まだまだ続く悪魔の発明品




「お兄しゃま、大丈夫でしゅかッ!?」


 膝から崩れ落ちた部長の元に、紅葉が近付いていく。

 なんか悪者側になった気分……。


「…………ふっふっふ」


 すると、部長の不敵な笑いが静かになった空気を打破した。


「はっはっは! 素晴らしいぞ白石白瀬!」


 高笑いしたと思ったら立ち上がって満面の笑みを浮かべ出した。


「十三体のロボを戦わせ、見事生き残った【シンジくん十三号】のブラシを耐えるだけじゃなく、よく打ち破った! ここまでは想定内、次を紹介しよう!」


 まだ続くのか……。

 また心折れて追い出してくれないかな……。


「次にご紹介するのはこちら!」


 次に出てきた、というか部長が持ってきたのは、何の変哲も無い掃除機だ。

 カラーリングは黒ベースで、所々赤い線が入っている。


「発明ナンバー555【タクミくん五号】! 元々は強力な吸引でどんな隅の埃でも取ってくれる掃除機に仕上げたんだが、面白くないってことで吸引先をブラックホールに転送させれる用に改造した超一級品だ!」


「部長、そのうち悪の秘密組織からスカウトが来ても加入しないでくださいね……」


「しぇんじつ(先日)来たので断りました!」


 よく諦めてくれたな。


 まずブラックホールに転送って………………光線浴びせた人をワープさせれるんだから有り得るか。


「それで自分になにするつもりですか……?」


「口に咥えてスイッチオン。内臓持ってかれないか耐えてみてくれ」


「衛生面って知ってますか?」


 異物が喉に詰まって意識が無いのなら差し込んでも良いけど、意識ある中で咥えるのは嫌だ。


「冗談だ。これに吸引されないよう踏ん張ってくれ」


「結局吸い込むんですね……」


「当じぇんでしゅ! しょれじゃあ〝しょう除機〟の意味がありましぇんから!」


 わざわざ掃除機とブラックホールを繋げる根本的な意味が分からない……。


「そういうことだ。じゃ、頑張って」


 軽いノリからのスイッチオン、直後に凄まじい吸引が襲ってきた。

 黒瀬!


《ほーい》


 こっちもノリが軽い黒瀬で対抗する。


《危なかったな》


 なにが?


《もう数秒入れ替わるの遅かったら目玉と歯全部取れて吸い込まれてたぞ》


 その言葉を聞いてから冷静に考えた結果、背筋が凍った。

 というか、部長と紅葉は?


「さぁどこまで耐えれる……!?」


「やっちゃえやっちゃえ!」


 被害を受けないよう実験用ゴーグルとマスクをちゃっかり着けて、掃除機のほうを応援していた。スンゲームカつく。

 黒瀬、あれどうやって止める予定だ?


《まず近付く》


 マジ?


《そしてホースを蝶結びにしてから本体を叩き割る!》


 大丈夫なのか?

 ていうか、近付けれるのか?


《中学のときブラックホールの付近まで飛んで、吸い込まれず泳いで帰って来れた》


 制御できてないときにそんな事してたんかお前……。

 どうりで中学時代、意識戻ったあとに具合が悪くなるはずだ。

 過去の出来事を思い返している間に、黒瀬が一歩一歩と余裕で掃除機に歩み寄る。


「なんだと……ッ!?」


「しゅ、しゅごい……!」


 驚く薬師堂兄妹を気にもせず、ホースを掴んで丁寧に蝶結びした。


 そして―。


《セイヤッ!》


 ホース先の本体をチョップで叩き壊した。



「タクミくん五号おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」



「お兄しゃまああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 またもや自信満々の発明品を破壊され、絶望から四つん這いに状態になって泣き叫ぶ部長と、愛する兄の号泣を目の当たりにして泣き叫ぶ紅葉を見ることとなった。

 ひとまずご苦労様。


 《ほいよ。ただ今回は危なかった……》


 え、どっか吸い込まれそうだったのか?


《髪の毛一本持ってかれる寸前だった》


 よし大丈夫だな。

 心配して損した。


「まだだ! まだあるぞ!」


 まだあるんか……。


《まだあるの!?》


 目を輝かせんな。


「発明ナンバー469【カズマくん二号】!」


 三体目は激しく人間に近い型のロボットだった。

 目は赤く、体色は青をベースとし、銀色の鎧が付け加えられている。


「元々は家事専用のアンドロイドとして開発予定だったが、汚い人類に報復する為に人間を消去対象にする自我が芽生えたほうが良いんじゃね? と思ってプログラムを仕込んだ代物さ!」


「それ完成しても世に出さないでくださいね……?」


「大丈夫だ! 薬師堂家の人間には手を出さないよう制御してある!」


 自我芽生えさせられたのに制御されてるのか……哀れだな。


「でも部長見てください。カズマくん二号めっちゃ部長のこと見てますよ。明らかに映画だと先に開発者始末されるパターンですって」


「心配するな! カズマくん二号はそんな子じゃない!」


「おい自分で考えた設定忘れないでくださいって。まだ見てますよ!? 部長と紅葉を交互に見てどっち先に始末しようか思考巡らせてますよ!?」


「うるさいうるさい! とにかくカズマくん二号は優しい子なんだ!」


 人間を消去対象にする自我が芽生えた子は優しいのか。

 初めて知った!


「行くんだカズマくん二号! 白石白瀬を叩きのめすんだ!」


 マズい、黒瀬!


《終了一秒前》


 ありがと。


 カズマくん二号は人類に報復する前に人類から報復を受けて鉄の塊となった。




「カズマくん一、あ、間違った。二号おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」




 名前間違えてたし、紅葉がタブレットいじって気にしてないところを見ると、相当大事にされてなかったことが窺える。

 そりゃ人類に報復したくなる気持ちも持つわな。


《持たされたんだろ》


 それな。

 ほら、やっぱカズマくん二号大事にされてないよ。

 部長直ぐ鉄のゴミ箱に捨てたもん。


 コーンって鳴ったよ、コーンって。

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