慰労会を始め……られなさそう

 予定より十五分オーバーしてしまったが、ボランティア活動は無事終了を迎えた。


 いやぁ、トングが無いと気付いたときは冷や汗が止まらなかった。

 まぁ、そのおかげで取り残した〝ゴミ〟の転送もできたのだから、部長のミッションもクリアできて一石二鳥とポジティブに捉えたほうが良いだろう。


 なんでかな。

 罪悪感が芽生えてこない!


《だいぶ染まって来てるな……》


 黒瀬が何かボソッと呟いたが気にしないでおこう。


「では、本日の活動はこれにて終了。みんな、お疲れ様!」


「お疲れ様でした」


「お疲れ様でぇす」


「お、お疲れ様でした……」


 委員長を前に、横並びした俺たちは会釈する。


『お疲れ様でした』


 少し離れた場所で、生徒会メンバーも解散の挨拶を済ませていた。

 さてと、荷物取って帰るか。


《おい、あの女のこと忘れてないか……?》


 そうだった忘れてた!?

 同じ時間帯で終わっちゃったし、今から誘われるのは確実だ。

 なんて嘘吐いて逃げようか……。


 ・インドからアフリカゾウが転がってくるから返さなければならない……?

 ・悪の秘密結社に改造させられそうだから逃げなければならない……?

 ・地底怪獣が目覚めるから迎撃に行かなければならない……?


 ダメだ! 良いのが思い付かない!


《もっとマシなもん考えられないのか?》


 仕方がない……当初の予定でロシアへの国外逃亡にしよう。


《パスポートは?》


 いらない!

 着地して美人見たら直ぐ帰る!


《不法入国って知ってるかい?》


 正体バレなければ何とかなる!

 撮影されたらそいつ襲え!


《お望みとあらば》


 襲っても良いことに凄い喰い付きだな。

 さぁ、そうと決まれば跳躍の準備に入るぞ。助走何メートル必要だ?


《軽く走ってくれればひとっ飛びで行ける》


 よっしゃ、頼むぞ!


《ただ着地するまで時間は掛かるから用を足しておけよ》


 了解した。

 ほんじゃあ、ちゃっちゃと荷物と用を済ませて国外逃亡だッ!


「白瀬、このあと時間はあるか?」


 コハ姉がこっちに来る前に荷物を回収しに駆け出そうとすると、委員長が話掛けてきた。


「えぇ……っと、今から寒い場所に行こうかなと……」


「そっかぁ、残念だ。今から四人で慰労会(いろうかい)をしようかと思ってたんだが―」


「行く必要が無くなったので参加します!」


「そっか。なら良かった」


 好都合だ……!

 これでコハ姉が誘ってきても断れるし、何より委員長と一緒にいれる時間が増える!


「シーく~ん!」


 そして予想通り来た!


《l;;smヴぃぢおんfs;いdj;bs、mcdんvfんdんggfg》


 暴れるな大丈夫だ落ち着け。


「なんでしょうか……?」


「このあとぉ、買い物に付き合ってくれる~? ボランティアも終わった訳だしぃ、午後は暇でしょ~?」


「ごめんコハ姉……。今から風紀委員のみんなと会合があるんだ。せっかくの誘いだけど、また今度にしてもらえるかな……?」


 と言っても、〝今度〟の誘いも逃げるけどねッ!


「そっかぁ、ざ~んねん……」


 笑顔を一瞬で奪ってしまったのは正直罪悪感が襲ってくるが、これも自身の身を守るためと、委員長と一緒にいる時間を作るためだ。


《死にたく……ない……ッ!》


 大丈夫だ。今断って向こうも了承してくれた。


「じゃ、また今度誘うね~」


 そう言うと、コハ姉は再び生徒会メンバーの方へ帰って行った。

 はぁ……危機一髪。


《国外逃亡しなくて良さそうだな……》


 ああ、でも一度見てみたかったぜ。ロシアの美人さん……。


「ところで委員長、どこで慰労会をする予定ですか?」


「そうだなぁ。ファミレスと考えていたが、さすがに学校のジャージで行くのはマズい。だから一度戻って、改めて集合しよう!」


「え、ということは、あの本数が少ない駅を往復してくるってことですか?」


「まぁ、そうなるな。だが、せっかくの会合だ。それぐらいなら平気だ!」


 さすが委員長……。俺より男気溢れてますッ!


「という訳だ。麗奈と楓も、一度帰宅してからファミレスに集合ということで―」


「あの、委員長。そのことなんですが……」


「ん? どうした?」


「実はこれから、親戚との集まりがあって、そちらのほうに出席しなければならなくなりました……」


「そうだったか……。それなら無理には誘わない。行っておいで」


「はい、申し訳ありません。せめてものお詫びとして、先ほど学校近所の方からいただいたコチラの蜜柑。わたしのことは気にせず、みなさんで食べてください」


「おお、嬉しいね。じゃあ一個だけでも、持って帰りなさい」


 その場で袋を開け、蜜柑一個を国見に渡した。


「ありがとうございます。では、お先に失礼します」


「ああ。お疲れ様!」


 時間が迫っているのか、早足に荷物を取りに校舎内に行ってしまった。


「ということは三人か。楓は大丈夫そうか?」


「あ、あの……それが……あ、あたしも今日は、午後に用事がありまして……」


 さぞ言い辛かっただろう南先輩が、俯いて正直に返答した。


「あはは、分かったよ。そう申し訳なさそうにしないで」


「ご、ごめんなさい……!」


「大丈夫だ。それじゃあ、楓にも蜜柑のお裾分けだ」


「あ、ありがとうございます……ッ! そ、それでは……ッ!」


「は~い。お疲れ様」


 南先輩も早足に荷物を取りに教室に戻って行った。


 入れ違いで国見が現れ、俺たちに会釈してから駆け足に去って行く。


「…………」

「…………」


 そして、残された俺と委員長は、超気まずい雰囲気に覆われた。

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