彼女? なにそれ美味しいの?
「アイツ……まだ誤解解いてくれてねぇのかよ……」
早朝の服装検査&挨拶運動を終えてから時は進み、昼休みとなった。
琴葉は、未だ国見に俺の誤解を説明せずにいた。
始業ベルが鳴る前に生徒会メンバーは退散し、その時にでもこっそり弁明をしてくれれば良いものの、ころっと忘れて教室に戻りやがった。
それから休み時間中にひょっこり来て言うのかと期待はしていたが、見事に裏切られた。
おかげで遅刻指導を終えてから教室に戻って以降、今の時間まで目を逸らされまくる始末。
幸い今日の昼休み巡回担当は、前半が委員長と国見、後半は俺と南先輩だった。
これでまた国見と一緒であったら、昨日のように同行はしてもらえなかっただろう。
本来なら無断欠席したいところ、そうもいかない。
憂鬱な気持ちを抱えつつも、風紀委員室に向かう。
交代までまだ時間はあるが、向こうで昼食を済ませ直ぐ交代可能な体制でいることが大切だ。
しかし、扉を開けて中に入ると、既に一人いた。
「あ……し、白石くん……」
南先輩だ。
「あ、お疲れ様です……」
「お……お疲れ様です……」
「…………」
「…………」
超気まずい……。
南先輩にも未だ誤解されたまま。
もし向こうが交代の時間ギリギリになって来てくれれば、分担場所を決めるだけの必要最低限な会話だけで済ませられると思ったのに。
ここから二十分近く、同じ場所で待機しなければならないのか……。
だからと言って去るのも、相手からして見たら後ろめたい事があるから出て行ったのだと、誤解の件を認めてしまう追い打ちにしかならない。
ならば―。
「先輩も……今から昼食ですか?」
「は……はい……」
同じ空間に滞在し、隙を狙って誤解であった事を伝える。
冒頭いきなり言ってしまえば、必死さからその逆と捉えられる可能性も高いからだ。
「自分もなんですが、一緒に良いですか?」
「い、良いですよ……」
これが国見なら十割で拒否られたが、優しい南先輩なら了承してくれると信じていた。
取り敢えず弁当を広げ、食べ始める。
今日も適当に冷凍食品を詰めてきた中身だが、美味いからオッケー。
一方南先輩は、購買のサンドイッチを静かに食べていた。
しばらくは二人してのモグモグタイムであったが、徐々にいたたまれない空気に押し潰されそうになった。
「ま──」
意を決して口を開く。
「前から巡回中にふと気になってましたが、南先輩ってそのサンドイッチよく食べてますよね?」
《ストーカーかな?》
うるさい。
「は、はい……。お、美味しいので……」
「へ、へぇ。それじゃあ自分も今度買ってみようかなぁ」
「…………」
「…………」
そこから会話は続かなくなり、再度静けさに支配された。
昼食を済ませた後も、どちらかが先に口を開く訳でもなく、お互いスマホをいじってばかりだった
マズい、このまま会話を再開させないと解いてもらえるものも解いてもらえない。
どのタイミングで昨日の件を上手く引き出し、誤解であったと伝えるか……。
《日常会話から入れば?》
それだ……!
「いやぁ、それにしても今日は良い天気ですねぇ?」
「ご、午後から大雨警報と出てました……」
「いやぁ、それにしても今はラーメンが美味しい季節ですよねぇ?」
「ず、ずっと美味しいと……お、思います……」
「いやぁ、それにしても、サンムーンって最高ですよねぇ?」
「る、ルビーサファイアも最高だと……お、思います……」
会話が続かねぇ……!
《お前下手くそか?》
「あ、あの……ッ!」
すると南先輩が語気を強くしてきた。
「ど、どうしましたか……?」
「そ、その……あの……」
いつもの倍以上顔を赤らめ、重そうな口を開け始めた。
「あ、あたしといるところを……か、彼女さんに見られたら……お、怒られちゃいますよ?」
………………………………………………………………………………………………?
彼女の言葉は753秒掛かっても理解できなかった。
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