活動二日目と”人”狩り

 風紀委員に所属して二日目を迎えた。


 早朝の服装検査は特に問題無し。ただ数名の生徒に脅えられただけ。

 遅刻の取り締まりに関しては昨日と同様、薬師堂兄妹に減点を付けて終了。


 今日は『どこでも○ア』のような物を使って登校してきていた。

 昨日黒瀬が発明品を壊してしまったためか、二人とも豪く元気が無かった。

 持ち物検査は無く、安堵するクラスメイトが何人かいた。


 因みにここまでの実力行使カウントはゼロ、快調だ。

 そして時間は進んで昼休み、前半の担当は──。


「よろしくお願いします」


 俺と国見だった。


「よ、よろしく……」


 昼休みの巡回担当は、昨夜入った〝例のアプリ〟のグループ【紅学園風紀委員】のチャット内で前日に決められる。誰を前半後半にするかは委員長の気分次第らしい。


 同時に放課後の担当も送信されてくるが、時折状況によって変更になるそうだ。

 余談だが、現段階担当は俺と南先輩だ。


「じゃあ……どっち見回るか決めようか?」


 静かな風紀委員室にて、冷たい表情の女子を前に言葉を出す。


「その必要はありません」


「……はい?」


「本日は、白石くんと行動を共にしてパトロールしていきます」


「それ……効率悪くない?」


「若干遅れは生じます。しかしその件につきましては、個人的に委員長に連絡済みです。なにか問題がありますか?」


「問題というか……なんで俺と一緒に?」


「監視のためです」


「あ~……なるほど」


「昨日は自力で抑えていたようですが、今日もしかしたら何かしでかすかもしれません。被害者が出る前に、わたしがストッパーとなってアナタを止めます」


《信用されてねぇな》


 仕方ないだろ。まだ日が浅いんだから。


「他に質問が無いようでしたら、一年の教室から見ていきましょう。今朝は持ち物検査が無かったので、不必要品で時間を潰している人が多いと思います」


「そうか? ここ来る前一旦教室戻ったけど、誰も遊んでなかったぞ? 急いでモノを隠すって動作も見えなかったし」


「それは恐らく、アナタに遊んでるところを見つかったら、処分されると思っているのではないのでしょうか?」


 俺って自覚なしにクラスを支配していたのか……?


「ですが、ウチのクラスが例え持ってきていなかったとしても、他のクラスや上級生は持ってきている可能性があります」


「まぁ……言えてるな」


「なので、見つけ次第直ぐ回収をお願いします。勿論、実力を行使せずに」


「了解しました……」


「では、行きましょうか」


 国見が腕章を着け始め、少し遅れて俺も腕章を着ける。

 互いに表シートを黒いファイルに挟め、ペンをセットして準備完了。

 教室を出て、活動をスタートさせる。


 まずは国見の予定通り一階に降り、廊下を歩く。

 すれ違う生徒たちが俺と極力目を合わせないよう斜め下を向いて避けてくれる。

 番長になった気分。


《〝人望の無い〟?》


 深く傷付くからやめて。

 そして最初は自室のB組を覗く。


 昨日と同じ、昼食中・雑談中・昼寝中と……特に問題は無さそうだ。

 紅葉に至ってはまた男女数名に囲まれて楽し気にお弁当を食べている。

 中身は廊下から見ても分かる茶色一色のガッツリ系だ。胸焼けがしてきそうだ。


「ここは問題無さそうだな」


「そうですね。では、次に行きましょう」


 国見が疑わないということは、本当に誰も持ってきているような素振りが見当たらないんだな。

 改心してくれたのか俺を恐れて持ってきていないのか……九割後者だろうな。


 次はA組、ついでに琴葉か船岡から生徒会の流れを聞いておこう。

 まず覗いて琴葉を探すが……いない。購買かな?


 次に船岡を見付けるが、女子たち四・五人に囲まれて談笑している。

 あ、背後から鉄パイプが―笑顔を絶やさず受け止めやがったか。チッ……!


 殺傷武器が投擲されたのに、それを見ても驚かないという事は彼女たちも慣れたのだろう。

 おっと、目的の二人が話し掛けれない状況なら仕事に戻るか。

 さぁてさて、いないかなぁ……。


「いました」


「え、はや!?」


 俺よりも先に国見がターゲットを見付けた。


「窓際の男子」


 対象ワードを口にし、指でちょいちょいと差し示す。

 方向に視線を移すと、男子生徒が携帯ゲーム機で遊んでいるのが確認できた。

 なんとも警戒心の薄い、取り締まりの良い餌食だ。


「じゃあ俺行ってくるよ」


「えぇ、元からその予定です。どこで強硬手段を取るのか、見学させていただきます」


 手を出す前提ですか……。


「ははは……大丈夫だよ」


 苦笑いを浮かべつつ、俺は教室の扉を開けた。


「失礼しまぁす」



 ………………………………………………………………………………………………。



 急に静かになった。

 さっきまであんなに大きな声で話してたじゃんか。


「やぁ、白瀬くん」


 静まり返った室内で、開口一番に船岡が呼び掛けてきた。


「よっす」


「どうしたのかな? 何か用?」


「ああ、そちらの方のゲーム機を回収しに」


 直接の指差しは失礼だと思い、指を揃えて掌を上にして指し示す。

 クラス中の視線が集まる。


 男子生徒はまだゲームに夢中になっていたが、数秒してから静まり返った異変に気付いたのだろう。こっちを向いてくれた。


「げっ!?」


 丁度よく視線が合い、お相手は動揺し始めた。


「え~っと……学校には不要のモノだから、回収させていただくよ」


 取り敢えず思い付いた風紀委員っぽい文字を並べて言葉として発する。

 こういうとき何て言えば良いのか昨日の時点で教えてもらうべきだった。


「い、いや……あのッ!」


 向こうはかなり焦燥している。

 ゲームしているのを見付かって焦っているのか、現在進行形で〝悪魔〟と呼ばれている同級生を前にして焦っているのか。五分五分だろうな。


「悪いけど規則なんだ。放課後返却されるから、それまでは我慢しててくれ」


「いや、あの……これは俺の第二の心臓で、取られると死んじゃうんだ!」


「そうか。回収だ」


「いや、あの……これは銀河第三惑星連邦軍を倒すための最強の武器で、これが無いと日本が滅んじゃうんだよ!」


 なんで〝第三惑星連邦軍〟日本に限定した?


「そうか。回収だ」


「いや、あの……今のイベント逃すとレアアイテム入手できなくなっちまうから見逃してくれ!」


 最後本音言ったか。もう少し粘れよ。


 《イラついてきたな。代わってくれ》


 ダメだ。それじゃあ国見の思うツボだ。


「なにを漫才しているのですか?」


「国見……」


「あ、麗奈さん!」


 押し問答していた結果、国見がご登場。船岡が大きく反応した。

 すると先ほどまで話していた女子たちが、船岡の態度の変わりように怒りを感じたようで、全員後ろで武器を構え始めた。


 ●大剣

 ●太刀

 ●片手剣

 ●ランス

 ●双剣

 ●『鈍器』との名称が付いたレトロの四角いゲーム機

 ●弓


 〝人〟狩り行くのかな?



「こういう時は相手の意見を気にせず没収すれば良いのです」


 そう言うと国見はゲーム機を無理矢理取った。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! それをクリアしないと人質にされている友人の命が―」


 おい、さっきの本音どこ行った……。


「校則は絶対です。放課後、職員室で返却をしてもらってください」


「じゃあ、せめてセーブさせてくれ!」


「それぐらいなら──」


「甘いです!」


 国見の語気が強くなり、一同ビクッとする。


「そう言って、受け取った瞬間に逃走するかもしれません。残念ですが、このまま電源を落とさせていただきます」


 慈悲も無しにゲーム機の電源が落とされる。

 鬼か……。


「……このッ!」


 すると男子生徒が拳を震わせた。

 そして顔を上げ──。


「この……ッ!」


「なんでしょうか?」


「この……ッ!」


「…………」


「…………ッ!」


 膝と掌を床に付けて絶望ポーズを取った。


「ダメだ……。醜女ならまだしも、綺麗だから悪口が出てこない。それに女子たちが見てる公衆の面前で悪口なんて言ったら同性心理で必ず嫌われるし、女子から嫌われたら学園青春なんて送れなくなるから黙って絶望に浸っておくよ」


「うん、お前偉いよ」


 同情が芽生え、肩に手を置く。


「田中くん、元気出しなよ」


 そして横から船岡が入ってくる。


「今回はキミが学校に勉強以外のモノを持ってきたのがイケなかったんだからさ。今日のことを反省して、また進めれば良いじゃないか!」


 イケメンが喋ると周囲がキラキラするのは自然現象か? 異常現象か?

 とにもかくにも、船岡がクラスメイトを励ましたことで女子生徒数名が盛り上がっていた。


 因みに武器を構えていた女子たちは、船岡に攻撃を叩き込むため各々入念に準備を進めていた。

 ありゃ手慣れてるな……。


「わりぃな船岡、邪魔しちまって」


あと遺書書かなくて大丈夫そうか?


「構わないさ。これもクラス委員長の務めだから」


「え、クラス委員長だったの……?」


「知らなかったの……?」


「知らなかった」


「この前教えたのに……?」


「知らなかった」


「……まぁ良いさ。こうして麗奈さんにも会えた訳だし」


 まぁた歯が浮くような台詞を……。


「…………」


 当の本人はガン無視で表に名前と回収物を記入している。


「麗奈さん。今日の放課後、途中まで一緒に帰りませんか?」


 船岡が口説き始めると、室内の男女が一斉に目を鋭くさせ睨み出した。


「ごめんなさい。出来れば〝人〟と帰りたいです」


 人間として認識されていなかったのか。気持ち悪さが一周して可哀想になってきた。


「ははは、そうです。僕はアナタと結ばれるために人間を超越し過ぎた種族なのです!」


 結ばれるために超越したのに拒否られたのか。悲しいな。


《あと何言ってんだ? コイツ》


 それな。


「漫談は済みましたか? でしたらこちらは失礼致します」


 一から十まで一切目を合わせず、国見は廊下に出て行った。


「じゃあ、俺も行くわ」


「うん、頑張ってきてね」


「おう。あとお前大丈夫そうか?」


「いやぁ、それがさっきから不思議でさ。何だか妙な気配を感じるんだよね……」


 周りをよく見てみろ、お前一発で討伐されるぞ。


「ま、強く生きろよ」


「え、なんのことかな?」


 ポジティブ過ぎだろコイツ。


「白石くん、次行きますよ」


「あ、はぁい。じゃあな」


 国見に呼ばれ、船岡に一言挨拶してから俺も廊下に出る。

 数秒後にA組から斬撃音と同時に『クエスト、クリアッ!』という声が聞こえたが、教室が破損していないところを見ると大した被害ではないと思うから無視することにした。

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