変態仲間ができました。
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「彼女って……誰のこと言ってるのですか……?」
何となく予想は掴めたが、敢えて尋ねる。
「だ、誰って……き、昨日の…………キャッ!」
咄嗟に南先輩は顔を手で覆った。
「もしかして……泉さんのことですか……?」
「な、名前は知りませんけど……き、昨日押し倒してた……お、女の子……キャッ!」
再び手で赤面する自身の顔を隠した南先輩の発言で、琴葉=〝俺の彼女〟という向こうの勘違いを理解することができた。
ははは……なぁるほどぉ……。
机を思いっ切り叩いて立ち上がった。
「違いますッ! 琴葉は俺の彼女じゃありません!」
「ひぃッ!? ひ、必死になってるところを見ると、よ、余計怪しいですッ!」
「違いますお願いですッ! 自分の話を聞いてくださいッ!!」
「ひぃッ!? わ、分かりましたッ!!」
そして何とか強引に昨日の一件を説明することができた。
「そ、そういうことだったんですか……」
「はい……無事理解してもらえて助かりました……」
「で、でも……間違いなら間違いで、あ、朝の段階で直接……れ、麗奈ちゃんに言えば良かったのでは……?」
「自分もそう思いましたが、委員長に話したところ、活動前のピリピリしてる状況で説明しても、相手は本質的に理解してくれないってことを教えてもらいましたので……」
「た、確かに……。あ、あたしも緊張してる前とか……な、なに言われても頭に入って来ませんし……適当にハイハイ言って、お、終わりだと思います……」
「そうですよね? だから説明できませんでしたし、例え自分から言っても向こうは素直に対応してくれません。なので泉さんから説明をしてもらおうと頼んだのですが……見事に忘れられました……」
今度見掛けたら体重制限で食べられないっていう甘い菓子大量に食べながら横切ってやる。
《地味な嫌がらせだな》
「あ、あのぅ……」
「はい?」
「その『泉さん』って、し、下のお名前……な、なんて言うのでしょうか……?」
「え? こ、『琴葉』です」
「へ、へぇ……。い、『泉琴葉』ちゃんかぁ……」
どこか妙にニヤけた表情を浮かべ始めた。
「ど、どうしたんですか……?」
「エヘヘ~、ショートボブであれだけ可愛い顔してるなら……ホワイト系のスカートとか似合うんじゃないのかな~って思いまして……」
「え、ほ、ホワイト系……?」
いつもの非流暢が嘘かのように、昨日の暗闇ver.とはまた違った口調でスラスラと発言し出した。
「他にも、デニムやロングワンピースとかが似合いそうですよね~……」
「…………」
幸せそうに喋る南先輩を前に、俺は唖然として聞くことしか出来なかった。
「…………へ、あッ!?」
しかしこちらの反応に感付いたのか、慌て出した。
「そ、その……ち、違うんですッ! か、可愛い子を見ると、つ、つい似合いそうな服装を考えちゃって……ッ!」
その台詞を琴葉本人が耳にしたらどれだけ喜んだだろうか。
調子に乗ると思う為、心の中に留めておく。
「もしかして……ファッションとかお好きなんですか?」
「い、いやッ! まぁ、好きは……す、好きですけど……。ど、どちらかと言うと……他人が似合いそうな服装を考えてあげるほうが、す、好きと言いますか……」
自身の両人差し指をツンツンさせつつ、先ほどより顔を赤らめさせた。
「きょ、去年、コーディネート系のゲームを買いまして……そ、それをしばらくやっていたら、ゲームの中だけじゃなく……げ、現実の可愛い女の子も、こ、コーデしてあげたくなってしまって……」
「そうなんですかぁ。因みに……男性とかは?」
「お、男の子は……は、恥ずかしくて想像、で、できません……ッ!」
それはそれで少しショック。
「となると……委員長や国見も、妄想でコーディネートしたことがあるのですか?」
「は、はいッ! もちろんですッ!」
「じゃあ……委員長って何が似合いそうですか……?」
因みに俺は、落ち着きのあるファッションをイメージしている。
「そ、そうですねぇ……。麻美さんは、大人な雰囲気が、あ、ありますから……ノースリーブニットに、カーディガンとかが似合うと思います」
正直ファッションには疎いから、南先輩の発言しているカタカナは全て復活の呪文としてインプットされた。
「では、国見は……?」
「れ、麗奈ちゃんは……スウェットワンピースとかが似合いますねぇ」
わ、ワンピースだとッ!?
真面目な国見のことだから、下から見える服装じゃなくジーパンとかその辺りを着るんじゃないのか!?
《あくまで想像だろ?》
ま、まぁ確かにな。
でもワンピースか……ああいうキッチリ系が着たらギャップがあって良さそうかもな。
取り敢えず出て来る服の単語は未知の領域であったが、基本的な名称は理解していたことで大体のイメージは出来た。
これは納得レベルで楽しい。
今日から俺もコーディネートしてみるか。
委員長にメイド服着せたり、国見に巫女服着せたり。
《お前のそれコーディネートちゃう。ただの性癖や》
「ほ、他にも、生徒会長さんや、ふ、副会長さんのも考えたことが……あ、あります」
会長かぁ……金持ちだし、赤い宝石をこれでもかと象徴したようなドレス着てそう。
《お前それ腰にベルト巻き着いてないよな?》
指輪も追加しようか?
「ま、まず会長さんですが……七分丈のパンツに、シンプルなTシャツ……それにロングパーカーが似合いそうです」
ふむ、さっぱり分からん。
パンツ……?
会長さん痴女にでもなるのかな?
「さ、最後に……副会長さんは―」
コハ姉ねぇ……そう言えばしばらく私服姿なんか見てないな。
《逃げてるからな》
そうだな。そりゃ見掛ける回数も減りますわ。
まぁでも、小さい頃はワンピース好きって言ってよく着てたし、大体その辺りだろう。
例え他の種類を言われたとしても、知識不足だからイメージできないし、これから見ることも無さそうだから適当に聞き流しとくか。
「黒タイツにショートパンツ、ノースリーブの縦セーター」
すっごい良くイメージできました。
ショートパンツに関しては、以前妹が説明してくれたから記憶の片隅に残っていた。
あ、パンツってズボンのことか……。
今聞いて思い出した……。
そしてノースリーブの縦セーター、これは深夜のバラエティ番組で何回も視聴したからワード保存は完璧、黒タイツはアニメで名称を知った。
全服の種類が分かった上で、それを脳内でコハ姉に着せてみる。
黒瀬が騒ぎ始めたが気にしない。
…………うん、悔しいけどよく似合っている。
これならいつでも男寄り放題だ。だから早く俺を諦めてくれ。
「あと、あとですね……!」
今までにない盛り上がりを見せる南先輩の勢いは止まらなかった。
「下着! 下着もイメージしているんです!」
「へ……下着……?」
意外な人物から意外なワードが飛び出し、思わず聞き返してしまう。
「はいッ!!!」
過去聞いたことの無い南先輩のド豪く元気な返事を耳にした。
しかも口角は限界まで上がっており、目は見開いていた。
鼻息は荒く、両手は何も無い虚空を握って揉んでいるように見える。
あ、分かった……。
この人、スケベだ……。
《良かったな。仲間だぞ》
うるさい。
「あたしもう可愛い女の子大好きなんです! 特に服装とかイメージする際は、まず全裸にさせて下着から構成していくんです!! デザインというより色ですね!!」
あの寡黙は何だったのかと言わんばかりのブチ壊れ方だ。
「まず、まずですね! 生徒会長さんは、絶対上下水色が似合うと思います! あの御淑やかさで、時折見せる冷酷な一面から余裕一発で連想できました!」
なるほどねぇ。確かにあの冷ややかな目ならベストマッチする。
だけど実際はいてた色は……く──。
《思い出すな。俺は下劣な事が嫌いなんだ!》
ごめん。
「次は、次は! 副会長さん! あの人なら、紫とかが最高に良いと思います!」
コハ姉が紫……〝毒〟ってイメージか?
「そして琴葉ちゃん! あの子は……あの子は縞パンがグットです!」
そっかぁ、縞パンか……。今度似合いそうだぞって声掛けとくか。
《顔面に蹴り入れられて絶縁だな》
うん。
ん? ここまでで生徒会メンバーは終わったか……ということは!?
「南先輩……次はいよいよ……ここ(風紀委員)のメンバー……ですか?」
「はい!」
元気な返事が俺の感情を更に高ぶらせた。
「まず麗奈ちゃん! 清廉潔白なあの子は、なんと言われようと純白が絶対ぜーったい似合います!」
「分かります! あれで純白以外なら期待はずれです!」
どうしてか、気付いたら俺も同様興奮して一緒に盛り上がっていた。
《…………》
「そして最後は……」
「委員長……!」
委員長のイメージは出会った当初から思い浮かべていた。
恐らく南先輩も同じイメージを持ってくれていると思う……。
「麻美さんに似合いそうな下着は…………〝黒〟」
イェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
シンクロ率イメージともにピッタリ!
南先輩のセンス最高だッ!!!
《…………》
気付くと俺は興奮から起立し、ガッツポーズを天井に向けて突き出していた。
「その反応……白石くんもイメージ済みってことだったんですね?」
「はい……! 委員長に似合う色は〝黒〟……。これだけは変えずにイメージを継続させてきました……!」
「そうですよねそうですよね! それにさっき麗奈ちゃんのときも純白を肯定してましたし、あたしたちきっと意気投合できるんじゃないのでしょうか!?」
「そうですね!」
俺と南先輩は互いの両肩を掴み、『プレシャス登録』を行った。
ガラッ
勢いよく扉が開けられたのは、その数秒後だった。
「…………」
「…………」
南先輩と同じ速度でゆっくりと扉の方に顔を向ける。
「…………」
「…………」
委員長と国見が立っていた。
委員長は顔を赤らめ、こちらと視線を合わせないよう意識をどこかに飛ばして床に焦点を合わせていた。
一方、顔を俯けていた国見は、次第にわなわなとしだした。
掴んでいた扉がガタガタと音を出し始める。
「え……っと……国見……さん……? もしかして……聞こえてましたか……?」
「はい……廊下まで響いてました……!」
発せられた声音は、いつもより低かった。
「ど、どこから……聞いてましたか……?」
「わたしの下着の色が純白以外なら期待はずれなところからです……」
なんでまたそんなタイミングで……。
「あ、あの~……え……っと──」
「れ、麗奈ちゃん。こ、これには、じ、事情があるんですッ! は、話を──」
南先輩が助け舟を出してくれた。
「……ていです……」
しかし国見に遮られた。
だが僅かな部分しか聞き取れない。
「「は、はい……?」」
「最低です……」
二人で聞き返すと、国見は聞こえやすい声量でリピートしてくれた。
そこから俯けた顔を上げると、怒りというよりも絶望した表情を浮かべていた。
目は正に希望を失い欠け、薄暗く濁っていた。
「実力行使以前の問題です……。ここまで変態な人間とは思いませんでした……! 早朝真面目に挨拶運動と服装検査を行ってたので……昨日のことは理由があるのだと冷静に考え……誤った解釈を謝罪しようとしてました……」
そしてファイルと、押収したであろう娯楽品の入った袋を落とし──。
「でも、やっぱり誤解じゃなかったんですね……。男という生き物は……女性を精の欲求の道具としか見ていない……! 愛なんて無しにただ自分がスッキリしたいから女性を押し倒し、挙句の果てには一人だけじゃ飽き足らず……他をそういう目で見て下半身の肥やしにする……。最低です……! 最低です……!! あああああああああああッ!!」
絶叫して走り去ってしまった。
今の彼女は、風紀委員の自覚を忘れてしまうほどのショックが芽生えてしまったのだろう。
未だ委員長は何も発言せず、ただ顔を赤らめて床を見詰めていた。
俺は南先輩の肩から手を離し、黙って廊下に出る。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
肺活量が良いのか……まだ絶叫は続き、国見は廊下の奥に消え去った。
黒瀬……。
《なに……?》
お前、近付いてくるの気付いてたろ?
《イグザクトリー》
なんで教えてくれなかったの……?
《俺の嫌いな下品な話ばっかするから……》
…………。
次の瞬間、俺の視線は廊下で埋め尽くされた。
四つん這い姿勢になった証拠だ。
一人の誤解は解いてもらえたが、もう一人に関しては解けてない以前に最悪な誤解が上乗せされた。
自然と涙を出しながら、精一杯の声を出した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
《うるさい》
ごめん……。
穴があったら入りたい……今まさにそういう気分だった。
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