服装検査と挨拶運動と俺の意見無視ですか……

 金曜日と言えば、明日から二連休が始まるという楽しみから、誰もが朝からテンションの上がる曜日であると一般的に言われている。


 しかし俺は、朝から吐瀉物が出そうな程に気持ちのボルテージが下がっていた。


「…………」


 物凄い軽蔑の眼差しを受けているからだ……。


 昨日の放課後、剛速球で投球された野球ボールとの衝突から守るため、俺は琴葉を押し倒した。

 人助けをしたはずが、後程現場を見に来た国見と南先輩からは、堂々と破廉恥な行為を取る不純異性交遊と捉えられてしまった。


 おかげで早朝挨拶をしても、国見からは断固無視される始末。

 更に南先輩からは―。


『彼女さんとイチャイチャするのは構わないですけど、場所を考えてください』


 などと、変な勘違いまで追加されてしまった。


「なぁ、白瀬。麗奈と何かあったのか……?」


 幸い、委員長には情報が共有されていなかったようで、状況を尋ねられた。


「いやぁ……実は―」


 俺は昨日起きた出来事を説明した。


「なるほど。それなら今言うのは逆効果だ」


「何でですか?」


「そりゃあ、活動前だからに決まっているじゃないか。ただでさえ今は失敗をしないかと集中してピリピリしている。そんな余裕の無い中で弁明されても冷静に対応するのは難しい。しばらく様子を見て、向こうが余裕ありそうなときに改めて話し掛けてみたら良い」


 さすが委員長、状況把握もバッチシ。

 そうだよな。俺も忙しいときに〝あーだこーだ〟言われたらイラつくもんな。


《そして俺に交代してぶっ飛ばさせると》


 多分そうなる。ところでどこまで飛ばせそうだ?


《大体ブラックホール付近まで……》


 お前スゲェな。


 黒瀬の新たな能力のインプットを済ませると、正門前の車道に会長と船岡が乗ってくる黒いリムジンが停車した。

 珍しいなぁ。朝練組よりも早いぞ。


《…………ッ!?》


 いつもの流れで黒服が運転席から登場し、ドアを開ける。

 予想外の到着時間にも驚いたが、車内から出てきた人物たちを見てもっと驚いた。


「おっはおっはー、シローッ!」


「シーくぅん。おはよう~」


 会長と船岡だけではなく、コハ姉と琴葉もいたからだ。


《mvfんsヴぉんDふぉvmfd・vmf・mlkmfklmgfm》


 また予想外の人物の登場に、黒瀬が通常通り狂った。

 一瞬強張ったのはコハ姉を察知したからか。


 そして生徒会メンバー全員集結を前に、隣の委員長は不機嫌極まりない表情を隠すことなく露わにしている。


「風紀委員のみなさん、おはようございます」


 会長の挨拶に、委員長以外が挨拶を返す。

 そこから一応生徒会の一メンバーとして、俺から話し掛ける。


「会長、今日は随分早い登校ですね」


「えぇ。だって、朝の挨拶運動がありますから」


「挨拶運動……?」


 そういや偶にやってたな。

 コハ姉に見付かりたくない一心から黒瀬の走力で目の前駆け抜けていたからあまり覚えていないけど。


 というか―。


「えぇ……っと、自分聞いてませんが……」


 今日するなんて初耳だ。


「はい。どうせ白石くんは風紀委員の活動で朝いる事は確実ですから、当日に直接お話をする予定でした」


「へ、へぇ……それで全員で登校ですか?」


「はい。遅刻されては困るので、必ず迎えに行っているのです」


「そ、そうなんですか……」


 連絡以外は、案外しっかりしているんだな……。


「ふ、生徒会長といのも大したことはないな。活動内容なら、前以て連絡を入れるのが普通だと思うが?」


 気分が動転していると、横から委員長が煽り発言をしてきた。


「申し訳ありません。ワタクシの普通とアナタの普通を一緒にしないでもらえますか? とても迷惑です」


「あ……?」


 しかし会長の返しに、委員長は怒りマークを出してしまった。


「ま、まぁ、こうして自分も活動内容を知れた訳ですし、結果オーライじゃありませんか!?」


「そうですね。そう捉えていただけると助かります」


「それに委員長も、自分なんかのフォローに入っていただけて凄く嬉しかったです。ありがとうございます!」


「お、おぅ……」


 とにかく今はこの二人の接近を妨害しないと!

 大惨事対戦が始まる……!


「それで白石くん、急な頼み事なのですが―」


 会長が改まった態度を取ってくる。

 次の展開、何となく読めたぞ……。


「風紀委員の業務を行いながら、挨拶運動にも参加していただけますでしょうか?」


 やっぱりねぇ。


「新田さんも構いませんよね?」


「ああ……だがこっちが必要なときは返すんだぞ?」


「えぇ、分かりました」


 あのぉ……物の貸し借りみたいな表現やめてもらって良いですか?

 俺の心の叫びは悲しくも届かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る