我らが天敵……第二の幼馴染
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三階廊下と三年生の教室も見終わり、指定時間になるまで暇になった。
いやぁ、にしてもビックリしたなぁ……。
《まさか廊下に現れた瞬間に悲鳴上げられるとはな……》
まったくだ。
黒瀬の暴走で無限の彼方に吹き飛ばしてしまった三年生数名は、行方不明扱いで捜索依頼が出されている。
壁に埋め込まれた先輩たちは、全治二年と診断されたようだ。
そこから噂が一人歩きし、たった一日で三年の間では〝白石白瀬は三年生を憎んでいる悪魔〟と広まってしまった。
そしたら今朝の服装検査中、指定鞄じゃなかった三年の女子先輩が号泣した理由がよく分かった。
教室を覗けば一年以上に伏せてたし、廊下を歩けば恐怖のあまり泡吹いて倒れる人もいた。
なんともない人も一部いたが、目は逸らされた。
お前……とんでもない下克上してくれたな。
《快感だった……》
やかましい。
こりゃ当分の間、活動以外で気軽に三階には足を踏み入れられないな。
《なんでだ? 毎日悲鳴聞きたい》
それがストレスになって受験に響いたらどうする? 確実に訴えられるぞ。
《頑張れ★》
一回刺されろ。
《そんときゃ道連れだ》
あ~腹立つ……誰かコイツぶっ飛ばしてくれないかな……。
イライラしてても何も解決しない。取り敢えず一階に降りよう。
結局違反者はゼロ……多分黒瀬が暴れなかったら、あっちやこっちで注意と指導の嵐だっただろうな。
《感謝してね★》
くたばれ。
このまま時間まで暇潰しに廊下歩いてても仕事にならないし、外に出て委員長の手伝いでもするか。
《外の方が隠れて遊んでるヤツ多そうだな》
確かに。それなら二手に分かれて巡回したほうが効率良さそうだ。
早速一階廊下まで下り、昇降口に向かおうと歩を進める。
《…………ッ!?》
すると突然、黒瀬が怯えだした。
どした?
《…………!!!》
黒……瀬?
《…………!?!?》
本当にどうした!?
《……て……くれ……ッ!》
……なんて?
《逃げてくれ……ッ!》
……もしかして?
《いる……来るんだよっ!》
黒瀬がこんなに取り乱すのには理由がある……。
そしてその恐怖は俺も充分理解している。
二人(?)して恐れているからだ。
「あら、シーくん?」
「…………ッ!?」
黒瀬の察知は正しかった。
声を聞いただけで背筋が凍り、体が強張った。
《…………!!!》
黒瀬はもう委縮してしまっている。
可能なら即入れ替わって全速力で逃げたいが、こうなってしまってはどんなに物で釣っても出て来てくれない。
見掛けたのであれば隠れられたが、声を掛けられたのでは後が無い。
無視すれば最悪命を失うかもしれない……。
く……服装検査のときは感付いた瞬間隠れたから会わずに済んだものを……。
声を掛けられてから思うように体が動かなかったが、脳からの信号を少しでも聞いてくれるようになり、ゆっくりゆっくりと振り向く。
「や、やぁ……コハ姉……」
俺の目の前に立っているのは、ほんわかな雰囲気を醸し出している女子生徒だ。
髪は長く、その長さは委員長と同等、いや……僅かに向こうのほうが長いか。
その右側に紫色のリボン型ヘアピンが留めてある。
豊満な体型は目のやり場に困り、色んな意味で直視したくない……。
名前は
「なにしてるの~?」
笑顔を崩さずコハ姉が近付いてきた。
ヤバい、黒瀬が野生的本能から俺を無理矢理乗っ取って逃げようとしてる。
バカな真似はよせ! 死ぬぞ!
「ふ、風紀委員の活動さ。コハ姉は……?」
「ウチ? ウチはねぇ、生徒会の活動でボトル集め中~」
コハ姉が片手に持つビニール袋の中には、ペットボトルのキャップが大量に集められていた。
「へ、へぇ……エコの一環かい?」
「そうなの~。それでぇ、今日の当番はウチって訳~」
なんというタイミングの悪さ……。
「大変だねぇ……」
こっちも黒瀬を落ち着かせるので大変だけど!
「そんなことないよ~。こういう学園を良くする仕事がしたくてぇ、生徒会に入ったんだから~」
相変わらず嘘偽りの無い真正直な輝く瞳、恋愛感情抱いて風紀委員に入った自分が情けなく思ってくる。
「寧ろシーくんのほうが大変じゃなぁい? 生徒会と風紀委員掛け持ちしてるって聞いたわよ~?」
そっかーッ!
副会長のコハ姉だから八乙女会長さんから連絡貰って知ってるのは当たり前かーッ!!
「平気さ平気! 忙しいの全然平気だからさ!」
落ち着け白瀬、取り乱すな白瀬……返事に気を付ければ良いだけだ……ッ!
「ん~でも全然楽しそうに仕事してるってぇ、雰囲気じゃないよね~?」
「楽しい楽しい! あ~楽しい! 鼻からミサイル出る勢いで楽しい!」
頼む誰か助けて……それかツッコンで……。
「そう見えないな~。やっぱシーくんに風紀委員の活動はぁ、荷が重いと思うのよね~?」
「あー風紀委員の仕事楽しいなぁ! 次はどこ巡回しようかなぁ!」
お願い一瞬だけでも全国の不良学生ワープ召喚されてきて。黒瀬が勝手に沈めるから!
「一昨日の件でぇ、昨日からシーくんの良い噂耳にしないしぃ、それに風紀委員って少しの違反でも注意してくるって理由でぇ、印象も悪いって聞くのよね~……あ、そうだ!」
何かを思い付いたコハ姉、それと同時に俺の脳内で戦闘BGMが自然と流れ始めた。
さぁ来たぞ! ここからだ!
「ねぇ、風紀委員じゃなくてぇ、生徒会メインで活動していかな~い?」
⇔SELECT
●その場凌ぎ(生存確率〝中の下〟)
●そうだね! そうしよう!(死にたくない)
●嫌だ(死亡)
よし黒瀬、こんな時でも仕事放棄してなくて偉いぞ!
さぁ出された選択肢は三つ……というか一つしかない……。
【その場凌ぎ】とか、何て言えば良いんだ……。
まずい、視界の右上に配置されたカウントが十秒を切って赤く点滅し始めた。
選択が遅れれば、強制的に真ん中を言ってしまう。
ええい、ままよ!
「えぇ……っと、せっかくのお誘い有り難いけど、ごめん。俺……悪事を働く生徒が許せなくてな! そういう奴らを徹底して指導したいから、風紀委員メインで活動していきたいのさ……ッ!」
追い込まれてなお、いい加減な発言をペラペラと口から出せるとは……自分でも驚いた。
さぁて、問題はコハ姉だ……。
「そうなんだ~。ざ~んねん」
笑顔をキープしたまま困り眉をしただけで、機嫌が悪くなる様子はなかった。
レベル1クリアッ!
視界の周囲が明るくなり、俺にしか見えないクラッカーが音を立てて祝ってくれた。
今ので何年か寿命が縮んだ……。
「せっかくシーくんとぉ、一緒になれると思ったのに~。あ、でもぉ」
しかし甘かった。次の戦闘BGMが流れる。
「生徒会の人と風紀委員の人が恋愛したらぁ、なんか漫画っぽくて素敵になるよね~?」
あぁ……この前の俺と同じこと考えてる。
「なにを仰ってるのかなぁ……」
「とぼけてもダメよ~。ウチ、シーくんのこと諦めてないから~」
これは決して
家が隣同士でもあり、コハ姉とは物心付いた時から一緒に遊んでいた
お姫様がハッピーエンドを迎える
それが地獄の門の入り口だった。
小学校に上がってから恋愛漫画と恋愛ドラマにハマり、中学では恋愛映画や恋愛小説を、自分が心にときめく台詞を俺は復唱させられ、歯が浮く言葉に気分を害して精神が何回か狂った。
そして最後に必ず一言―。
『ウチも、その言葉待ってるから……!』
最早死刑宣告だった。
コハ姉は俺に恋愛感情を抱いてしまったようだ。
周囲からは〝お似合い〟だの〝告れ〟だの茶化され、真に受けたコハ姉は『まだかまだか』と待機しているという。
もう一度言おう。これは怪談話だ……黒瀬が涙を流して悲鳴を上げた。
「ねぇ、シーくん?」
顔を赤らめたコハ姉が更に距離を縮めてきた。
育ちに育った胸部が押し当てられ、その一瞬で視界に花畑が芽生えてきたが数秒で焼け野原になり、戦闘BGMが再び鳴った。
「ナンデショウカ……?」
「お互い恋愛できる年齢になった訳だしぃ、こんなにアタックもしてるからさぁ……そろそろ付き合っても良いんじゃないかな~って?」
⇔SELECT
●その場凌ぎ(生存確率〝下の中〟)
●そうだね! そうしよう!(死にたくない)
●無理(死亡)
再び俺の視界下部に選択肢が表示される。
おい、さっきと比較して生存確率低くなってるぞ。
《…………ッ!》
ダメだ……黒瀬は選択肢を出すだけの無口の係に成り下がってしまった。
とにかく、三番目は希望が無い……二番目はいずれ身体的癒しはあるがそれまでが恐らく地獄、精神的に崩壊する……となるとやはり一番を選ぶしかないのか。
しかし、恥を忍んでの告白を断れるその場凌ぎの台詞が、果たしてあるのだろうか?
下手な事を口にしてしまえば下の中が、下の下にまで下がってしまう。
そうならない為にも、答えてからの予想を考えておかなくては……。
ケース①アナタとは付き合えません……死亡。
ケース②今は恋愛そのものに興味がない……全治一年。
ケース③他に好きな子がいる……骨も残らない。
あーダメだ! どの選択肢も物理技を喰らってしまう!
黒瀬、良い案寄越せ!
《【しばらく旅に出ます。探さないでください】》
逃げんな居場所はここだ。
《…………ッ!》
怯えるな。口に出さなくても良いから指で示してくれ。
《…………ッ!》
そして願い通り黒瀬が指を差してくれた。
ケース②だ。
だよね。他二つは『神様早めに来ちゃいました★』が確実だから選べないもんね。
あとは文章だ。チクショウ……またカウントダウンが赤く点滅しやがった。
回避する毎にカウントタイム増量してほしい。
マズい、残り三秒!
「い、今はぁ……恋愛とかに興味ないかなぁ……なんて!」
《コイツ……そのまま言いやがった……だとッ!?》
仕方ないだろ、思い付かなかったんだから……。
「そうなんだ~。いが~い(意外)」
嘘ですごめんなさい。本当は委員長と付き合いたいです。
けどセーフ!
レベル2クリアッ!
また視界の周囲が明るくなり、クラッカーが音を立てて祝ってくれた。
今度は拍手付きだ。誰からのかは不明だけど。
「今時珍しいね~。男の子ってぇ、高校に入ったら第一に女の子と付き合いたい生き物って思ってた~」
まぁ……大体当たってます。
とにもかくにも、コハ姉への選択肢【前門の虎後門の龍ver.】は無事回避できた。
そろそろ頃合いだし、お互い仕事の途中だ。
あと五分弱雑談すれば解放してくれるだろう──。
「あとぉ、一つ良いかな~?」
戦闘BGM!?
なに? まだ残ってるの!? 今度はなに!?
《ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!》
落ち着け黒瀬! きっと軽い選択肢だ! 難しく考えるな!
「なに……?」
恐る恐る聞く。
「今日の放課後ぉ、下着買いに行きたいの~。一緒に来てくれる~?」
⇔SELECT
●無理に決まってるだろ!?(火葬で済む)
●なんで一緒に行かなきゃ行けないんだよ!?(土葬で済む)
●嫌だ(シークレット)
くそ、拒否しかない……!
良くて土葬か? 止まった心臓を黒瀬が何かしらの気合で再び動かしてくれれば這い上がるのは簡単だ。
火葬は、焼かれている最中に黒瀬が何かしらの何かで心臓を動かしてくれれば脱出は可能。
……ん? 三つ目の拒否……なんだこれ? シークレット……?
いつもなら三つ目の選択肢は、確実な天国即行コースに繋がっているはず。
しかしこのバージョンは初だ……。気になる……。
【5・4・3・2……】
ヤバいヤバい! おっしゃシークレット、頼む!
《あ、ごめん……。三つ目間違って出しちゃった……》
…………………………………………………………………………は?
「嫌だ(選択してしまったため自然と口から発せられた)」
…………………………………………………………………………あ。
「…………ふぅん」
コハ姉の瞳に灯されていた光が音も無く消えた。
笑顔は保ったまま、しかし感情は明らかに〝喜〟ではなくなっていた。
黒瀬くん……防御態勢取っておいて。
《無理無理無理無理ッ》
頼む。俺喰らったら一撃で全部壊れる。
《んーっ!》
下唇を噛んで唸った黒瀬が交代してくれた。
そして地獄が始まった。
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