副委員長と副生徒会長は仲が悪い




 それから一階廊下の巡回を終え、次は二階に移動する。

 まず確認するのはB組、委員長と南先輩のいるクラスだ。


 廊下から教室を覗き込むと、早速委員長を発見した。

 他の女子生徒と親し気に話していた。

 一方、南先輩の方は―。


「…………」


 昨日と同じで、また一人静かに小説を黙読していた。

 あ、そう言えば部長もB組だったっけか。どこだ?


「よぉ、シロ坊!」


「あ、先輩」


「と、国見麗奈……」


「こんにちは」


 ボンバーヘアー先輩が呼び掛けてきた。

 頭部はヅラを被ったままだ。


 今朝の服装検査で、洗い忘れたからという理由からまた減点無しで通してしまった。

 このヅラ取られたら確実に窒息死する。


「今日もパトロールか。偉いな」


「ありがとうございます。あれ、他の二名は?」


「あ~、リーゼントとモヒカンなら食堂の新メニュー・激辛ラーメンを食べに行ってるぜ。俺は辛いの苦手だから普通のラーメン食ってきて帰ってきたところ」


「そうでしたか。あともうひとつ聞いていいですか?」


「答えられる範囲ならな」


「薬師堂先輩も、確か同じクラスですよね? どこにいますか?」


「あ~、あの変人か」


 ブーメランです先輩。


「アイツならいつもどっか行くから、居場所は分かんないんだよなぁ」


 だから見当たらないのか。


「用事か?」


「いえ、ただ気になっただけなので。教えてくれてありがとうございます」


「おぅよ。あ、それと。ウチのクラスだったらゲーム・漫画の回収はしなくても良さそうだぞ」


「なんでですか?」


「新田麻美と南楓のダブルコンビがいるんだ。記憶喪失にならなければまず持ってくるヤツなんかいないって」


 確かに言えてる。


「ま、そうでしょうね。先ほどからそのような行動も見掛けられませんし、やはり委員長たちの影響がデカいのでしょう」


「そういうことだ。今後来るとき二年B組のほうは適当に見て大丈夫だぞ!」


 ボンバーヘアー先輩は笑っているが、俺は愛想笑いしかできない。


「…………」


《めっちゃ睨んできてるな》


 ああ、適当に仕事したらタダじゃ済まないでしょうよ。


「白石くん。時間がありませんので、隣のクラスを見ましょう」


「あ、ああ。では先輩、活動再開しますので、俺はこれで」


「おぅよ。またな!」


 ボンバーヘアー先輩が教室に入るのを尻目に、A組に向かう国見の後ろをついていく。


《ひ…………ッ!?》


 そして黒瀬が脅えだした。

 そう、コハ姉がいるクラスだからだ。


 出来れば国見に全部任せたいが、仕事放棄で非難されるのは目に見えている。

 委員長にチクられれば信用も失われる。

 腹括るか。


《…………ッ!》


 黒瀬は大人しくしてろ。もし無理そうだったら選択肢だけでもくれ。

 こんだけ怯えるってことは気配を感じている訳だから、付近にいることが分かる。


 そぉ……っと廊下から覗き込む。

 えぇ……っと……あれ、いない?


 おかしいなぁ、黒瀬はこんなに怯えているのに。


「あの、何してるんですか……?」


「え、あ、いや、その!」


 そうだった。

 俺がコハ姉を苦手だってこと、国見にはまだ伝えていなかったんだった。


「国見、実は―」


「あ~、シーくん」


 全身が凍った。

 まさか背後から来るとは……。

 教室に居たのではなく、教室に近付いてきていたのか。


「あら、白石くん?」


 そしてもうひとり聞き慣れた声がした。

 ゆっくり振り向くと、コハ姉の隣に会長も立っていた。


「ど、どうもこんにちは……」


「こんにちは。学内のパトロールでしょうか?」


「は、はい……そんなところです」



 ⇔SELECT

 ●逃げる

 ●煮えgる

 ●jダインcbsンvンfdkdkおjふぃjm㏍fdvkふぉdjvぽjfsp」



 まだ早い選択肢早い!

 あと真面に打ててるの一つ目だけ!


《ぶぎゃああああああああああああああああああああああああああああ》


 ダメだ完全に狂ってる。


「あら、お隣の方は……」


「確か副委員長の子よねぇ、一年で偉いな~」


「……ありがとうございます」


 褒められたのに、少し眉間にシワを寄せたあとで国見は会釈をした。


「珍しいですわね。いつも昼休みは一人で活動しているイメージがありましたから」


「はい。今日は白石くんのお目付け役を買っての、二人体制で活動を遂行しています」


「そうでしたか。新人くん思いの素晴らしい対応だと思われます。こちらの副会長ときたら、後輩の面倒を全部ワタクシに任せっきりですから」


「え~、ウチも面倒見たりして色々教えてますよ~?」


「岩沼さんが教えたのって、お茶汲みだけじゃありませんか……」


「お茶って大事ですからね~」


「そんなことは家でも教えてもらえます」


 国見が切り出した。


「副会長というのは生徒会長の代理です。本来は会長に代わり、後輩の面倒を率先して見るのが務めです。お茶を入れるなど、余程悪い環境で育たない限り誰でも出来ます。トップのサポートをする役職を選んだのでしたら、甘えず仕事をするのが当然ではないのでしょうか?」


「…………(チッ)」


 あ、静かな舌打ちと光の灯ってない目……ガチギレモードだ……ッ!


「え~っと……ところで会長と副会長はどこ行ってたんですかッ!?」


 とにかく国見に意識を逸らさせて俺に集中させないと……!


「ワタクシたちですか?」


「そうですそうです!」


「生徒会室で一緒にお弁当食べてたのよぉ?」


「へ、へぇ。仲良いんですね?」


「はい。一年のときに気が合いまして、二人で生徒会に入ってからは揃った時だけ一緒に食べるようにしているのです」


「な、なるほどぉ!」


「シーくんもぉ、今度一緒に食べるぅ?」


「いえいえそんな! 生徒会トップの二人と肩並べて食べるなんて、喉通りませんよ!」


 正しくは黒瀬が脅えて暴れ出して食事どころじゃない。


「白石くん、そろそろ」


「あ、ああ! そうだった。ではお二方、自分は今からA組の不要品回収をしなければならないので!」


 どうにかコハ姉の注意を逸らせることはできた。

 あとはA組に違反者がいないことを願ってさっさと済ませて三階に行こう。


「お待ちください」


 しかし会長に呼び止められてしまった。


「はい、なんでしょうか?」


 それには俺ではなく、国見が反応してくれた。


「せっかく学園の風紀を守ってくれているのですから、ワタクシたちにも手伝わせてください」


「は、はぁ……」


 そう言うと会長はA組の教室に入り、教壇に立った。

 パンパンと二拍手されると、クラス内にいる生徒が全員会話を止め、会長に注目した。


「二年A組のみなさん。今から学校に不要なモノの回収を行います。持ってきている方は正直に手を挙げ、風紀委員のお二人にお渡しください」


 まるで小学生を相手にしているかのような呼び掛けをしてもらえた。

 会長に向けられていた視線が、出入り口に佇む俺と国見に移る。


「へッ! そんな子供相手な声掛けで素直に出すヤツなんかいねぇだろ」


 男声の嘲笑が聞こえた。ごもっともだ。


『でもアイツ、白石だろ?』

『ああ、三年をぶちかましたっていうジーニアスビルド……』

『え、俺はグランドタイム野郎って聞いたぞ?』


 アダ名考えたヤツいい加減出てこい。


「じゃあ逆らったら、手出されるってこと……?」


「えー!? ヤダー!」


 女子たちの不安な声も聞こえてきた。

 大丈夫なにがあっても女性には手出さないから。

 別の意味で出すかもしれんけど。

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