生徒会活動初日

「ちわー! 番犬でーす!」


 生徒会室の扉を開け、軽快な挨拶をする。

 室内を見渡すと、船岡のほかに会長と―。


「いらっしゃ~い、シーくん」


 ニッコリ顔のコハ姉がいた……。


《…………ッ!》


 黒瀬が隠れてしまった。うん、大人しくしてろ。


「お待ちしておりました。風紀委員の仕事は、もう宜しいのでしょうか?」


 用紙を整えながら会長が聞いてきた。


「いえ、向こうでの仕事が待機だけだったので、何かないかとこっちに来ました」


「そうでしたか。遠回しに暇潰しに来たと言っていただいても良いのですよ」


「バレましたか。ところで、泉さんは……?」


「泉さんなら部活に行ってるよ」


 答えてくれたのは船岡だった。生徒会よりも部活優先か。


「〝期待の新人〟って言われてますからね~」


 そしてコハ姉の発言に少し驚く。琴葉って陸上部だとそういう肩書き付いてるのか。

 だったら部活優先するのも納得がいく。


「それで皆さんは、今なにをされているのですか?」


 一見すると用紙を整えてファイルに挟み、段ボールの中に詰めている作業のようだ。


「先ほど先生から、部活動や委員会の過去の報告書を、年度と日付順に並べてまとめておくよう言われたのです」


 説明をしながらも手の方は作業を進めている。会長凄い。


「何年分ですか?」


「ざっと三年分です」


 先生鬼畜か?


「……の割にはもう終盤っぽいですね?」


 恐らく段ボール一箱につき一年分、その内二箱に黒マーカーペンで『済』と書かれている。


「こういう単純作業って好きなのよね~。慣れるとお話してでも出来ちゃうからぁ」


「確かに。あとは、日付を間違えなければ良いだけですもんね」


 コハ姉も船岡も口と手を同時に動かしている。俺は無理そうだ、どっちか止まる。


「これまとめたらどうするんですか?」


「職員室に運んでいきます」


「この重たそうなのをですか?」


「はい。先ほどは三人で一人一箱運んだのですが、重すぎて腰痛持ちになりそうでした」


「え、一人でこの大きさ運べたのですか?」


「まぁ、ここに運んでくるときは用紙のみでしたので、気合でなんとか持って来れました」


「でもぉ、今はファイルとかも追加されてますからぁ、相当重たいかもしれませんね~?」


 確かに、一箱に至っては無理矢理詰め込まれているのか、仮に喋らせたら『勘弁してください』と言わんばかりのギッチギチ状態だ。


「でしたら自分が職員室に運んできます」


「あら、気が利きますわね」


「どうせ暇ですし、雑用係ならコレぐらいお安い御用です」


 あと、少しでもコハ姉から距離を置かないと黒瀬の精神が滅ぶ。


《カタカタカタカタカタカタ…………ッ!》


 ほら、余りの恐怖で自分でカタカタ言ってしまっている。


「そう言っていただけるのは嬉しいのですが──」


 会長が困り眉をした。


「確かに昨日は雑用とワタクシも仰ってしまいましたが、室内では良いとして、外部ではなるべく『庶務』と口にしてもらえると助かります」


「ははは、気を付けます。それじゃあ運んできますね」


「いってらっしゃい」


「腰気を付けてね~」


 コハ姉の忠告通り、段ボールを持ち上げると予想の倍以上の重さがあった。

 確かにこれは腰に来る……。

 本来なら黒瀬を呼び出して楽に運搬作業を行いたいが、委縮モードになってしまって出て来られない。


 コイツなら重い荷物でも、バスケットボールを人差し指でくるくる回すようにして運べるから頼りたいのに……。

 仕方ない。自分でやるか。


「大丈夫でしょうか?」


「へ、平気ですッ!」


「平気じゃない語気になってるよ……?」


「手伝う~?」


「大丈夫! 平気だから!」


 その優しさは有り難いが、運搬の手伝いってことは二人で運ぶ訳だから、つまり距離が急激に近くなる。

 コハ姉とそんな近距離になったら恐怖心から黒瀬が暴れ出して、制御と運搬の両立をしなきゃいけなくなる。


 それは御免だ。

 ここは余計な心配をされないよう余裕の顔で運ぼう。


「うわ……無理してる顔……」


「本当に……大丈夫なんでしょうか……?」


「へ、い……き、で……す……ッ!」


 そして何とか教室から廊下まで移動できた。

 しかしこれはまだスタート地点、ここから二階に降りて職員室に運ばなければ……!

 一旦床に置き、改めて持ち直す。


 重さの感覚を体が覚えてくれていたからか、さっきよりはマシだ。

 だが直立はキツい。カッコ悪いが体を悪くしない為にもガニ股になろう。


 両膝を外側に向け、前進を始める。

 両腕は数秒で悲鳴を上げ始めたが、我慢する。


 マズいな……黒瀬の力に頼ってたばっかりに、こんなにひ弱になってしまったか。

 自分から運ぶと言っておきながら情けない……。

 こうなったら何分掛かっても構わない。黒瀬に頼らず自分で持っていく―。



《お、あの女から離れたか。よっしゃ運んでやる。ちょっと退いてろ》



 おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい。



 油断した……。

 運搬に全集中してたために黒瀬の制御が疎かになってしまった。

 余裕で強制交代させられた。

 お前聞いてた? 俺一人で持っていくって決めてたろ!?


《いやこんなんで腰痛持ちにでもなられたら俺にも響くから無理しないでくれ》


 あ、ごめんなさい……。


 黒瀬に注意され、今度は俺が委縮する側に回ってしまった。

 先ほど必死になって持ち上げた超重量級段ボールが軽々と持ち上げられる。


《なんだ。こんな軽いもんに全力注いでたのか》


 お前のバカ力が俺にもあると思うな。


 《アハハ~ごめんね~》


 チクショウ……これ見よがしに掌でポンポンとバウンドさせるような動きしやがって……。

 幸いファイルまとめされているから雑に扱っても報告書が混ざる心配はないが、ガサゴソと音を聞く度に少々心配になる。

 あと段ボールの耐久音も……。



 ギチギチ……ミシ……。



 あ、黒瀬くん。ストップ。

 次バウンドさせたら破ける。段ボール破けて中身バーンなる!


《そん時はお前に変わって片付けさせr──》


 お前が大事に育てたモンスターキャラ消去……と交換だ。


《はい。すみませんでした》


 バウンドをやめた黒瀬がはち切れんばかりの段ボールを正常に持ち直す。

 黒瀬はその握力故、ゲームコントローラーを持たせるとボタンを押させるだけで破壊してしまう。


 そのため、こいつがプレイしたいと言うソフトは全部俺が攻略している。

 なのでデータを消去するのも俺の自由、唯一黒瀬の脅しとして使えるのだ。

 良いか? 運搬途中で段ボール壊れたら新しいの貰ってきてお前が詰め直せよ。


《はい……》

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