副生徒会長さんの恋心




「ではぁ、行ってきま~す♪」


「行ってきます……」


 幸せ絶頂と不幸絶頂、対称的な男女が生徒会室から出る。


「行ってらっしゃい」


「転ばないよう気を付けてくださいね」


 会長と船岡に再度見送られ、廊下を歩き始める。


「さぁ、行きましょ~?」


「はい……」


 てっきりコハ姉が先陣を切って歩いてくれるのかと思いきや、並列してきた。

 まぁ誰もいないから良いけど。


「んふふ~♪」


 突如コハ姉が上機嫌に笑った。


「嬉しいなぁ。シーくんが生徒会に入ってぇ、こうして一緒にお仕事できるなんて~」


「そうだね……」


「そうだぁ、忘れるところだった~!」


 何かを思い出したようだ。変なお願いじゃありませんように。


「昼間はごめんねぇ。シーくんを吹っ飛ばしたりして~」


 意外、まさかの謝罪だった。


「別に気にしなくて良いよ。そもそも俺がコハ姉のお願いを拒否したのが原因だし……」


「そう言ってくれるなんてぇ、優しいのね~」


 言わなかったら消し炭にされてますから。


「それに、十年近くも一緒にいるのに未だに性格を覚えてないのが悪いんだから……」


 今はとにかく自分に非があるよう話す。でないと塵も残らない。


「そっかぁ、もう十年以上も経つのか~。早いねぇ?」


 言われてみると、時が流れるのは確かに早く感じるようになった。


 この前まで中学生だと思っていたが、気付いたらもう高校生だ。


「このまま何も起こらず卒業しちゃうのかなぁ? なんだか勿体ない気分~」


 それには激しく同意する。

 入学当初は黒瀬を内に収めながら目立たず。平穏な学園生活を送れれば良いと考えていた。

 しかし、騒動の一件で『白石白瀬』という名が公になったのであれば、隠れず堂々と学園生活を送りたいと思うようになった。


「ねぇ、シーくん」


「はい……?」


「本当に恋愛に興味ないのぉ?」


 ただこの人からは隠れたい……。


「ウチ、シーくんが高校入ったら絶対付き合うって決めてたのよぉ? そしたら交際に全然興味無いって言うから~……」


 俺だって本当はそんなこと言いたくなかったさ。

 けどあの状況で言わなければ強制的に交際させられ、黒瀬だけでなく俺までがいずれ精神を崩壊させていただろう。

 コハ姉には悪いが、この嘘はタイミングが来るまで押し通させてもらう……!


「正直に答えて。本当の本当にぃ、お付き合いに興味ないの~?」


「今のところは……無い」


 嘘です!

 本当は異性と付き合いたいよ!? 交際したいよ!? 一緒に帰りたいよ!!


「お付き合いしたらぁ、ウチの体全部シーくんの好き放題にできるのよ~? それでも興味湧いてこないの~?」


「そうだね……」


 嘘です!

 女の子の体触りたいよ!? 好き放題したいよ!? でも委員長が良いです!!


「むぅ~。あ、ひょっとして……同性愛に目覚めちゃったぁ?」


「それはない!!」


 そこは勘違いされると今後の学校生活や家庭にも悪影響するから全力で否定する。


「お顔大真面目ねぇ。今の形相でそうじゃないことは分かった~」


 ほ、なんとか理解はしてもらえた。


「そう言えばぁ、小学校中学校と、シーくんが女の子を好きになったって話、全然聞かなかったな~」


「あのときは自分のことで精一杯だったし、今も自分のことで一杯一杯なだけさ……。だから、自分のことが落ち着いたら、そういうものに興味持っても良いんじゃないかな……って」


 本音は、あの時は黒瀬を制御するのに必死だったから、恋愛どころじゃなかっただけだ。

 嘘は吐いてないもんね。


「そっかそっかぁ、今は自分のことで精一杯か~。そうよねぇ、三つも掛け持ちしちゃってるんだから、恋なんてしてられないよね~」


 いえ、委員長と付き合えるなら恋愛オプションも追加可能です。

 しかし言えば一瞬で目の前が真っ暗になる為、黙っておきます。


「じゃあさぁ。高校生活中に恋したい気持ちになったらぁ、ウチを第一候補に選んでもらっても良いかな~?」


「まぁ、その時の状況によって……だね」


「えぇ~、酷いなぁ。昔からずっと大好きなのにぃ、ぷぅ……」


 脅えつつも最低限度の返答をし、そうこうしてる内に職員室前に着いた。

 担当教諭が俺の顔を見るや先ほどと同じ場所に置いておくよう手短に指示を出し、場所を把握していた俺が今度は先陣を切って持ち運んでいく。


 職員室を出ようとした際、適当に挨拶を済ませるとコハ姉に捕まった。

 小声で注意をしてきた後に、挨拶のお手本を見せてくれた。

 数分前までのほんわかな雰囲気がまるで嘘のような真面目な態度、これが生徒会執行部の人間という自覚なのだろうか。


 それに合わせ、見様見真似で挨拶を済ませる。

 廊下に出ると、雰囲気が戻った。

 切り替えの凄さに、頼り甲斐を感じた。


 そりゃそうか。いくら幼馴染でも向こうは一つ上の先輩だ。

 頼れる存在になってるのも当然って訳だ。


「それじゃあシーくん、戻りましょ?」


「あ、ごめんコハ姉。そろそろ風紀委員のほうに戻るよ……」


 恐らく委員長たちが戻ってきてる頃だ。


「そうなのぉ? ざ~んねん……」


「また明日時間があれば行くからさ……」


「そう? 分かった~」


「それと……さっき入部届渡し忘れたんだけど、代わりに会長に出してもらえないかな?」


「良いよぉ。なにか言われたらぁ、上手く誤魔化しておくね~」


「ありがとう……助かるよ。それじゃあ」


「はぁい、またね~」


 コハ姉は三階へ、俺は二階の廊下を真っ直ぐ進みだす。

 互いの距離がどんどん遠くなっていく。

 黒瀬、大丈夫か?


《…………ぶ》


 屁じゃないよな?


《……ッはああああああああああああああああああああああああああああああ!!!》


 ようやくお目覚めか。


《ここはどこッ!? あの女はッ!?》


 ここは二階の廊下で、コハ姉は生徒会室に帰って行ったよ。


《良かったぁ……川の向こうで母方の爺ちゃんと遊んでた……》


 まだご健在だぞ。


《冗談だ。で、この後の予定は?》


 ひとまず風紀委員室に戻って状況確認、そこから決める。


《オッケー。そう言えばあの女とずっと一緒だったわけだよな……?》


 あぁ……。


《また告られたのか……?》


 それに近いワード言われた……。


《それで無傷って事は……まさかオッケーしたのかッ!?》


 安心しろ。全部丁寧に理由付けして断ったさ。


《おっけえええええええええええええええええええええええええええええええ……》


 スゲェ低音……。

 なぁ、黒瀬。


《ん?》


 お前はどうしてもらえたらコハ姉を受け入れられそうだ……?


《多分なにされても無理》


 うん、知ってた。

 コハ姉ごめん。俺よりもまず黒瀬を攻略したほうが良いかもしれない。


《なに……惚れたのッ!?》


 いや……状況が変わったときのことを考えただけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る