幼馴染1号 VS 幼馴染2号
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生徒会メンバーの服装検査を済ませ、正門を通す。
活動する際に必要な物を持ってくるようで、手伝いに行こうかと声を掛ける前に、会長から正門での待機を言い渡された。
それから数分後、一同は戻ってきた。
各役職名の腕章を着けて。
「はい、白石くん。アナタ専用のモノです」
会長が近付いて渡してきたのは『生徒会・庶務』の文字が刻まれた紅色の腕章だ。
白い線が文字を上下で挟んでおり、役職名を主張していた。
「え……っと、これ付けるんですか?」
「もちろんです」
「…………右に付けても良いですか? 二つも左に付けると邪魔なので……」
「う~ん……仕方がありません。構いませんわ」
許可を得て腕章を右の手先から通し、二の腕辺りまで登らせてピンで止める。
改めて見ると、ふざけた格好だ。
だがこれが現実、『風紀委員』兼『生徒会・庶務』の白石白瀬が誕生した。
「わぁ~、腕章が二つも。カッコイイね!」
琴葉が悪気無しに素直に褒めてきた。
俺も最初はカッコイイと思ったが、如何せん冷静に考えると只の欲張りセットだ。
「それでは、今から生徒会メンバーによる挨拶運動を行っていきます」
正門から少し離れた場所で会長が号令を掛けた。
そこから説明が始まる。
声はハッキリ、お辞儀の角度は大体十五度前後、立ち姿勢は女性陣の場合、踵を付ける。
反対に男性陣は間隔を少し開けて良いが、片足寄りにならないこと。
手は男女とも必ず前で合わせる。
以上の点を踏まえ、生徒会の挨拶運動は開始されるようだ。
しかし風紀委員の活動もする身の俺は、イレギュラー対応で立ち方と手のみ遵守(じゅんしゅ)しなくて良いと許可を貰えた。
ただし挨拶時は必ず大きな声を出すよう念を押された。
配置場所は風紀委員と同じように正門前、そこから二対三で二手に分かれる。
当然会長は船岡を指名し、船岡は国見が待機する場所を選んだ。
残ったコハ姉・琴葉・俺は、委員長と矢本先生が待機する方面に向かった。
「おぅ白石。生徒会に風紀委員の掛け持ちとは、偉くなったなぁ?」
二つの腕章を見て矢本先生がまたからかう様に発言してきた。
「ま、学園に足跡残したいですから」
それに適当に答える。こういう時の返事は真面目に答えると面白くなくなる。
「あははー、言う様になったなぁ! さすがウチの生徒だ」
朝とは思えない元気さで高らかに笑われ、うるささから指で一瞬片耳を塞ぐ。
「先生、近所迷惑になりますので、もう少しボリュームを下げてもらえますか?」
隣に立つ委員長が忠告してくれた。
「ごめんねぇ。でもあたしゃあコレが普通なのよ」
まぁ確かに、これぐらい気迫が無いと生徒指導なんて務まらないからな。
「えっへへぇ~」
今度は反対隣の琴葉が嬉しそうな声を漏らした。
「どうした?」
「ん~? だってシロが風紀委員してるところ間近で見れるからさぁ」
それが何故嬉しそうなのか、若い者の考えていることはよく分からん。
「そう言えば今日、朝練は?」
「金曜は無いの」
「そうなのか」
「前から挨拶運動してるところ見てくれてなかったの?」
「ごめん、見てなかった」
高速で駆け抜けてたから。
「ちぇー、シロって本当に人に興味持たないよね?」
「ただ余裕が無いだけだ。あ、そうだ。琴葉」
「なに?」
「昨日の件、国見に誤解されたままだからさ。これ終わった後でも放課後でも良いから弁明してもらえないか?」
「あ、うん……別に良いけど」
「昨日の件って~?」
コハ姉が間に入ってきた。
どうしてか瞳に光が灯ってない。
え、早くも怒りMAXですか?
「なんだかぁ、二人とも楽しそうに話してるな~って」
「そりゃそうですよ。幼馴染なんですから」
「ウチもなんだけどなぁ。しかもぉ、ウチのほうが物心付いた時からず~っと一緒だったんだけどな~?」
「そんなこと言ったら、アタシなんか小学校から中学三年までシロとず~っと同じクラスで休み時間中もず~っと喋ってましたから!」
「ふぅん……。そんなことよりぃ、昨日の件って~?」
「はい。シロがアタシを守ってくれたんです」
「…………」
「琴葉。簡潔にまとめ過ぎだ……!」
黒瀬にしか感じないはずの殺気が俺にまで伝わってきた。
《二pんドンcjdsンkdlmdl;インsdンvfdンvfdンlgvjflm》
黒瀬落ち着け。自害は早い!
「白瀬……説明してやれ。こっちも気分が重くなってきた」
委員長が呆れた口調で言ってきた。
「うん、何だかあたしも具合悪くなったと同時に聞きたくなってきた」
先生の具合悪いは嘘だ。目をキラキラ輝かせて興味津々の態度だ。
仕方ね……話すか。
「はぁ……。昨日一階で生徒会の活動中、飛んできた野球ボールが泉さんに当たりそうだったので、咄嗟に押し倒して助けたってことです」
「おぉ~」
先生が大袈裟に拍手をした。やめてくれ恥ずかしい。
「そりゃ不幸中の幸いだったねぇ。窓とかは割れなかったのか?」
「はい! 換気用に開けられてて、被害は最小で済みました!」
代わりに琴葉が答えてくれた。
「ん、一階? 窓……あ、ごめん。開けたのあたしだ」
「先生だったんですか!?」
「ああ、換気で数分開ける予定が、閉めるの忘れてました★」
「…………」
俺は今怒って良いのか感謝して良いのか迷っている。
もし先生が窓をキチンと閉めてくれていたらガラスの破片が散らばり、国見たちに変な誤解をされなくて済んだ。
だがその分、もしかしたら破片が飛び散って琴葉が多少ケガを負っていたかもしれない。
仮に眼球に入って、それが原因で失明にでもなったら可哀想だ。
大したケガも無く仲間から変な誤解を受けて精神的に参るか、琴葉がケガを負うか。
どちらにせよあの野球部は許さん。もういないと思うけど。
「とにかく昨日はシロに守ってもらったことで、アタシもこうして普通に登校できたって訳です。ありがとうね!」
その言葉は嬉しいが、時と場所を選んで欲しかった。
「…………」
殺されそうです……。
「シーくん?」
コハ姉の声が二重に聞こえた気がした。
「なんでしょうか……?」
「今日の放課後、一緒に野球部の練習見に行かない?」
なに自ら危険な場所に行こうとしてるの?
どっちかって言うとアナタ、平然と投球されたボールをキャッチして剛速球で返すタイプでしょ?
中学の時それで野球部顧問の腹に風穴開けてたじゃんか。
「岩沼、出来ればそれは勘弁していただきたい」
「……どうしてですか~?」
「本人は風紀委員メインで活動していくんだ。二日連続欠席してもらう訳にはいかない」
「そうですかぁ、分かりました~(チッ)」
我がままを諦める代わりに、舌打ちでコハ姉は事を済ませてくれた。
「さ、駄弁るのもここまで。ほら、登校して来たから活動開始だ!」
先生の掛け声からコハ姉と琴葉が姿勢を正し、俺と委員長はバインダーを持ち直す。
こちらが準備し始めたのを合図にしたのか、反対側メンバーも同じような行動を取った。
さて、三日目……スタートだ。
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