副生徒会長さんは近付きたい
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扉を壊されると敵わないため職員室前まで黒瀬に運んでもらい、扉を開けるときは俺に代わり、また運ぶときは黒瀬に。
そして報告書の整理を頼んだ先生の指示する場所に置いて退散してきた。
ひとまずご苦労様。
《おう。残り二つも運んじゃうか?》
そうだな。仮に終わってなかったらもう一往復するはめになるけど、構わないよな?
《即行で終わらせる》
いやぁ、頼もしいよ。
そして生徒会室の前に来て、扉を横開きする。
「戻りました」
「お帰りなさ~い」
「お疲れさまでした」
「お帰り」
迎えの挨拶を順番に受ける。
見ると報告書とファイルは机上から姿を消していた。
先ほどオープンになっていた段ボールも閉められ、『済』と記入されている。
「丁度良かった。今一休みにお茶を入れようとしてたのさ」
船岡は電気ポットの前で湯が沸くのを待機している。
付近に置かれたティーカップの数は四つ、どうやら俺は忘れられていなかったらしい。
もし用意されていなければ悲しさを紛らわすため、再度運搬作業に移っていただろう。
そんな捻くれた思考は除去し、席に着く。
昨日は会長の向かいに着席したが、その場所はコハ姉が占拠している。
残っている席はというと、船岡の向かいぐらいか。
先ほど船岡が座っていた場所を思い出し、席に着こうと向かう。
「シーくぅん」
途端、コハ姉に声を掛けられ、体が強張る。
《きいやああああああああああああああああああああああああああ!!》
そして黒瀬が恐怖に耐えられず叫ぶ。
落ち着け! 俺だって怖いんだ!
けど平常心を保つんだ……。ここで昼の時みたいにビクビクした喋りをしたら他の二人に意識してるんじゃないかと勘違いをされる。
そんな解釈されてみろ。
妙な噂が立ち、流れからコハ姉と強制的にゴールインさせられちまう……。
《きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!》
勿論交際を断れば『神様、次の転生お願いします★』みたいな小説が始まってしまう。
《死にたくないいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!》
誰か見てくれ。
望まない恋愛が始まった翌日から黒瀬は毎日こうなる!
《平常心保って喋ってええええええええええええええ!!!》
分かったから落ち着いて!
頑張るから!
「なんでしょう……?」
ただやっぱ慣れない。
《ごっふぁああああああああああああああああああ!!!》
まだだ……まだ始まったばかりだ!
「そこはぁ、泉さんの席だからぁ、シーくんはウチの隣に座って~?」
《(ブクブクブクブク……)》
黒瀬が泡を吹いて倒れた(?)。
当然選択肢は用意されていない。
まぁ元よりコハ姉と一対一じゃない場合は自分の考えで答える予定だったから、これはこれで挑戦できるチャンスだ。
「いやぁ……悪いって。狭くなるよ……?」
だけど言葉を出すのが重い……。
「平気だよ~。それにぃ、小さい頃よく隣同士で座ってたじゃん?」
全力で拒否した俺をアナタが強制的に座らせたんじゃん……。
本来なら次も断りたいところ、二回連続で拒否って空席への着席をゴリ押せば、それも異性として意識しての恥ずかしいから距離を置きました―的な解釈をされてしまう!
こうなったら腹括るか……。
「じゃあ……お言葉に甘えて……」
黒瀬が気絶してくれて助かった。
もし意識があったら鼓膜が破れるレベルの発狂をして脳内を混乱させていただろう。
教室の隅に畳んで放置されていたパイプ椅子を運び、横に詰めてくれたコハ姉の隣に設置して座る。
「んふふ~この距離、久し振りねぇ」
「そうぅぅぅだね……」
あぁ、ヤバい。
嬉しさが全然混み上がってこない……。
「そう言えば白石くんと岩沼さんは、幼馴染でしたわね?」
「は~い。しかもお隣さんでぇ、ほぼ毎日遊んでいました~」
その半分以上殴り飛ばされてました。
「羨ましいですわ。ワタクシにはそういった関係の方がいませんから」
「確かに、幼馴染で隣同士って羨ましいですよね。お互いのことを知り尽くしてるってところとか憧れます」
「特に異性同士だと、そこから恋愛に進展したりしますから」
会長と船岡の理想を聞かされて正直反吐が出る。
そう言うのは漫画の中だけ!
実際は告白拒否っただけで殴られてハイ終わり!
「これから進展させて行くもんね~?」
そして闇の言葉が囁かれた。
「その言い方、もしかしてお二人は交際関係にあるんですか?」
船岡が湧いたばかりのお湯をカップに注ぎながら最悪の問いをしてきた。
「う~ん、ウチは直ぐにでも付き合いたいんですけどぉ……シーくんがぁ、今は恋愛に興味が無いって言ってるのでぇ、我慢中なんです~」
昼間言った事を真に受けてくれていた。
「へぇ、意外ですわね。男の子なら入学早々、女の子を手中に収めたいためにあの手この手を尽くす生き物と思っておりました」
ほぼ正解です。
「僕のことも、そう思ってたんですか?」
紅茶の入ったティーカップをトレーに乗せ、階級順に置きながら船岡が尋ねる。
「えぇ、当初は思っていました。ですが、生徒会会計として入っていただき、この一ヶ月間見てきた結果、船岡くんは他の性欲溢れたモンスター達とは違うということに気付かされました」
その他に部類されてる俺たち酷い扱いだな。
というか会長さん。
そこの男、今朝ウチの風紀委員副委員長の国見麗奈さんをナンパしていましたよ?
見えてなかったんですか?
彼も性欲溢れたモンスター、我々の仲間です!
―と、言うと場の空気が凍り付きそうになりそうだから黙ってティーカップを持つ。
「シーくん、お砂糖は~?」
会長と船岡が楽しく雑談していると、コハ姉が負けじと俺に話し掛けてきた。
因みに黒瀬は未だ気絶中だ。
「ありがと……。でも俺入れない派だから」
「じゃあ冷ましてあげようか~?」
あ、ダメだ。
我慢しているとか言っておきながらアタックする気満々だこの人……。
「ははは、平気だよ。熱いの好きだから……」
「そういえばそうだったねぇ。ねぇ、狭いから、もう少し近付いて良いかな~?」
「……どうぞ」
断ったら火星まで飛ばされそうだ……。
「そう言えばこの前ぇ、可愛いヌイグルミ買ったの~。今度見に来な~い?」
「都合が合えば……」
「ホント? やった~!」
こうやって冷静に思考を巡らせて断ればコハ姉も機嫌は悪くしない。
ただ時折直球なことをお願いしてくる。
昼の『一緒に下着屋に行こう』が正にそれだ。
それを冷静な判断で丁寧に断りたいのだが、如何せん考える暇も無いから焦燥感に駆られて黒瀬を頼ってしまう。
簡単にしろ、選択肢が有るのと無いのとでは対応が違うからだ。
しかしその黒瀬が気絶している今、とにかく一言一言気を付けなければ……!
ん? なんだか視線が……。
前を見ると、先ほどまで雑談をしていた会長と船岡がこっちに視線を向けていた。
「どうしましたか……?」
「その、なんと仰って良いのでしょうか……。お二人とも──」
あ……それ以上は言わないでくれ。
思いとどまってくれ!。
「とてもお似合いだな~っと思って……」
船岡が禁句を口にしてくれた。
よし、今後なにか飛んできてもゼッテェ助けない!
「そうですかぁ? 嬉しいです~」
コハ姉が満面の笑みを浮かべる。
昔から近所住民に言われまくり、最近は聞かなくなったと油断していたら生徒会で新たに聞くこととなった。
『お似合い』『恋人みたい』これらの闇の台詞を聞くとコハ姉の恋愛感情が加速され、自分都合でアプローチをしてくる。
この状態になるとテンションが上がり、昼と同様、またはそれ以上の超ド直球なお願いを言ってくる。
『付き合おう』なんて生温い……『キスしよう』に進化してしまう……。
そんな丁寧に断っても死ぬ未来しかないお願いを言われる前に紅茶を飲み干す。
「会長、そろそろ次の報告書運んできます!」
「は、はい!?」
突発的な発言に会長を驚かせてしまったが、善は急げ。
ここから一分一秒でも早く抜け出さないとコハ姉の無理難題なお願いが飛んでくる。
当然丁寧な断り方も突発過ぎて思い浮かばないから『嫌だ』『無理』といった簡略が自然と出て来てしまう。
黒瀬が気絶してては防御態勢も取れない。
普通に殴られて天国へゴーだ!
「船岡、紅茶ありがとう美味しかったよ! それじゃあ行ってきまー」
「待ってシーくぅん。ウチも一緒に行くよ~」
マズい、アプローチが始まった!
二人きりを狙っている!
「大丈夫だって! こんなの一人で全部持っていけるから!」
「しかし、先ほどとても重そうに持っているように見えましたが……」
「会長も心配はいりません! あれは調子が出なかっただけです。今バリバリ出てますので二箱余裕で持っていけます!」
黒瀬、頼む。
起きてくれ!
《…………》
チクショウ、いつまで気絶してるんだよ……!
「でもぉ、二箱持って階段降りてぇ、途中で転んだら大変じゃな~い?」
「確かにそうですわね。もしバランスを崩して転倒でもされれば、生徒会長が一年に無理をさせたと噂が立ち、印象が悪くなるかもしれません」
「考えすぎですって! もし転倒したら自分から望んでやりましたって言いますから!」
だからお願い一人にさせて!
「いいえ。それでもこんなに重たいモノを二箱持たせれば、一年を扱き使っているとまた噂が立つかもしれません」
実際そうじゃない?
「このままではワタクシの印象に傷が付いてしまいます……」
俺の転倒や体の負担を心配してくれているのではなく、あくまで自分の印象を守る為に考えておられるのですか。泣きますよ?
「決めました!」
そう言うと会長が人差し指を向けてきた。
「会長命令です。岩沼副会長と一緒に報告書を運ぶようにしてください」
あ……終わった。
いや、待て!
「でしたら船岡くんが適任じゃないかと!? 男性ですし、女性に重たいモノなんて運ばせられません!」
「ごめん、僕労働嫌いなんだ♪」
土に埋めるぞお前。
「大丈夫よぉ。ウチこう見えて力持ちだから~」
そりゃアナタ……幼少期に自重の五倍はある石持ち上げてましたからね……。
「申し訳ありません白石くん。船岡くんにはこれから大事な仕事を任せますので、今抜けられると困るのです」
マジかよ……そんな一瞬でも抜け出されると困る仕事ってなに? 通信進化?
「それじゃあシーくん、一緒に運んでいきましょ~? よいしょっと!」
まるで軽量物でも持ち上げるかのように、隅に置かれた重量級段ボールをコハ姉がノーモーションで持ち上げる。
ありゃ黒瀬に近い馬力だ。
「はい……」
観念した俺も重い口で返事を出し、残された段ボールを持ち上げる。
「ふんッ!」
さすがに俺は気合を入れないと持ち上がらなかった。
幸い、一回目に運んだ時よりかは中身のボリュームが少ないようで、重さは先ほどより軽く感じた。
腰に負担が掛かってることには変わらんが。
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