これは……脅しだッ!!
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「へッ! やれるもんなやってみろよ。痛い目合わされたって評判ガタ落ちさせてやっからよ!」
最初に嘲笑してきた男子が煽るような発言をしてきた。
見た目は優等生っぽそうだが、表情から判断するに人を見下すタイプだろう。
こういう奴は、例え目の前で教壇をスクラップにしたところで虚勢を張って『で?』と言い返してくるのが目に見えている。
黒瀬もコハ姉が近くにいるから委縮モード全開になって、呼んでも出て来てくれない。
さて、どうしたものか……。
「白石くん、お任せください」
思考を巡らせていると、会長が笑顔のまま俺の方を向き、言った。
パチン
綺麗な指パッチンの音が鳴り止むと―。
「「「「「お呼びでしょうか。雫お嬢様ッ!」」」」」
窓から、廊下から、天井から、床から、黒服集団登場。ここ二階ですけど?
目で数えられる限りで三十名ほど、室内ぎっちぎちです。
「逆らうのでしたら、みなさまには〝特別なプラン〟を立ててあげましょう」
その台詞を合図に、一人のスキンヘッド黒服が会長に資料を手渡した。
「女性の方たちには、一週間でボディービルダーも真っ青なガチムチマッスルにしてさしあげる、生涯素晴らしい肉体美を目的とした企画をご用意しました。因みに二度とスリムな体型には戻せません」
女子生徒たちが『ひっ!?』と両手を交差させ、己の二の腕を掴むポーズを取った。
すみません会長、自分それに参加して良いっすか?
「そして男子の方たちには──」
「へっ! どうせ男色家にされるんだろ? 残念だったな。俺はもう同性愛者だ」
ここでまさかのカミングアウト。
「いいえ。四十代婚期を逃した性格に難ある女性との同棲、果たして貞操は守れるのか? という企画をご用意致しました」
物凄く恐怖を感じた。
「さぁ、放課後まで暇するか。素晴らしい企画に参加するか……選んでください」
会長も先ほどのコハ姉と同様、笑顔ではあるが目に光が灯っていない。
さぁて……反応は──。
「「「「「すんませんでしたぁっ!!!」」」」」
賢明な選択を取った。
「国見……」
「はい……」
「こういう強硬手段はあり……?」
「えぇ……と……その……あの……」
「うんゴメン。無理に応えなくて良いや……」
有りなら今後黒瀬が引き籠りになってしまった際、会長に頼み込もう。
「お二人さぁん。みんな上半身を九十度に曲げて差し出してるんだから、早く集めないと~」
「集めるって……この量を……?」
クラス内全員が差し出している訳だから、数は三十個近い。
しかしこれを二人の手だけで持てるかと言われたら普通に無理だ。
二往復ぐらいする必要があるな。
「大丈夫です。専用の袋なら持ち合わせています」
国見がブレザーの内側から折り畳まれた袋を取り出した。
広げると充分な大きさだ。
中央に黒いマーカーで『不要品回収用』と手書きされている。
「では白石くん、始めましょう」
「あ、はい……」
一歩進み出てA組にお邪魔する。
朝の持ち物検査と同様、窓側から縦に沿って順番に回収していく。
攻略本、漫画、ゲーム機、カードゲーム、化粧品、モデルガン、プラモデル……。
回収しながら名前を聞き、即座に国見が表に書き出す。
先ほどまでペラペラだった袋が一気にパンパンと膨れ上がった。
「それでは、不要品の回収は以上となります。みなさんのご協力ありがとうございました」
協力というか脅迫……。
「八乙女会長、お力添えありがとうございます」
「いいえ、寧ろお役に立てて光栄です。頑張ってくださいね」
「はい……!」
なんだか国見の口調が柔らかくなっているように感じた。
相性が良いのだろうか。
「…………」
一方、気にしないようにしてたが、コハ姉は説教されて以降国見に一度も話し掛けていない。
この二人は相性最悪というのが分かった。
「では、これにて失礼致します」
「…………」
ニコニコ笑顔で見送ってるようだが、恐らく腸が煮えくり返っているに違いない……。
考えただけで胃が重たい。
そして教室から出た国見の後を追い掛ける、とその前に。
「会長、本当にありがとうございました」
礼はしておかないと。
「どう致しまして。生徒会と風紀委員、ともに学園を良くしていきましょうね?」
アナタが委員長と仲良くならなければ、それは遠い未来になりそうですね……。
「それじゃあシーくぅん、頑張ってね~」
「あ、ああ……コハ姉またね」
「そうでした──」
突然会長が思い出した声を上げた。
「白石くん。今日のHRが終わり次第、生徒会に来ていただけませんか? 頼みたい事があります」
「どうでしょうかねぇ……放課後も風紀委員の仕事が―」
「…………」
あ、冷ややかな目……。アラフォーと同棲させられるッ!
「委員長に確認取ってなるべく行くようにしますッ!」
『行きます』とは言えない。それで行けなかった時のリスクが大きいからだ。
「期待しています」
またニッコリ笑顔に戻る。この人怖い。
「待ってるね~」
それからコハ姉と会長に見送られ、結構距離が離れた国見の後を追い掛ける。
「国見、待ってくれ!」
「廊下は走らないでください。風紀委員としての自覚を持つように」
振り向き様の開口一番に怒られた。
「すみません……」
幸い二階廊下には誰もいなかった。
《…………はっ!? ここは? どこ!?》
おぅ。黒瀬、目を覚ましたか。
《ああ、川の向こうであのイケすかねぇイケメン野郎と遊んでたら目が覚めた》
アイツやっぱ爆発したか。
《でも一緒に帰ってきた》
いっそ毎日命を狙われる呪縛から解かれたほうが船岡にとって良い様な気がしてきた。
あ、そうだ。忘れる前に―。
「国見。今日放課後の巡回の代行、頼んでも良いかな?」
「何故でしょうか?」
「生徒会に強制召喚されるから」
《はぁ!?》
黒瀬の悲鳴が鼓膜に響いた。
「お声が掛かったのですね。呼んできたのは、昨日と同じあの副会長さんでしょうか?」
「いんや、生徒会長さんから」
「……そうですか、分かりました。しかし委員長には自分から報告してくださいね」
「了~解」
《いやだああああ! また昨日みたいなことが起こるんだろ!? 今日の部活我慢するから取り消してええええええ!》
断れば干支が二回りした人と初体験させられることになるんだぞ。それだけは避けたい。
なんだったらコハ姉相手にしたほうが何倍もマシだ……!
《うええええええええええええええええええええええええええええええええええん!》
黒瀬が泣き始めたがもう知らん。耳を塞ぐ。
《どうやって?》
心の耳を塞ぐ。
「かなり時間を使ってしまいましたね。次は三階です」
「誰も何もしてなければ良いけど……」
昨日もそうだったし。
「無理でしょうね。学年が上がるにつれて聞き入れない人も増えてきますから」
その発言は妙に的を射ている気がした。
それから二人で階段を上がり、三階に到着する。
会長はいないが、黒瀬が目を覚ましてくれた。
これで聞き入れないなら二年で出来なかった教卓スクラップ作戦で行こう。
実力行使の制限回数はカウントされるが、昼で一ならまだ大丈夫だ。
さて、始めるか。
…………。
………。
……。
…。
「「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」」
俺の姿を見掛けた瞬間、三学年は昨日と同じ盛大な悲鳴を校舎中に響き渡らせた。
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