全部ぶっ壊してあげました♪
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「部長……もう終わりにしませんか?」
何時から開始され、今何時間経ったのかも分からない。
ただ言えることは、部長の発明品を黒瀬が全部壊してくれた。
その数ざっと五十三体……一体破壊するごとに泣かれ、また次が出てくるの繰り返し。
さすがの黒瀬も疲れ―。
《超余裕♪》
まだ大丈夫そうだった。
だが俺は疲れてしまった。
黒瀬が受けたダメージ分は、入れ替わったあとに八割前後半減されてるとはいえ、多少の痛みは受けている。
その繰り返しともなると、当然どんどん体力が減少していく。
折角の休日に、しかも明日朝早くからボランティア清掃があるというのに……全然のんびり出来なかった。
明日体力が戻ってなければ、黒瀬に清掃を任せるしかない。
《ヤダ》
この野郎……ッ!
一方部長はというと、最後に破壊されたロボの部品を集めながらシクシク泣いていた。
「白石くん、お疲れしゃまでしゅ! これ飲んで体力回復しゃしぇてくだしゃい!」
そして紅葉のほうは、天使のような微笑みで毒液の入った瓶を手渡してきた。
「ありがと……」
本当はありがとうじゃねぇけどな!
可愛いからつい返事しちまったよ!
はぁ、出来れば栄養ドリンクか何かを貰いたい……。
黒瀬、飲んでくれ。
《ほいほい》
これで最後の人体実験にしてほしい……紅葉の毒液を黒瀬が飲み干す。
《あ、マズい》
え、お前でも命落とす威力?
《いんや、ただ単に不味い》
吐き出せば?
《今吐き出したら目の前のこの女にかかって顔半分溶けるぞ?》
回れ右してから吐き出せ。
《吐き出せば、異臭でここの全員お陀仏だ》
頑張って消化して。
《ん~、出来るけど……三分掛かるぞ?》
ということは三分間お前のままか……。
《どうする? 代わろうか?》
溶かすつもりか?
《冗談だ》
「どうでしゅか? 美味しいでしゅか?」
「…………」
「白石くん……?」
《どうする?》
一言美味しいって言っとけ。
《口動かして喋るの嫌い》
ああ、そうだったな。
じゃあ美味しかったアピールでもしとけ。
《不味かったのに?》
女の子が出してくれたもん不味いって言えないだろ。
《毒だぞ?》
そうだったね……。
ヤバい、中々美味しいって言ってもらえないから、うるうると涙浮かべだした。
取り合えずサムズアップ、サムズアップしとけ!
《ほいほい》
「…………ッ!」
黒瀬が黙って親指を立てると、紅葉の表情が徐々に明るくなった。
「ヤッター! では、次また作ってきましゅね?」
《出来れば勘弁──》
サムズアップしとけ!
《マジか……》
「…………ッ!」
再び親指を立てると、口を大きく開けて子供のような笑顔を浮かべた。
これ次は十本近く持ってくるパターンだな。
《おい、そろそろ消化できるぞ》
よっしゃ、あと何秒だ?
《四……三……二……一……》
ゼロ!
「はぁー……はぁー……」
通常呼吸が出来てるということは……うん、生きてるな。
よし、あとは帰るだけだ。
「部長、そろそろ帰って良いですか? 自分明日朝早いので」
「うん、良いよ……」
振り返りもせず、背中を丸めて体育座りをしていた。
「あと、家まで送ってもらうことって可能ですか?」
「歩いて帰って……」
おいふざけんなよ。
ここがどこだかも分からんし、何より寝巻だぞ。
コンビニ行くのと訳が違うんだぞ。
黒瀬、最後に首絞めて脅迫するから手伝え。
《しない!》
じゃあ俺自身で絞めに行く。
《させるか──》
「しょれは、しゃしゅがに可哀しょうなので、ワタシが白石くんを送ってあげましゅ!」
黒瀬の制止を振り切り、首を絞めるまで残り一歩というところで紅葉が名乗り出てくれた。
「本当か、紅葉?」
「はい、今日一日お兄しゃまに付き合ってくれたお礼でしゅ!」
何とも出来た妹さん。
兄貴とは大違いだ。
「ありがとう助かるよ。それじゃあ早速道案内を頼んで良いか?」
「まっかしぇてくだしゃい!」
紅葉がその小さい胸に自分の拳を当て、自信満々な態度を取る。
「では、しょとに行きましょう!」
《しょと?》
〝外〟だ。
発音をたまに聞き返しそうになるが、大体慣れてきた。
紅葉に案内され、プライベートルームから出ると、もう夕方になっていた。
マジか……一日の大半こんなくだらないことに使っちまったのか……。
《俺には充実した一日だった》
くたばれば良い。
そして左を向くと、大層立派な一軒家が立っていた。
庭も広くて、羨ましいの一言だ。
因みにプライベートルームの外装は、ドーム状に作られていた。
「あ、白石くん。これを」
「お、白衣……」
「しょのまま歩く訳には行きましぇんから、しゅこしでもマシに見えれば良いかなと」
「あ、ありがと……」
嬉しさで涙が出そうになった。
幸い寝巻は、上が半袖のシャツ、下が黒色ジャージの為、白衣を羽織って前を締めても特に大きな違和感は無かった。
「しょれでは、出発しまーしゅ!」
以降は白衣を羽織った二人での奇妙な移動となったが、一人じゃないだけマシだった。
そこから帰宅に一時間かかるとは誰が予想しただろうか。
家に到着した頃には、足と膝が悲鳴を上げていた。
明日、大丈夫だろうか……。
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