昼休みの活動

「早速二回も使ってしまったか……。麗奈から連絡が来たぞ」


 昼休みになり、俺だけ風紀委員室に呼び出された。

 理由は初日で回数制限のある〝暴力での脅し〟を二回使ってしまったことと、もうひとつは昼休み中の違反者取り締まりによる活動上の説明を受けるためだ。


「すみません……。不要品の回収をスムーズに行うためにも、こうするしか方法なかったんです」


「ま、まぁ……そういうことならノーカウントにしてあげたいが、当初の予定として力での脅しも含んでしまったからなぁ……。あと一回は我慢できそうか?」


「我慢してみせます!」


 ここで我慢できなければ今ある委員長との幸せ空間も今後味わえなくなる。

 それは嫌だ。


「よし、その意気だ。じゃあ、昼休みの活動内容を説明するぞ」


「ちょっと待ってください。国見と南先輩は、待たないんですか?」


「あ~まずそこの説明からか。昼休みは基本交代制で活動している。最初の半分は私と白石くん、後半は麗奈と楓だ」


「となると、自分たちが昼食を取るのは後半の時間帯でって訳ですか」


「そういう事になる。内容も至って簡単、校内を見回って校則違反を犯している生徒がいたら減点して指導を行ってくれ。持ち物検査を逃れ、服装の乱れとか、娯楽に浸ってる生徒とかもいるし、最近だと不純異性交遊などもあるらしいから、この時間は暇になることが余りない」


「不純異性交遊ですか……。全部見終わってから指導していきたいですね」


「あ~……、私の前では大丈夫だが麗奈の前では口にするなよ。引っ叩かれるぞ」


「気を付けます……」


「宜しい。それじゃあ私は中庭や校舎裏とかの外部方面を見て回るから、白石くんは教室、廊下等の内部巡回を頼む」


「外部のほうが危険性高くないですか? 自分が適任かと」


「私を甘く見るな。これでも委員長だぞ?」


 にしては喧嘩強そうに見えない華奢な体躯だし、可愛いし。


《関係あるか?》


 関係有りまくりだ。


「だったら、危険だなと思ったときは呼んでください」


「そうするよ。連絡先知らないけど」


 あ、そう言えば教え忘れてた。

 お互いスマホを取り出し、メールアドレスと電話番号を交換する。

 やっべぇ、今夜からめっちゃ通話したい……。


「あと呼び方だが、今から名前のほうで『くん』無しで呼んでいいか?」


「オッケーです!」


 YES以外選択肢がなかったため即答する。


「良かった~。親しくなった人は名前呼びしたくてな。ただタイミング逃して、どこで呼ぼうか悩んだ結果ここでになってしまった」


 寧ろ二人だけのタイミングで初呼びしてくれたことで妙な興奮が芽生えた。ありがとうございます!


「それじゃあ白瀬、腕章を付けて記入表はファイルに挟んだか?」


「はい、ここに!」


 言われた物二つを堂々と見せ付ける。

 委員長に呼び捨て&名前呼びされたことで距離が縮まった気がした。

 あ~……良い……!

 持ち物検査のあと、机に入れておくようにと国見に言われ、どう処理して良いのかに困った腕章とファイルが、まさかここで再活用できるとは思わなかった。


「そしたら三十分後にここで落ち合うか」


「了解しました。こっちも何かあれば連絡入れます」


「お互い何も無ければ良いな」


《お、フラグか?》


 黙っとけ。

 そして委員長と昇降口まで移動し、靴を履き替えて外に出るまで見送った。

 さてと、俺らも始めるか。


《本当に何も無ければいいな》


 お前もフラグを立てるな。

 昇降口をスタート地点とし、一階廊下から始める。

 と言っても、すれ違うクラスメイトやA組の生徒は、今朝の行動から更に俺を警戒するようになっていて、とても校内違反をするようには見受けられなかった。

 そしたら一階廊下は大丈夫そうかな。


《脅しってスゲェな》


 言うな。俺が指示したとはいえ悲しくなってくる。


《そういや隣のクラスでも道具メッチャクチャにした時、生徒会の男のほうドン引きしてたな》


 そりゃあ、ボウリングの玉を数秒でゴミ屑に固めたんだ。

 驚かないほうがおかしい。


《じゃあ幼馴染の女の方はおかしいんだな。表情一切変えてなかったぞ》


 琴葉に関しては、お前を制御できてない小学生時代からの付き合いだから、昔の見境ない破壊衝動より、今回のほうが小さいと感じてリアクション薄かったんだろうよ。


《慣れって怖いね》


 ああ……だからやり過ぎると近い内、今朝みたいなアクション起こしても反応してもらえない可能性が大だ。


《反応されなくなったらどうなるんだろうな……。暴動でも起きるか?》


 そしたら風紀委員辞める覚悟でお前を暴れさせる。


《結局俺頼みかい》


 暴れたくないのか?


《暴れたい》


 素直で宜しい。


 さて、念のため手洗い場も見たけど、隠れて煙草吸ってたりしてる生徒はいない……と。


《まさかお前……女子手洗い場もッ!?》


 男子のみしか入ってないの今見てたろが!


《冗談だ》


 ったく……因みにそっちは何か気配あったか?


《遠くのほうに感じたが、ありゃあ生徒会のイケメンさんを狙った殺気だ。気にすることはない》


 そっか。致命傷レベルは?


《〝中〟だ。コンパスで喉元狙われたけど普通に避けた》


 いつも通りか、サンキュー。


《で、一階は終わりか?》


 そうだな。教室は覗いた瞬間に全員伏せたし、娯楽に浸ってるようなのもいなかったから済まして大丈夫だろうよ。


《おう、涙吹けよ》


 おかしいなぁ……入学してから想像していた平穏な高校生活からドンドン離れていってる。


《想像は現実にならんから諦めるんだな》


 お前は励ましたいのか? どん底に突き落としたいのか?


《暴れたい》


 選択肢から選べ!


「…………」


 もし黒瀬との会話が発声限定だったら、もっと危険人物として見られていただろう。

 傍から見れば一人漫才みたいなもんだ。

 脳内で会話できることに対し、改めて感謝する。


 よし、気を取り直して二階だ二階、次は二年の廊下と教室だ。

 持ち物検査での噂が広まっていなければ伏せられる心配もないだろう。

 中央の階段から上がり、廊下を見渡す。

 そこで早速安心できる人物たちを見付ける。


「せんぱぁい!」


 リーゼント・逆モヒカン・ボンバーヘアーの、中身は実は坊主先輩たちだ。


「おお、シロ坊! 昼休みまで仕事とは偉いもんだ」


「いつの間にかこんなに立派になりやがって、一昨日会ったばかりだけど」


「おめぇの成長、最高にカッコ良いぜ!」


 三人の盛り上がりで廊下が少し騒がしくなったが、昼休み中ということもあり、気に留める生徒はほとんどいなかった。


「ははは、ありがとうございます。今校内で校則違反者がいないか見て回ってるんですが、先輩たちは勿論大丈夫ですよね?」


「あったりめぇよ! 俺たちは心を入れ替えたんだ」


 リーゼント先輩がドンと胸を張る。


「なら良かったです。そう言えば二年の持ち物検査は南先輩が行ったんですよね。どうでしたか?」


「あ、あ~……アイツは~……」


 逆モヒカン先輩が目を逸らす。

 なにかあったのか?

 するとボンバーヘアー先輩が顔を近付けてきた。


「あまり大きい声で言うと聞かれて泣かれるから小さい声で説明する」


「ど、どうぞ……」


「アイツ、あんなビクビクしてても身長が超デカいから妙な威圧感があって、何されるか分かったもんじゃないから素直に従うしかないんだ……」


 なるほどね~。


「それで今日、モヒカンの奴が漫画入れててよ。回収される際、南楓が怖くて気を失いそうになったんだとよ」


 だから元気が無いのか、納得。


「しかも身長のことを弄れば新田麻美が来るまで泣き続けるから、正直みんなもどうすれば良いのか焦っちまう。恐ろしいヤツだよ……!」


 一番風紀委員が似合ってない南先輩が、まさか二学年の間で恐れられていたなんて……。


「あ、し、白石くん……!」


 そしてタイミングバッチリ、聞き覚えのある声と喋り方が俺の名字を呼んだ。


「ど、どうも……南先輩……!」


「い、今昼休みの活動中ですよね? あ、あと数分したら……あ、あたしと麗奈ちゃんと交代だから、お仕事全部やってくれると、う、嬉しいなぁ……なんて!」


 冗談を言え慣れてないのは直ぐに分かった。

 本人には失礼だが、先輩たちの言った通り、デカい身長の人がオドオドしてると不気味で何されるか分からない。

 南先輩が現れてから、デブ三人は視線を逸らして口を閉じたままだ。


「さ、三人とも……! 白石くんを、こ、困らせないようにしてくださいね!」


 三人は恐らくアナタがいることで現在困っています。


「えっと……南先輩、教室内で娯楽品使っている人とかはいませんでしたか?」


「そ、それなら、大丈夫です。今朝、ちゃ、ちゃんと回収しましたから……!」


「そ、そうですか。ありがとうございます……」


「じゃ、じゃあ、アタシは教室に、も、戻りますね。あ、あとで……会いましょう」


「はい……」


 俺との会話を強制的に終わらせた南先輩が早足にB組へ帰っていった。


「(す~っ)ぷはぁ~ッ!!!」


 姿が見えなくなるや、鼻で酸素を大量に吸い、口から盛大に二酸化炭素を排出した。


「な? 妙な焦燥感あっただろ?」


 逆モヒカン先輩が静かになった場の空気を打破して聞いてきてくれた。


「はい……。デカさの威圧感プラス聞き直したりしたら泣かれるだろうと思って、妙に気を遣ってしまいました。その結果、疲労感たっぷりになりました……」


「俺たちが言いたいのはそれだ……」


 リーゼント先輩が肩に手を置いてくる。


「シロ坊、もしかしたら風紀委員での注意人物は、新田麻美でも国見麗奈でもない……南楓かもしれない……」


「変に疲れたら連絡くれ。ゲーセン奢ってやるから」


「あいよ、これ俺たちの連絡先」


 ボンバーヘアー先輩から電話番号の書かれたメモを渡される。

 それが全部市街局番からだった為、先輩たちはガラケーは勿論のこと、スマホも持ってないことを理解した。


「ありがとうございます。何時頃なら電話して良いですか?」


「夜八時から十時まで」


「十一時以降は勘弁な。親寝てるから」


「深夜もやめてくれよ? 俺たちが寝てる時間だから」


 この人たち元不良なんだよね……?


「了解しました、気を付けます。それじゃあ何かあったら連絡しますね」


「おう! 待ってるぜ!」


「では巡回に戻ります」


「頑張れよ~」


「遊んでる奴見掛けたら報告すっからよ」


「助かります!」


 そして三人の先輩に見送られつつ活動を再開した。

 A組を覗くと、食事中・雑談中・授業の準備中・瞑想中と、怪しい動きをしている人は見当たらなかった。

 B組は南先輩が見てくれたけど、一応軽く覗き込む。


 《特に遊んでるようなのは居ないな。隣と同じだ》


 そうみたいだな。

 あ、窓側の一番後ろの席に座る南先輩を発見、サンドイッチを食べながら小説を読んでいる。


「…………」


 開口された窓からの微風に吹かれ、髪がなびいても読むのを止めない。

 こう落ち着いた様子を見ると、委員長と同じで綺麗な人だ。


 無理して話そうとせず、大人しくしてれば彼氏の一人か二人は出来ててもおかしくない。

 ただあの身長に釣り合う高身長の男が日本に何人いるかが問題だ。


 《別に男のほうが低くても良いだろ。心が引き合うなら背の高さなんか関係ない》


 どうした、気持ち悪いぞ?


《国民的アニメの夫婦でも父親低くて母親高いだろ? それでも幸せそうにしてるじゃねぇか》


 じゃあ黒瀬は自分よりも背がデカい女性と付き合えるのか?


《無理》


 なんなんだよお前……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る