三年の悲鳴

「ずみばぜえええええええええええええええええええええええええええええええええん」



「ごべんばざいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」



「ごろじゃないでえええええええええええええええええええええええええええええええ」



 三階廊下および三年の教室を巡回している最中、よく聞こえた悲鳴が以上三つだ。


 不要品に関しては、一部持ってきている者がいたが、全員自ら差し出してきた。

 おかげで名前を聞きそびれ、更に誰が何を出してきたのかも認識することは不可だった。


 だが時間短縮は出来た。


 三階を降りた後も、上級生の悲鳴が僅かに残っていた。

 耳がキーンとする……。


「白石くん……アナタ、どれだけ怖がられているのですか……?」


「俺が聞きたい……」


 人前では疲れを表に出さない国見が、珍しくげっそりしていた。


 《俺の力って偉大だな》


 黙ってろ。


「さ、気を取り直して。次は外に行きましょう」


「え、交代まであと五分だし、そろそろ──」


「遅延のことは委員長に報告済みです。駄々を捏ねる前に早く行きましょう」


「はい……」


 《お前この女の言いなりだな》


 笑うな。


 黒瀬の嘲笑にイラ付きつつ一階廊下を歩き、下駄箱に向かう。


「お。」


 すると目の前で袋を引き摺る人影を発見。

 袋の中にはボトルキャップが大量に集められていた。

 そして見たことのある後ろ姿。

 声を掛けようと、国見よりも歩を少し早く進ませる。


「よ、琴葉」


 背中を軽くポンと叩き、その人物の前に出る。


「あ、シロー! それに国見さん、こんにちは!」


「こんにちは……」


「ねぇねぇ、さっき三階で悲鳴が聞こえたんだけど、なにか知らない?」


「えぇ~っと……知らないなぁ……」


 咄嗟に誤魔化す。

 国見も阿吽の呼吸で黙秘してくれた。

 俺が怖くて三学年が泣いたなんて説明したら、変な噂がまた広がってしまう。


「そっかぁ、何だったんだろう?」


「と、ところで今日は琴葉がエコ活動の当番なんだな?」


「そうそう。正解!」


 どうりでいなかった訳だ。


「いや~お昼取るのこれ終わったあとだから、早く終わらせたいよ……」


「そっかぁ。俺たちと一緒か」


「え、シロと国見さんもこのあとご飯?」


「イェス」


「はい……」


「じゃあさ、三人で一緒に食べない?」


「あ~良いかもな。国見は?」


「せっかくのお誘いですが、遠慮させていただきます。このあと回収した不要品を、各学年クラスごとに仕分けする仕事が残っていますので……」


「へぇ、わざわざそんな事もするのか」


「はい。学校に不要な物ではありますが、どれも大切な物でしょうから雑には扱えません」


「ふぅん、そうなのか」


「昨日委員長がひとつ回収した際、その作業見ていなかったのですか?」


「制服に付いた土やら掃うのに夢中になって気にしてなかった……」


「まったく……」


 呆れられてしまった。

 それにしても、この量を一人でやるとしたら、余計昼食の時間が削られるだろうな。


「琴葉、悪い。俺も遠慮しておくわ」


「あれあれ? なんで?」


「なんでって、風紀委員の仕事優先だから」


「別に手伝わなくて大丈夫ですよ」


「いいや、さすがに仕事放棄は出来ない」


 《それにもし眼鏡女だけが作業して、お前はパッツン女子とお食事してました──なぁんてボスに知られれば、表判悪くなることは確実だからな》


 解説どうも。


「なぁんだ、残念」


「悪いな。また今度ってことで」


「はぁ……おけおけ。期待しておくよ」


「あの、白石くん。そろそろ──」


「ああ、わりぃわりぃ。そんじゃあ琴葉、また放課後に」


「うん、ガンバガンバー」


 琴葉に見送られながら、俺と国見は下駄箱に到着し、中履きと外履きを交換した。

 まず中庭に行くと、昼休み中間の為、食事を取っている生徒はほとんどいない。

 駄弁っているか、スマホを見ているか、昼寝しているかだ。


「大丈夫そうじゃないのか?」


「ここは大丈夫です。次は校舎裏に行きましょう」


 そう言えば昨日、委員長も校舎裏でゲーム機没収したって言ってたな。

 指示されるまま校舎裏に行くと、三年生を撃退した場所、昨日コハ姉に殴り飛ばされて壊れた場所と視界に入ってきた。観光名所かな?


「月曜に起こった場所に関しては原因が分かるのですが、昨日の実習棟の裏は未だ判明されていないんですよね。〝誰かさん〟がやったと、わたしは思っていますが……」


 鋭い視線が刺さる。

 けど昨日に関しては俺たちが被害者側だから何とも思ってない。


「はぁ……もしかしてと思って一応来てみましたが、ここは休めそうな場所ではありませんね。外も大丈夫でしょう」


「そんじゃあこれで終わりか?」


「そうですね。少し色々ありましたが、無事なにも問題無く前半を終わらせることができました。お疲れ様です」


「はぁい、お疲れ様です」


「では、委員室に戻って、委員長たちに引き継ぎましょう」


「了~解」


 昼休み前半組は七分の遅延にて終了。

 本日の勉学に不必要な品の回収数……五十四個。

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