愛しの委員長と下校
「ただいま戻りました」
「おぅ、生徒会のお勤めご苦労様」
風紀委員室に入ると、室内には委員長しか残っていなかった。
「あれ? 国見さんと南先輩はどこに行ったんですか?」
「二人は二十分前に帰ったよ。今日の活動は終了だ」
「放課後は随分早く終わるんですね」
「ああ、やる事と言ったら理由無しで校内に残ってる生徒への声掛けだけだからな。今日はそんなにいなかったし、予定よりも早く切り上げられたよ」
「そうだったんですか。ところで委員長は、帰らないんですか?」
見たところ、勉強道具を机に広げて学習中の様子だ。
「ま、白瀬を待ってたってところだな」
「え、自分をですか……?」
黒瀬、トレンディドラマみたいなBGM流して。
《気がはえーよ……》
「そそ。白瀬の荷物が残ってたし、私が最後ここの鍵を閉めなければならないから、自主学習でもして待ってたのさ」
《ほらな?》
ちょっとぐらい期待しても良いじゃないか!
「しかし白瀬も大変だな。風紀委員に生徒会、それに科学部の掛け持ちだなんて」
「いえいえ、自ら決めたことですから。じゃあ、自分も帰ってきたってことで、ここ閉めますか」
「そうだな。う~ん……今日もよく頑張った……ッ!」
立ち上がった委員長が両腕を天井に向け、背伸びをし始める。
やばい、超可愛い。
《お前の惚れポイント多いな》
好意を持つと不思議と全部の仕草が可愛く思えて来るんだ。覚えとけ。
《説得力無いぞ》
悪かったな。
「白瀬も帰るのか?」
「う~ん、そうしたいんですけど、部活のほうにも一応顔出しておこうかな……と」
《よっしゃ! ついに来たぜ!!!》
「そっか、残念だ。せっかく一緒に帰ろうと思っていたのに―」
「帰りましょう」
《おい》
黒瀬すまない。
今日も一日頑張ってくれたからご褒美と思って科学部に行ってやろうかと思ったが、委員長と下校できるならお前への感謝なんかゴミ箱にポイだ。
《ひでぇ扱いだな……》
分かってくれ。
これが委員長との恋への近道だったらコハ姉は俺たちとの交際を諦めてくれる。
毎日顔面に百発のパンチを受けるだけで済む。
《殴られるの誰だと思ってるんだ》
じゃあ委員長ルート見過ごして、コハ姉ルートに強制的に従うか?
《回避って選択肢無いのか?》
委員長含め、他の女の子ルートを選び、毎日顔面にパンチを喰らうか……コハ姉と強制的に交際させられて、俺たち二人とも精神的に狂うかの二択だ。
《じゃあ帰ろう》
話の分かるヤツで助かった。
《けど明日は行けよ? 二日連続欠席は嫌だからな》
どんだけ科学部の実験受けたかったんだよ、お前……。
「えっと、どっちなんだ? 部活のほうに行くのか? それとも帰るのか?」
「帰ります。もう物凄い勢いで帰ります」
「急いでるなら先に帰ってもいいんだぞ……?」
「トリックルーム発動させたので遅く帰れます」
「ごめん意味が分からない……。とにかく一緒に帰れるんだな?」
「はい!」
「じゃ、鍵閉めるから先に廊下に出て待っててくれ」
「オッケーです」
委員長に言われた通りに自分の荷物を持ち、廊下に出る。
因みに今ウハウハテンションのため、足取りが軽く感じる。
扉が閉められると、鍵を職員室に保管しなければならないと言われ、付いていく。
退室する際に先ほど習った丁寧な挨拶をしようとしたが、先発委員長にされる。
やはりこの人も委員長としての自覚を持ってるんだなぁと、カッコ良く感じた。
そしていよいよ二人での下校がスタートする。
委員長の斜め後ろを歩き、夕日で照らされた綺麗な髪を眺めつつ廊下を歩く。
ただずっと後ろを付いて歩くと妙に思わると考え、並列する。
「委員長って、家どの辺なんですか?」
「
そして雑談と見せ掛けてのプチ個人情報ゲット。これにより相手の事を知っているという満足感を得ることが出来るのさ!
《気持ち悪》
シャラップ。
「へぇ、確か古風な建物が多い場所ですよね?」
「ああ、古いものばかりで電車の本数が少ないから不便極まりないさ」
「そうなると、次来る時間とか気にしなくて良いのですか?」
「大丈夫。全部覚えているし、次の電車は約四十分後に来るから若干のんびりできる」
「それなら早く歩かなくて良さそうですね」
「そうだな」
あーーーーーーーーーッ!! 楽しッ!!!
《うるさい》
ごめん。
でも嬉しいから騒がせてくれ。
《はいはい》
はぁ……さっきは居心地が悪かったし、ビクビクしっ放し、そのおかげで癒しが倍吸収されていく感じがする。
やっぱ帰る選択肢を取って正解だ。
《明日は行けよ?》
勿論だって。明日の予定は……あ。
「委員長、明日の昼休みと放課後の巡回は今日と同じ組み合わせになるんですか?」
こういう内容は当日スムーズに行うためにも早めに聞いておかないと。
「そこはまだ決めていない。担当は前夜に決めてグループチャットのほうで報告するようにしている。ところで白瀬は〝例のアプリ〟はやっているか?」
「はい、入れてます」
「じゃあ、そっちも交換しようか」
「え、良いんですか……ッ!?」
「なに驚いている。同じ活動をするメンバーなんだから、交換するのは当然だろ?」
「そ、そうですよね……。あ、はははッ!」
思わず変な笑い声が出てしまった。
まさか今日だけで、ずっと憧れていた新田先輩こと委員長のメアドに電話番号だけではなく、〝例のアプリ〟のID登録もしてもらえるとわ……。
あーどうにかなりそ!
《こりゃ自室で気になる異性のプロフィール見ては気持ち悪くウキウキして最終的に発狂するパターンに入るな……》
多分そうなる。
「そしたら後程グループ申請を送るから、入ったらキチンと挨拶するように」
「了解しました。お、委員長のアイコン、ワンちゃんなんですね」
「そそ。家で飼ってる子さ」
「名前はなんて言うんですか?」
「ヒビキだ」
「へぇ、良い名前ですねぇ。それに顔も可愛い。やっぱ飼い主に似るんですかね?」
「ベタなお世辞だな。でも、嬉しいぞ。ありがと」
あーーーーーーーーーッ!! 楽しッ!!!
《うるさい》
ごめん。
だけど楽しくないか? 楽しくないか!?
《生徒会よりかはマシなほう》
恐怖で気絶するレベルの空間だったから仕方ないって。
あ~この幸せをまだ堪能することができるなんて、最高に嬉しい。
《…………》
どうかこのまま何事も起こりませんように。
《…………》
なにさっきから黙ってるんだ?
《…………いや》
変な奴だな。元からだけど。
《殴るぞお前》
まぁそれはそれとして、昇降口に到着した。
委員長は二年の場所に、俺は一年の場所にとそれぞれ向かう。
そこで俺の視界は真っ暗になった。
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