本日は生徒会の活動優先
昼休みの担当交代時、委員長に生徒会優先の件を伝えたところ、苦い表情を浮かべられながらも了承を得た。
HRが終わり生徒会室に向かおうと教室を出ると―。
「白瀬くん」
「シロ―!」
船岡と琴葉に呼び止められた。
隣のクラスは、一足早く終わっていたようだ。
あ、投球された砲丸が船岡の頭頂部目掛けて──避けたか。
「会長から聞いたよ。今日は直接生徒会に来るんだってね?」
「あぁ、脅されたから」
「嘘でも良いからそこは行きたかったからって言ってよ……」
「行きたかったから」
「今更~!」
俺と船岡の掛け合いで、琴葉が笑う。
この空気も中々悪くない。
《これから地獄に変わるけどな……》
そう言うなって、我慢しろ。俺だって我慢してるんだから。
《なぁ……今日は科学部の奴が待ち伏せてても逃げてやるから、今からでも風紀委員のほう行かねぇか……?》
ダメだ。
コハ姉もそうだが、あの人の機嫌を損なわせる行動を取れば俺はアラフォー女と同棲させられる。それだけは絶対嫌だ!
《分かったよ。じゃあ今日は何があっても呼ばないでね……》
ああ、いつものように委縮しててくれ。
「あ、麗奈さん!」
船岡が教室から出てきた国見に声を掛けた。
「これから風紀委員に行くのですか? でしたら途中まで一緒に──」
「ごめんなさい。出来れば〝地球上の生物〟と一緒に歩きたいのです」
俺が船岡だったら泣いてる暴言だ。
「それに今急いでるんです。誰かさんの代行で放課後の当番にされてしまいましたので」
「ははは……悪いって。今度なにか奢るから」
「いえ、結構です。白石くんが来るまでは普通でしたから慣れてます。では失礼します」
変わらない冷たい態度で会話を終わらせ、国見は風紀委員室のある方へ歩いて行った。
「麗奈さん、いつになったら僕に心を開いてくれるんだろ?」
そして船岡に至っては鬼メンタルで国見への想いを寄せる発言をした。
「ねぇ、シロ……」
「なに?」
琴葉が耳元に顔を寄せてきた。
「船岡くんって、国見さんのことが……す、好きなのかな?」
「だろうな。傍から見て片思いのようだが」
国見のあの対応で両想いなら歪んだ愛過ぎる。
「へぇ、なんか応援したいね?」
「ああ、いずれメンタル壊れそうだからな」
「……なんの話?」
「こっちの話」
「ふぅん、ところでさ。シロには……好きな子いないの?」
「いない」
《ダウトッ!》
うるさい。
「そ、そうなんだ。へぇ……」
《女、騙されるな! コイツは風紀委員のボスに惚れて入っちまうような変態だ!》
今日は俺からコハ姉に接近してみようかな。
《いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!》
冗談だ。
考えてもみろ。ここで〝いる〟って答えて、その情報がコハ姉の耳に入ってみろ?
俺たちは翌日ハンバーグにされてしまう……。
《いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!》
落ち着け。だから身を守るための嘘は大事なのさ。
「お二人さん、なに仲良くコソコソ話してるのかな?」
「あ、ううん! なんでもないよ! ていうか、仲良くって……え?」
「うん、仲良さそうで羨ましかったよ」
「えぇそんなそんな!? アタシたち、そんな仲じゃ!」
《分かりやすい慌てぶりだな》
なんでこんな動揺してるんだ?
《お前マジか……》
なにが?
《いや、いい……》
ん? なんなんだ?
「そ、そんなことより、早く生徒会室に行かない!? 会長さんたちもう来てると思うし!」
「それもそうだね。それじゃあ行こうか」
「了~解」
なぜ琴葉が慌てているのか、なぜ船岡は羨ましいと思ったのか、なぜ黒瀬は何も教えてくれないのか……理解不能のまま歩を進ませる。
三階に繋がる階段に向かう途中、複数の視線を浴びた。
そりゃそうか。
陸上部期待の新人と言われている琴葉、学内顔面偏差値トップレベルの船岡、そして悪魔と恐れられている俺、これほど奇妙で珍しい組み合わせは他にない。
生徒会メンバーと言っても信じてくれる人が何人いるのやら。
そんな思考を巡らせながら、三人で三階に上がる。
「「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」」
そして本日二度目の三学年の悲鳴を聞いた。
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