皮膚剥がされそうです




「ではご紹介しよう。まず一体目!」


 部長がエンターテイナーなノリをしだした。

 声に合わせて前進してきたのは、厚さがある巨大な円盤状のロボだ。


 前面には水色に発光する二つの玉があり、それが目とセンサーを担っているようでギョロギョロと動いている。

 足は無く、代わりに緑色のブラシが中央から下に向けて生えている。

 それを回転させ、移動を行っていた。


「巨大ル○バですか?」


「違う!」


 怒られた。


「発明ナンバー119【シンジくん十三号】! 元々は人体の余計な油成分や角質を瞬時に取ろうと考えていたのだが、なんか貢献しているようでつまらないから皮膚を引っぺがす超凶悪なロボへと改造した!」


「ひとつ前の思考に戻ってください……」


 この人の将来が怖いよ……。


「ごちゃごちゃ言ってないで服を脱ぐんだ、白石白瀬!」


「そっちの趣味あったんですか?」


「勘違いするな。俺様は女の子の身体しか見たくない」


「同感です」


 ひとまず黒瀬に代わってから鎖をすべて解き、そして戻ってから『プレシャス』登録を行う。


「く……プレシャス登録で気に留めてなかったが、その鎖はサイ・ゴリラ・ゾウでも砕くことの出来ない特殊合金で作ったんだぞ……!」


《楽だったと伝えておいて》


「そうですか。楽に壊せました」


「この野郎……まぁ良い! さっさと服を脱ぐんだ!」


「どれほど脱げば良いですか?」


「上半身のみで結構……! 背中から巻き取ってやる……!」


「うふふ……皮膚が一気に剥がしゃれるとどんな悲鳴を上げるのでしょうか……。楽しみでしゅ……!」


「まったくだ妹よ……!」


 サイコパス兄妹が両手の指を不気味にワシャワシャと動かしながら恐ろしい発言を日常会話の如く使用している。

 将来の世界平和のために太陽系へ飛ばしたほうが良いんじゃないのかと、正義の心が芽生えてきた。


《俺が阻止する》


 裏切り者が直ぐ傍にいやがったか……。

 取り敢えずシャツのみ脱ぐ。


 寝巻のまま誘拐されたから脱ぐのが非常に楽だ。

 唯一の抵抗と言えば、紅葉に見られているから若干恥ずかしい。


「それでは床にうつ伏せで寝てくれ!」


「はぁい……」


 部長に言われるがまま、床に腹を着けて寝そべる。

 妙に冷たくて気持ち良いのがなんか腹立つ。


「それじゃあ行くぞ……! 起動発進! シンジくん十三号ッ!!」


 この人が真面な思考を持っていてくれたら最高に格好の付く台詞なのに、敵側の指令にしか聞こえてこなくなった。


 音声認識で巨大ルン○の目が発光しだし、ブラシが回転を開始して徐々に接近してきた。


 黒瀬。


《ほいよ》


 因みにお前の皮膚で勝てそうか?


《任せとけ。以前お前が爆睡中に勝手に代わって、崖を背中で滑り落ちたけど傷ひとつ付かなかった!》


 あのとき妙に背中ヒリヒリしたのはそのせいか!

 あと相談も無しに変な実験するのやめてくれないかな!?


《来るぞ》


 げ、マジか!?

 頼んだぞ!


《おっけー》



 ブイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン



 うお、すげえブラシが当たってる音だ……。

 これ黒瀬じゃなかったら本当に皮膚持ってかれてるぞ……。

 ところで大丈夫なのか……?


《丁度良いマッサージ》


 気に入ったようで何より……。


「何故だ……。もうとっくに剥がされても良い頃だぞ……」


「お兄しゃま……!?」


「く……仕方がない……。電気代バカ高くなって親父お袋から半殺しにされるが、実験のためだ! 出力最大いいいいいいいいいいいいいッ!!!」


 予定通りに事が進まず悔しがった部長が、シンジくん十三号に指令を送った。

 ブラシの回転音が高速化したのが嫌でも聞き取れる。

 どう?


《あ~そこそこ。もっと下ら辺……。あ、そこそこ……!》


 余裕のようです。

 じゃあ黒瀬、電気代バカ高くならない内に壊しちゃえ。


《え、もう? あと五分──》


 やれ、命令。


《はぁい……》


 そして黒瀬はブラシが回転しているのも構わず、うつ伏せ状から仰向けに態勢を変える。


《ふんッ!》


 気合の一声が出ると、ブラシが停止した。


「なんだとッ!?」


 中央にブラシは生えていない。丸い空洞になっており、機械の本体が見える。


《おりゃ!》


 黒瀬はブラシを強く掴み、空洞に右足を入れてロボ本体を蹴り上げた。



 バギャン



 皮膚を剥がすはずが逆にブラシを剥がされ、蹴り上げられた本体が宙を舞う。

 数秒後、ドスンと重い音が響き渡った。

 床の揺れが納まってから黒瀬は立ち上がり、取り外した円形状のブラシをフリスビー宜しくで投げる。


 代わって大丈夫そうか?


《地味にヒリヒリするぞ?》


 まぁそれぐらいなら……良いか……。


《おっけー》


 黒瀬が引っ込むと、忠告通り背中から擦られた痛みが全身に伝わってきた。

 ナイロン製の布で高速に擦られたときのような痛みだ……。


 あとで背中見たら真っ赤に腫れてるんだろうな。

 服着て少しでも痛み和らげよ。




「シンジくん十三号おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」




 そして予想通り、発明品を破壊された部長の悲痛な叫び声が聞こえてきた。

 これは壊す度に聞かなければならなそうだ。

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