初恋
突然大雨が降りだした。折り畳みは持っていたが、これでは後ろのリュックがびしょ濡れになってしまう。帰り道の途中にある、図書館で雨宿りをすることにした。入り口のところで、折り畳みを閉まっていると、そこへ同じ学校の制服を着た女の子が突っ込んで来た。彼女は傘を持っていない。突然の雨だったから、無いのだろう。それでここまで走ってきたのか。
「あ、ごめんなさい」
彼女は僕に謝ると、自分と同じ学校の制服を着ているのに気づき、「あっ」と声を漏らした。
「君も同じ高校なんだね。何年生?」
一年生と答えると「私の方が一つ上だね」と威張りながら言った。
彼女の名前は、
「どんな字書くの?」
「降る『雪』に『近』いと書いて、『雪近』」
「へえ、なるほど。私は、『白石』はそのままで、蜂蜜の『蜜』に葉っぱの『葉』」
これにどう返せばいいか分からない。一応、ふーんで返したが、ほかにどんなのがあるか分からなかった。
「中に入ろっか、ユキくん」
「!」
『ユキくん』。初めて呼ばれたそのあだ名に
「ねぇ、早く早く!」
白石さんに
ち、近い。
白石さんと横隣で座ったが、彼女は椅子を動かし、僕の椅子に接近した。その近さに僕の心拍数は急激に上がった。緊張モードが、さらに一段階上がった。
彼女の提案で、僕の宿題を教えてもらうことにした。彼女は、学年でも上位の成績らしい。宿題用のノートをリュックから取り出した。そして、数学を教えてもらった。彼女の教えはゆっくりで、丁寧ったが、距離が近すぎてあまり集中が出来なかった。
宿題が終わった。気がつくと、雨が止んでいたので、帰ることにした。白石さんは図書館にもう少しいるそうだ。
「じゃあ、また明日、学校でね!」
僕は、小さく手を振った。そして、彼女に背を向け、歩いた。
胸がほのかに熱くなっていた。
雨宿り──短編集 桜野 叶う @kanacarp
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。雨宿り──短編集の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。