委員長 VS 副生徒会長




 ここは、どこだ……? 天国?


 ああ、天国ってこんなに良い場所なのか。そりゃ誰だって帰ってきたくないな。


 お~何とも気が利く。巨乳な天使さんがお迎えに来てくれたぞ。


 しかも生前俺が恋した女性に似てる。


 よし決めた。俺この天使さんと結婚する。断られたら襲う。神様にボコられるだろうけど。


「……ろせ。し……せ!」


 呼んでいる。天使さんが俺を……呼んでいる。



「白瀬、起きろ!」



「はー!?」


 意識が戻った。目先には心配そうに顔を覗き込む委員長がいた。


「委員長、どうしてここに?」


「こっちの台詞だ。ゲーム機の回収中に白瀬が突然飛んできて、目回してるし逆さまになってるしで、本当になにがあったんだ!?」


 あ~そっか。黒瀬に代わった瞬間に重い一撃受けてそこから気を失ったのか。

 黒瀬の防御力でも、ここまでダメージ入るのか……。


《来るぞっ!》


 マジか、結構距離あるぞ!?


《キレた時のアイツ知ってるだろ!?》


 そうだったな……!


「なぁ、何があって―」


「委員長すみません。訳はあとで話しますから、ひとまず逃げてください!」


「は? なに言って―」


「悪魔が来ます!!」



「そりゃお前だろ……」



 〝白石白瀬は悪魔〟が委員長にまで浸透している事実に膝付いて泣く。


《ショック受けてる場合じゃないぞ!》


 そうだ。


「委員長とにかく避難してください! もう一人の悪魔が来ます!」



「誰の事かしら~?」



 声が聞こえた瞬間に全身が硬直し、重い首を横に向ける。


「いつからウチのことぉ、そう呼ぶようになったのかな~?」


 パキポキと拳から音を鳴らしたコハ姉が、強キャラ間バリバリの足取りで近付いてくる。


「岩沼小春……。なんでアイツが?」


「知り合いだからです……!」


「知り合い?」


「幼馴染なんです~」


 委員長のあとに続き、コハ姉が笑顔を崩さず怒りの声を発した。


「ホントか?」


「はい……家が隣同士ってこともあって、物心付いた時には隣にいました」


「そんな幼馴染が……なんであんな怒ってるんだ?」


「それは―」


「それはぁ、シーくんがウチの嫌いな言葉を口にしたからで~す!」


 説明しようかと思ったら遮られた。


「ウチ、『嫌』とか『無理』とかぁ、そういう短く拒否する言葉が苦手なんです~。何にも思ってない人だったらまだ抑えられますけどぉ、好きな人から言われると凄くムカつくんですよね~?」


「え、白瀬。お前アイツに好かれてるのか……?」


「恥ずかしいような……。誇れるような……」


 本当に微妙なライン……。


「ですからぁ、そういう悪い子さんにはぁ、お仕置きが必要なんですよぉ」


 コハ姉が再び拳を構える。

 あの……なにか見えないはずの紫色のオーラが……出てますけど。


「なのでぇ、新田さんそこを退いてくださ~い。でないとぉ、アナタも巻き込んでしまいますよ~?」


「ということなので委員長、離れてください。あと数十回耐えれば治まります!」


「大丈夫なのか!?」


「大丈夫です!」


《受けるの俺なんだけど!?》


 大丈夫お前ならやれる! 自分を信じろ!


《他人事だと思いやがってぇぇぇっ!》


 来るぞ!


《チクショウ!!!》


「待ってくれ!」


 俺とコハ姉の間に、委員長が割って入ってきた。


「あらぁ、新田さん。なんの真似でしょうか~?」


「可愛い後輩がただ殴られるのを見過ごせないだけだ……!」


 黒瀬、スマホの録音機能起動させろ! そしてもう一回言わせて!


《俺が掴むと大破するぞ》


 チキショウ! 常時バカ力が!!


「これは幼馴染での問題事ですのでぇ、アナタには関係ありませんよ~?」


「それが大いにあるんだ」


「?」


「ここは学園内だ。そして今お前は生徒会〝副会長〟のレッテルが貼られている。生徒会の人間が生徒、ましてや学園のために活動している風紀委員の人間に暴力を振るったことが知られたら、生徒会の評価はガタ落ちするんじゃないのか……?」


「…………」


 多分その暴力受けた生徒が俺だって知られれば、コハ姉は悪魔を退治してくれた女神様と崇められるだろうな。


《悲しいね》


 悲しいよ。


「…………(チッ)」


 コハ姉が小さく舌打ちをする。アレをしたってことは、悔しいけど納得したって意味だ。


「ふふ、新田さんの言う通りですねぇ。ウチも少し頭に血が上ってぇ、冷静な判断が出来ていなかったようです~」


 瞳の奥が笑ってない……怖い。


「そう思うのなら早く立ち去ったほうが良いぞ? 騒ぎで野次馬が集まれば弁明もできん」


「そうですねぇ、騒ぎになる前に退散しま~す。まだボトル集めも終わってませんし~」


 そう言うとコハ姉は、ぽっかり穴の開いた壁面から戻っていった。


「シーくん、生徒会に顔出せたらぁ、来てね~」


 前を歩きつつもこちらに視線を送り、手をひらひらと軽く振りながら行ってしまった。

 冷静を装ってるようで隠された怒りが恐怖でしかない。


「はぁ~…………!」


 緊迫な雰囲気から解放され、体内の空気が一気に口から出される。


「ありがとうございます委員長……!」


 両膝に両手を付き、疲労ポーズを取りつつお礼を言う。


「気にするな。寧ろアイツに悔しい思いをさせれてこっちはスッキリした」


「岩沼さんとの間で何かあったんですか?」


「単純に―」


 委員長が瞬時に目を細め、眉間にシワを寄せ、阿修羅のような顔をした。



「私はあの女が嫌いだ……」



「…………」


 疑問は浮かんだが、聞くのはまた今度にしよう。


「腹の中で何を企んでいるのか分からん」


 あ、説明ありがとうございます。


「生徒会長も同様、笑顔を振りまいて周りの好感度を上げ、従わない者、気に食わない者は潰すという腹の中が腐っている人間が私は好きではない……」


 委員長ガチギレの顔はちょっと……正直可愛くない。


「お、いけないいけない。怖い顔を見せてしまったな、すまない」


 ガチギレからいつもの可愛い顔に戻ってホッとする。


「それにしても、白瀬と岩沼が幼馴染だったとはな。幼少期辛くなかったか?」


「えぇ、まぁ……」


「そっか。またなにかアイツとトラブったら連絡をくれ」


「ははは……その時は宜しくお願いします……」


「それじゃあ交代の時間だし、そろそろ戻るか」


「はい」


 返事をすると同時に空腹音も鳴り、二人で笑う。

 騒ぎで先生たちが駆け付ける前にその場を急いで離れ、教室に戻る。


 室内では国見と南先輩が待機しており、帰ってきた俺がボロボロの状態だったことに驚かれた。

 国見からは暴力騒動を起こしたのかと問われたが、委員長が誤魔化してくれた。


 土に埋まった生徒を助けるのに自らドリル回転して助けた、が通じるとは思わなかったけど……。

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