放課後の活動




 昼食後の授業は激しい睡魔との戦いだった。


 特に居眠り大好きな黒瀬は開始早々夢の中に落ち、俺の脳内にしか聞こえないのを良いことに大音量のいびきをかいて気持ち良く過ごしやがった。


 道路工事の音にも勝る鼾のおかげで寝落ちは免れたが、機嫌はすこぶる悪い。

 死人みたいな目は更に死人化し、俺の顔を見たクラスメイト数名は身震いする始末。

 そして最後の授業が終了するベルの音を聞き、それを合図に机に突っ伏す。


 あ~……辛かったぁ……。


《あ~……気持ち良く寝れた……!》


 誰かコイツ殴ってくれ金払うから。


 黒瀬にイラつきつつ帰り支度を済ませると、紅葉が肩を小突いてきた。


「……なに?」


 機嫌は悪いが人にぶつける訳にもいかず平常を保っての対応、しかし今の表情は自他共に認める最悪の顔つきの為、傍から見れば天使vs悪魔だ。


〈今日は部室に来れそうですか?〉


 どうだろうなぁ……。

 まず風紀委員に顔出して、そのあと生徒会に寄る予定だから……無理か?


《部活の時は俺が対応すっから絶対行ってくれ》


 それなら俺は引っ込んでゆっくり休めそうだ。


「行けると思うよ」


〈お待ちしております〉


《よっしゃ! 今日も破壊しまくってヤバいもん飲みまくってやるぜ!》


 ただひとつ忠告な。発明品以外はなにも壊すなよ……?


《大丈夫だって。俺が今までなにか破壊したことあったか?》



 過去一日〝表〟の権利与えて外出させた結果、無意識に隣町を半分以上崩壊させたのはどこのどいつだ?



《ごめんなさい》


 日常的な行動を取るときは爆睡してても叩き起こせ。いいな?


《ハイ、ワカリマシタ》


 信用できねぇ……。

 そのあと午後のHRが手短に終わり、最後に矢本先生が朝没収した品を返却するから対象者は職員室に来るようにと促した。


 日直の掛け声で挨拶を済ませ、今日一日の授業が幕を下ろす。

 そして第二部の幕が開けられる。


 さて、風紀委員室に行くか。


 重い腰を上げ、一緒に行こうと国見のもとに向かう。

 が、彼女は早足に教室を出て行ってしまった。


《活動以外は関わりたくないって感じだな》


 そうかもしれないがここはプラスに捉えよう。

 風紀委員の仕事がしたくて俺たちに構ってる余裕なんて無く、教室に行きたいんじゃないのかって。


《そこまで考えれるなら大丈夫だろうな。涙吹けよ》


 おかしいよな。俺今日何回泣いてるんだろ。

 まぁ避けられるのは仕方ないよ。覚悟の上さ。


 けどいざされると精神って思わずビックリしちゃうもんだからさ……。人間には優しくしてあげようね?


《どの口が言ってるんだ》


 オメェも言えねぇ口だろうが。


 と、こんな脳内漫才してる場合じゃない。早く行かないとそれこそ遅刻だのなんだので国見だけじゃなく、委員長からもお叱りを受けてしまう。


 風紀委員の役員が校内を走っているところを見られてしまえば、悪評がついて暴力回数どころじゃない別の問題が発生してしまうから、俺も早足で向かう。


 階段を上がると、丁度よく降下してくる二学年たちと遭遇し、全員『ひっ!』と怯えながら避けてくれた。


 わーい、道が開いたぞー。もうヤケクソだー!!!


 また涙を出してやろうかと眼球に力を込めるが、悲しいかな燃料切れで出なかった。

 因みにさっき教室で涙を拭うのに十分近くも掛かってしまったのは内緒だ。

 止まらなかったんだよ。


《脱水症状でくたばるのだけは勘弁してくれよ》


 そんときはお前の跳躍で海まで飛んで海水たらふく飲んでくれ。


《効果ねぇぞ》


 お前なら大丈夫。


《確かに! お、着いたか》


 黒瀬との会話に集中していると、時折目先の集中力が低下するから教えてくれるのは非常に有り難い。

 風紀委員室のルームプレートを見返し、確認してからノックを三回、そして横に開く。


「失礼しまぁす!」


「ひッ!!??」


 入室した瞬間に軽い悲鳴が上がる。


「南先輩、どうしました?」


「あ、し、白石くん……き、急に入ってくるから……び、ビックリしちゃいました……!」


 相も変わらず怯えた南先輩しか室内にはいなかった。


「驚かせてすみませんでした。ところで、委員長と国見はどこに行ったのでしょうか?」


「あ、あ~麻美さんと麗奈ちゃんは……昼休みと同じように、こ、校内を巡回してきてます」


「となると、自分と南先輩は……?」


 昨日と同じ、南先輩の斜め前の席に腰掛ける。

 向こうは黙読途中だった本で口元を隠しながら喋り始めた。


「あ、あたしと白石くんは……お、お留守番で~す……!」


「お留守番……ですか?」


「は、はい……! 一昨日のように、急用で駆け込んでくる人もいますから……そ、即対応できるよう、最低一人は、た、待機してなきゃいけないんです……」


「じゃあ、今日の待機メンバーは自分と先輩ってことですか」


「そ、そうなりま~す……!」


「待機中、仕事とかありますか?」


「それが……な、無いんです。なので、自由にしてもらって、か、構いません!」


「了解しました。すみません、読んでる途中で邪魔してしまって」


「い、いえいえ! 挨拶も大事ですし、わ、分からなかったら聞くのが……あ、当たり前ですからッ!」


 会話する度に顔と手から汗が噴き出している。夏季はもっと大変そうだ。

 これ以上話し掛けたら可哀想だと感じ、俺も暇を潰し始める。


 生徒会や科学部に顔を出すのも手だが、いざ俺がいなくなった後に依頼事を持ってくる生徒が現れたら大変だ。南先輩一人じゃ対応できなさそうだ。


 それなら風紀委員の活動自体が中盤頃になるまで待機していたほうが、本当にこっちメインで仕事していくというアピールにもなる。


 暇だからってあっちやこっちに顔を出してたら信用を失い兼ねない。


 最悪、まとめて三つ強制退部させられるかもしれない。


 取り敢えず、何で暇を潰そうか。


《スマホだスマホ、昨日見てた〝写真で大喜利〟サイトみたい!》


 よし、勉強しよう!


《はああああああああああああああああああああああああああああああッ!!??》


 考えてもみろ。依頼人が来たときに役員がスマホいじってたらどうよ?

 印象悪くなっちまうだろ?


 それに、二人が戻ってきたときに勉強している姿を見せれば好感度アップ、一週間の回数制限を例え破っても受け入れ態勢100パーセントの感情になってくれるかもしれないぞ?



《斜め前の娘さん。小説読むの止めてゲームし始めちゃったぞ》



 あれれー??? おかしいなぁ???

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