第3話 ヤンキー女子、初登校。
財布、時計、ハンカチ……
登校前の持ち物チェックである。
「いってきまんもすー」
挨拶をして、家を出て歩いて、バスに乗って、電車に乗って、歩いて学校に着いた。
地味にバスの時間が長い。
折り返しである始発終点のバス停だから良いけど青浜方面からくるバスだと座れるかどうかわからない。
「あー一週間始まるのぅ。」
校門を潜ると後ろの方でざわざわしだしたのを感じた。
真白は何事かと思って見ると、20人に満たないくらいのヤンチャな女子たちが2列となって向かってくる。
俺から数メートル離れたところで止まり、左右に広がった。
俗にいう花道だろうか?
奥から一人の少女が現れた。
ヤンキーなのに黒髪ロングで80年代を若干感じさせる化粧をし、スカートのポケットに手を突っ込みながら前屈みでの大股開きでのっしのっしと歩いてくる少女。
昨日見たような気がするなと。
千○と真○さんを足して2で割ったような子。
とにかくそんなヤンキー少女が俺の前にくると……
「お、おぅ。ぉはょ。」
顔真っ赤で超照れ声で朝の挨拶をしてくる仕草がいじらしくて可愛い。
周囲は天変地異の前触れかと一斉に引いていく。
「あぁ、おはよう。ここの生徒だったんだな。」
その言葉にちょっとムっとしたのか彼女は
「あぁ?あんまイキがってっと……ぶっコロしますですわよ。」
日本語がおかしくなっていた。
「はは、なんだそれ。無理して丁寧な言葉使おう思わんでも良いけどな。可愛すぎて叶わんし。」
「にゃにょぉ。な、なにおう。」
噛んだので言い直した。
「俺な、生まれはこっちだけどずっと関東にいたから言葉もあっちだし、でもこっちの言葉も通訳なしで理解出来るから。でも特殊言語はわからないんでよろしく。」
この場合のよろしくはそれでいいよね、じゃぁお願いという意味で言ったのだが。
一応こっちに戻って1年ちょっと経過。
そもそも福岡の人間なのにトラック運転手やってる叔父さんのおかげで、広島とか千葉とかごっちゃになった方言使いが身近にいるためである。
「放課後ぉツラぁ貸しな。体育館裏で待っちょるけぇ。おい、お前ら行くよ。」
突然のワザとらしい変わりように微笑みつつも。
周りに避けていた一般生徒たちはそそくさと下駄箱から教室に向かって行った。
俺もさっきのはなんだったんだと思いながら、上履きに履き替え教室に……
ガララララ
扉を開けて。
ガララララ
教室に入らずに閉めた。
(真白の心情)
だってさっき別れたはずの女子達がいるんだよ?
放課後って言ってなかった?
それにみんな彼女達の傍から離れてるじゃんか。
別に取って食おうて人達ではないんだけどなぁ多分。
クラス間違ってないよな、そこまでボケてないよな。
学年とクラスは合っていた。
思い返すと、真白の隣とか後ろの席とかいくつか空席が多かった。
2年生はまだ始まったばかりだけど、出席してなかったのだろう。
だから知らなかったのか。
なんか嫌な予感がするなぁ。押○!空○部じゃないんだからチームがでかくなっていって、最後総理の息子と喧嘩になったりしないかな。
中国拳法系なんて習った事ないぞ。
龍○昇見よう見まねでやってみるか。
飛躍しすぎか。
ガララララ
すたすたと歩いていき自分の席に向かって歩く。
すると俺の席の椅子を女子の一人が引いてくれた。
「ささっどうぞ。」
「うむ、苦しゅうない。って違うわっ。今朝からなんなん?これ何かの宗教?罰ゲーム?君ら昨日が初対面だよね。というか昨日は敵意剥き出しだったよね。」
「それについては、放課後聞いてください。あたしらは恵さんの舎弟なんで詳しい事は。」
でも昨日助けに入ってきた事やあんなセリフ言われたら女はイチコロッス。とだれかがぼそっと呟いた。
でもその恵さんとやらは俺の隣の席で置物のように固まって座ってるぞ。
朝のホームルームとなり、担任の若い女の先生が恙なくホームルームを始め、さくっと終わって出て行こうとする。
「あ、そういや今更だけど2年生始まって2週間になるが漸く全員揃ったな。明日以降もそうであると助かる、主に担任である私が。」
まぁそうだよな。不登校の生徒がいると教師は色々大変だしな。
抑々不登校ならなんで受験してまで高校に入学したんだって話だよ。
しかも学年上がったということは1年はクリアしたんだろうし。
しかし1時間目の授業中、隣の席からちらっちらっと視線を感じる。
俺は一番窓際の席。隣から視線を感じるということは、本人は黒板を見ていないということだ。
そんな感じで1時間目2時間目と微妙にやり辛い授業となった。
3時間目が終わった時。
「あ、もうあかん……尊かと。」
机に突っ伏した彼女。
「恵さん大丈夫っすか。」
取り巻きの女子達が彼女の傍に集まる。
「だめぇ。ちょっと熱い。」
「ん?そうなのか?ちょっとおでこ貸してみな。」
流石に自分のおでこを当てて熱測ったりはしない。
手を当てるとちょっと熱い……のが伝わってきた?
「保健室いくか?保健委員……はシカトか。ほら、連れてってやるから。」
流石にお姫様抱っこは出来ない。
それは周囲から何を考えてると言われそうだからだ。
彼女を立たせておんぶを促す。
しかし当の恵は固まってしまっている。
そこで取り巻きのひとりが身体を取って……
俺の背中に彼女を乗せた。
そして耳元で。
「本当はお姫様抱っこにしてくれた方が面白かったっす。」
と、囁いた。
煽るやつがいるな、この中に。
おんぶすると、彼女の吐息が聞こえる。
はぁはぁと苦し……ん?
なんか違う気がするので振り返るのは止めた。
そしてなんとか保健室に到着。
途中なんかいろいろ言ってくるその他大勢がいたが気にも留めなかった。
「先生、彼女ちょっと熱っぽいのとハァハァしてるんで寝かせてやって良いですか?」
俺の言葉に保健の先生は……
「ん?あぁ、空いてるベッドに寝かせてやりなさい。後は先生が診ておくから。」
後は保険の先生に任せて俺は教室に戻った。
☆☆☆
「で、貴女がここにくるなんて珍しい事もあるとうとね。」
「……」
布団を鼻あたりまで被せているので聞き取れない。
「熱はちょっと高めだけど風邪でもなさそうやし。」
そこまで言って保健の先生は気付いた。
「あ、これ別府でも湯布院でも伝説の草津でも治らんやつや。私でも恋の病は治せんけんね。」
「ばっ、あたしが恋の病ぃ、そげなことなかとよ。姉さん。」
慌てふためく恵。
「ここでは先生でしょ。まぁ他に人おらんと良いけん。」
「で、なんがあったとよ。そういや昨日帰ってからもおかしかったとぉ。」
恵は海岸であった事を話した。
「それは一目惚れと吊り橋効果と乙女効果ね。恋愛のバフがかかりまくりね。あんた、乙女のくせしてヤンキーなんてやっちょるから。」
さらに真っ赤になって恥ずかしくなったのか布団に潜る恵。
「姉さんに言われたくない。」
「まぁいいわ。4時間目は多目に見るけど午後は授業に出なさい。去年みたいに後半慌てたくなかろ?」
「うん。さっきも見とれてたら息するの忘れてた。」
「あほかっ」
なんて会話をしていた事を知る由もなく。
昼休みになると急いで移動した。
真白は昼休みの前半のうち10分を使い取り巻きの女子達から逃げて屋上に避難してきた。
「もうなんなん?普通の高校生男子だったのに、このアイドルか犯罪者みたいな状況は。」
俺のその叫びを誰かに聞かれていたようで。
「それは、君が彼女達に慕われたからだよ。良くも悪くもね。」
屋上の影で一人、弁当を食べている女子から発せられた。
「どちらさまですか?」
彼女は食べる手を止めて。
「ヤンキーは救世主やヒーローに弱いの。ピンチを救ってくれる人に弱いの。だってバトルだから強い人に憧れるの。」
なんかこの人も変だなと思った。
「私もあの場にいたからね。君も攻撃を貰ってたけど、一人一殺という感じでばったばったと倒していったし。」
「総長なんて、可愛いなんていわれちゃったし、そりゃめろめろになるでしょ。」
そうだったのかと思った。
思った事をそのまま言っただけなんだけどな。
「そういや、あんたは他の取り巻き達みたいに追いかけたりはしないんだな。」
「まぁ、同じチームだからって常に一緒というわけではないでしょ。クラスが違ったり学年が違ったりすれば。」
なんていってるけど、この子も同じ2年生だったりする。
後で聞いて知ったけど。
「ヤンキーだって学校には行くし、授業だって受ける。全員とは言わないけど。」
なんて話していたら昼休みが終わってしまった。
「あ、昼飯……」
「予鈴だからあと10分はあるから急げば大丈夫じゃない?私はもう行くけど。」
そう言って彼女は弁当箱を仕舞い立ち去る。
屋上から出る時に
「2年4組
「ん、あぁ。2年3組
その言葉を聞いて彼女は去って行った。
そのあと急いでパンを一つ平らげ、教室に戻った。
5時間目、6時間目の授業は午前と変わらず過ぎて行ったが……
ついに運命の放課後が訪れた。
6時間目の終礼がなると、隣の席からはささっと姿がなくなっていた。
どんな用事かわからないけど、同じクラスなら教室でも良かったのではないだろうか。
あれ?でも取り巻きの子達は残ってるな。
本当に何の用事だろう。
昨日の乱闘の邪魔しやがってと因縁ふっかけられるのだろうか。
――――――――――――――――――――――――
後書きです。
同じクラスにしてハードルあげちゃいました。
真白、最初に名乗るのがヒロイン以外というね。
現実はそんなものかもしれないけど。
保健の先生が実は恵のお姉さんとか。
担任も何かありそうですし。
次は放課後ですね。
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