先輩と暇潰し




「え……っと、南先輩?」


「は、はいッ!?」


「ゲーム持ってきても……良いんですか?」


「は、はい……基本暇潰しになるものでしたら……!」


「ここ風紀委員ですよね……? マズいんじゃ……」


「ば、バレなければ……オッケーです……!」


 自身の人差し指を口元に持っていき、ウインクでお決まりの台詞を口にしてきた。

 うん、可愛い。


「それ、二人は知ってるんですか?」


「も、勿論……バレバレです……」


 ですよねぇ。


「で、でも、麻美さんは許してくれるんですよねぇ……。麗奈ちゃんには風紀委員の自覚が足りないって没収されましたけど……」


 暗いトーンになった瞬間スラスラ言葉出るようにならなかったか?


「それで……返してもらえたのですか?」


「はい……データ消去された状態で」


 鬼だ。


「な、なので基本、麗奈ちゃんがいるときは……が、我慢するようにしてます。その間なにも出来ないのが地獄ですけど」


 また後半、暗闇ver.でスラスラと……。


「し、白石くんは……こういうの、ゆ、許せませんか……?」


「いえ、自分もスマホいじろうかなと一瞬考えてましたから……」


 本当は黒瀬のほうだけど。


《そこで俺だと暴露しないのがお前のや・さ・し・さ!》


 死ね。


「あ~……ち、因みにスマホもいじってると、麗奈ちゃんの機嫌、悪くなりますよ~?」


 ほらな。


《ああ、お前の判断は正しかった》


「ですよね。なのでこれ以上嫌われない為に、勉強の振りしてゲームの攻略でも考えてようかなって」


《それなら相談乗るぜ》


 元よりそのつもりだ。


「そ、それ良いかもしれませんね……ッ! あ、あたしもしよ~っと」


 携帯ゲーム機を鞄に仕舞い、ノートと筆箱を取り出し、二人してエア勉強の準備が整った。


「じゃ、じゃあ、麻美さんと麗奈ちゃんが、か、帰ってくるまで―」


「適当にノート書きながら別の事考えますか」


「ふふふ……なに考えようかな~」


 大人しながらも無邪気にはしゃぐ南先輩が、適当に教科書のページを開き、ノートに文を書き始めた。

 丸写しする気だろう。一番勉強やってます感あるし。

 俺もするか。


《よっしゃ、じゃあこの前倒せなかった五面のボスの攻略方法考えようぜ》


 おけおけ、それじゃあまずレベル足りないから洞窟うろついてザコモンスター討伐するか。


《だな。そしたら回復ポイント付近にしたほうが良いな》


 そこだとレベル低いのしか出てこないから隣のほうが──。



 …………。

 ………。

 ……。

 …。



 などと気付けば二十分が経っていた。

 俺たちは物凄く後悔している。



 ゲームしてええええええええええええええええええええええええええええ!!!



 確かに時間はある程度潰せたが、その反面早く実践したい衝動に駆られ始めた。

 風紀委員が終わったら生徒会も部活も顔出さずに即行帰ってゲームしたい!


 マズい、黒瀬がまた俺を無理矢理乗っ取って帰ろうとしてる……。

 そうはさせるか!


《離せぇぇぇぇ!》


 ここで理由も無しに帰ってしまったら委員長からの評価が下がる。

 しかも折角部活に誘ってくれた紅葉の厚意も無駄にしてしまう!


 あぁ、ヤバい……南先輩も直ぐ攻略したそうだけど必死に我慢してるから血眼になって息を荒くしてる……。


「ふぅー……ッ! ふぅー……ッ! ふぅー……ッ!」


 原因は俺だ……。俺がどうにかしなければ……。

 そうだ!


「せ、先輩はどうして風紀委員に!?」


「ふぇッ!?」


 話題を変える、これしかない!


「き、急に、どうしたの……でしょうか?」


「単純に気になったのと……そろそろお互い辛そうなので……」


「そ、そうですよねぇ……。げ、ゲームの攻略を頭に思い浮かべるだけの作業で、こ、こんなに苦しくなるとは……お、思ってもいませんでした」


「本当にすみません……」


「いえいえ……だ、大丈夫ですッ!」 


 血眼の眼球が元の色に戻り、取り敢えず一安心する。


「そ、そうですねぇ……あたしが風紀委員に入った理由は……進学や就活に、有利になるためですかねぇ……」


 なんとも意外そうで合理的な理由だった。


「も、元々興味無かったんですが……麻美さんから、は、迫力があるから入ってと、い、言われて……それが大学や、しゅ、就活のときの面接に役に立つって、聞きましたので……入りました……」


 確かに迫力はある。怯えてても背が高ければ自然とそう感じてしまう。

 てっきりこの手のタイプは、怯える自分を変えたくて入ったのかと勝手に思ってしまっていた。


「へぇ、委員長からの直々スカウトですか。自分と同じですね?」


「そ、そうですねぇ……。麻美さんには、ち、中学の頃からお世話になってる方ですし、この高身長を初めて役に立つって言ってくれたのも、あ、麻美さんですから……ッ!」


「そうだったんですか。凄く仲良いんですね」


《ん? 百合ルートかな?》


 やめとけ。思ったけど。


 取り敢えずお互いゲームの衝動は消えたようだ。


《俺はまだ──》


 黙っとけ……!


「それにしても、二人とも遅くありませんか?」


「お、恐らく部活以外で残ってる生徒たち……ひとりひとりに理由を聞いて回ってるんだと、お、思います……」


 なるほど、勉強の為に残っている人もいるから残ってるヤツ全員帰れとは言えないもんな。

 戻ってくるまで待ってようかと思ったが、しかしそれだと生徒会や部活に顔を出す時間が無くなってしまう。

 まぁ三十分近くもいたなら、向こうのほうに行っても大丈夫だろう。


《え、やっぱ行くの……?》


 当然だ。入部して早々無断欠席できるか。


《あの女に会いたくないッ!》


 それは俺も同じだ。

 しかし我慢しろ。行かなかったら明日、今日よりも酷いことされるかもしれないぞ。


 最悪の場合、コハ姉だけじゃなく生徒会メンバー全員で俺たちを非難しに来る……。

 とにかく行ってみるだけ行ってみよう。


「南先輩、自分ちょっと生徒会に顔出してきます」


「あ、え、あ……そ、そうでしたね。生徒会も所属、し、してましたね」


「なので、二人が戻ってきたら生徒会に呼び出しを受けて行ったと上手く誤魔化しておいてもらえませんか?」


「ま、任せてください……。ゲーム機見逃してくれたお礼です……ッ!」


「ははは、ありがとうございます。なにかあったら呼んでください」


「う、うん……連絡先知らないですけど……」


 ここもでしたかー。


 その後、南先輩と連絡先を交換し、俺は風紀委員室を出た。

 今日一日で二人も女性の連絡先を貰えた喜びを噛み締め、三階に向かう。

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