念願の委員長との下校!




「ん~! みんな、今週もお疲れ様!」


 両腕を天井に向け、背伸びストレッチする委員長の姿が本当に可愛い。


「お疲れ様でした」


「お、お疲れ様です……!」


「お疲れ様でぇす」


 国見と南先輩も疲労が顔に表れている。

 俺も疲れてますアピールをしないよう必死に表情筋を保とうとしたが、少しでも意識が逸れると自然と表れてしまう。


「さて、帰るか」


「そうですね。時間も時間ですし」


「し、白石くんは、このあと……生徒会か部活でしょうか……?」


「いえ、さすがに今日は休みます」


 この疲労感満杯の中、昨日のように重い物持たされたんじゃあ体力が持たない。

 黒瀬が動いてくれれば全部任せられるが、コハ姉で委縮するから出て来てくれないのは目に見えている。


《じゃあ部活行こうぜ》


 やだ、帰る。


《ヤダヤダヤダ行きたい行きたい行きたい!》


 明日休みだから深夜過ぎてもゲーム出来るぞ。


《さぁ帰ろうか》


 ちょろい。

 と、その前にコハ姉と琴葉、それに紅葉に欠席連絡入れとくか。


《なんでわざわざアイツに……。同い年の女二人にだけ連絡入れたほうが良いんじゃねぇのか?》


 琴葉にだけ連絡行ってコハ姉に連絡来てないって知られたら、明日俺たちの内臓全部無くなってるぞ。


《いやああああああああああああああああああああああああああああああ!》


 だから送るんだ。メンドいけど、自分の身を守る為だ。

 三人に一斉送信すると、数秒でコハ姉から返信が来た。


『そっか~、残念。じゃあ、また月曜にね』


 了承の内容だったが、これを数秒で打ち込んだと思うと驚異的だ。

 続いて琴葉、紅葉からも同じような了承の返信が来る。

 これで今日は拉致られなくて済みそうだ。


《ソウダネー》


 お前、また紅葉と巨大ロボが下駄箱で待ち構えているのを隠している訳じゃないよな?


《心配するな。今退散していってる》


 結局待ち構えられていたのか。

 コイツが黙ったときと棒読みになったときは要注意だ……。


「それじゃあ、帰るか」


 気付くと、三人とも帰宅準備を進めていた。

 俺も委員長に雑に放置された鞄を扉付近で見付け、肩に掛ける。

 考えてみたら、今日は念願の委員長との下校じゃないか!

 かぁー! 最高だぜ!


「どうだ? 今日は四人で一緒に帰らないか?」


 そして快晴だった精神世界が土砂降りに変わる。

 黒瀬が笑い転げているのを俺は見逃さなかった。


「すみません。今日は図書館に本を返却しに行かなければならないので」


「あ、あたしも……用事があるので先に帰ります……」


 そして再び太陽の光がギラギラと差してきた。


《お前んところの天気、変化激しいな》


 そういうもんだ。


「そっかぁ、残念だ。じゃあ白瀬、一緒に帰ろうか?」


「はい、帰りましょう!」


 まだだ……まだ堪えるんだ。

 嬉しいけど興奮を露わにしたら気持ち悪がられる。


《俺には手遅れだぞ》


 知ってる。


「あ~、あと日曜はボランティア活動があるから、朝八時に集合するように」


「はい」


「わ、分かりました……」



 ボランティア活動……?



「すみません委員長、ボランティアって……?」


「ん? 説明してなかったか?」


「一切説明されてません……」


「そうだったか。それじゃあ帰りながら説明してやる」


 それから国見と南先輩は先に教室を出ていき、残った俺と委員長は風紀委員室の鍵と書庫の鍵を以前と同様職員室に返却しに行った。


 あとは疲れた体に染み渡る癒し時間、委員長との下校だ。

 黒瀬の言う通り、今回科学部の拉致はなかった。

 歩幅を合わせ、正門から出て帰路に就く。


「それで、ボランティア活動って……?」


「ああ。毎月、第二週目の日曜日は、町内清掃をしてるのさ」


「それって、学校からの指示ですか?」


「いや、自主的だ」


「自分からやり始めたんですか?」


「そうだ。去年から、上級生がポイ捨てや騒音で近隣住民に迷惑をかけていたから、せめてものお詫びとして私が考案したのさ」


「じゃあ、もうやらなくて良いのでは?」


「そう言う訳にはいかない。こちらはもう迷惑をかけてません、だから掃除も終わり。なんて理由で活動を停止させてしまえば、また印象が悪くなってしまう。それに、町を綺麗に掃除していると、結構楽しいものだぞ」


「そうなんですか……」


 たまに家の掃除やってるけど楽しさなんか感じてこないぞ?


「という訳で、日曜は七時に登校するように」


「因みに何時までですか?」


「大体朝十時だな」


「二時間もですか……!」


 思ったより長時間だ。


「まぁ、掃除する部分が少なければ早めに終わらせることも出来る」


 今から掃除範囲聞いて、土曜の夜に清掃完了させておこうかな。


《変に時間が出来ると余計な仕事増えるからやめておけ》


 せやな。


「ところで白瀬は、いつも日曜はなにをしているんだ?」


「そうですねぇ……。主に逃げてます」


「……………………なにから?」


「〝悪魔〟からです」


「あ~…………」


 委員長は素早く察してくれた。

 買い物の付き添いと偽っての疑似デート陰謀を阻止するため、日曜は生死を賭けた逃走劇を現在進行形で繰り返している……。

 今のところ連勝中だ。


 それからは、互いの過去話や趣味の話と、なんの変哲もない会話が続いた。

 向こうは電車の為、途中までしか一緒に帰ることはできなかったが、その時間が豪く楽しかった。

 誤解も解けて委員長とも下校できて、今日はなんやかんや幸せだ。


《お前今幸せなんだから、ちゃんと俺の希望も通せよな?》


 分かってるって。徹夜で攻略してやろうじゃねぇか。寝んなよ?


《そりゃこっちの台詞だ》


 そう言っておきながらの深夜、〝俺たち〟は結局爆睡した。

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