自分を女として自覚し始めたその時に真っ先に相手に思い浮かんだのが慎ちゃんだったのだ。何故だったのかは自分でもわからない。


 そして、中学になってから、逆に慎ちゃんにはよく遊びに誘われるようになった。他の友達を交えての事もあったけど、二人きりのこともたくさんあった。「デートなのかな?」と思ったけど、自信がなくて、ずっと聞けなかったけど。


 さらに関係が変わったのが高校2年生になってから。初めて、「デートに行こう」とはっきり誘われたのだ。この時はとっても嬉しくて、その日はなかなか寝付けなかった。


 でも、そのデートも次で6回目。早く告白、してくれないかな。と少し思ってしまう。思い込みじゃなければ、慎ちゃんも、きっと、私の事気になっていると思うし。でも。


 そこで、少し嫌な想像が浮かんでしまった。これだけデートをしても踏み切って来ないのは、他の女の子とデートしているのではないかと。なにせ、慎ちゃんはかっこいい。彼に興味を持っている女の子が他にも何人かいるのを私は知っている。その誰かともデートして、私とどっちが合うのか比べてたのだとしたら……。


 って、いけない、いけない。思考がネガティブな方向に向かってしまうところだった。慎ちゃんはそんな品定めするようなことはしないよね。それくらい信じてあげないと。


 でも、それなら、なんで告白をしてこないのだろうとやっぱり思ってしまう。ひょっとして、友達としてしか見られないことに気づいてしまったから?慎ちゃんは優しいから、そんな事を気づいても言い出せないということはあるかもしれない。品定めされているよりはマシだけど、より現実にありそうな話で、そうだったら嫌だなあ。


 こうして、つい、ネガティブな事を考えてしまうのは、きっと、自分に自信がないせいなのだろう。今日も慎ちゃんに「自己評価が低い」って言われたけど、仲のいい友達にはよく言われる事だ。いいことがあっても、心のどこかで「私なんかが……」と思ってしまうのだ。そして、そんな自分に都合がいい事が起こるわけがないという思考から、ついつい悪い方、悪い方へと想像してしまう。


「もう、私から告白しちゃおうかな」


 もし、次のデートで彼が告白してこないようなら、私からはっきり想いを告げて確かめてしまえばいい。慎ちゃんに振られたら傷つくに違いないけど、それでも、こんな想いを抱えているよりはいい気がしてきた。


 こんな事を考えてしまうのは、雑誌だかネット記事で、あんまりデートの回数だけこなすとかえって冷めてしまうとかなんだとかあったせいだ。


「慎ちゃんは、私の事、どう思ってるのかな……」


 自然とそんな言葉が口をついて出ていた。

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