委員長 VS 生徒会長
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「ありがとう白瀬くん! おかげでまた命が助かったよ!」
「感謝致します! アナタ様はお嬢様の命の恩人です!」
右手を船岡、左手を黒服にガシッと握られる。
二人ともそれぞれ対象人物が異なるが、感謝して涙を流してくれるのは一緒だ。
「さすがです。白石くん」
暑苦しい涙サンドの被害にあっていると、会長輩が軽い拍手を送りながらゆっくりと近付いてきた。
「反射速度に自信のある我が八乙女家自慢のSPよりも素早く行動し、見事ワタクシと船岡を救ってくださいました」
ごめんなさい、八割は黒瀬の興味本位です。
「アナタのその力は正に逸材。それほどの能力でしたら、庶務として生徒会の警護も任せられそうです。どうでしょう、やはり生徒会メインで学校生活を送ってみてわ?」
会長が胸を強調するようにして誘惑してきた。
ふ、甘いな。俺が心に決めた胸部は委員長だけだ。
他の胸部はフラれた時にいただく。
《最低じゃねぇか》
「おっとそこまでだ八乙女……!」
委員長が止めに入ってきてくれた。その表情は実に険しい。
「あら、なんでしょうかメスゴリラさん。あ、申し訳ございません、新田委員長様」
あからさまな悪口を聞き、場の雰囲気からか背筋が凍る。
「そのアダ名は聞き飽きた。それよりもだ……、生徒会長でありながら下品に誘惑して恥ずかしくないのか?」
俺は嬉しかったです。これ言うと多分殺されそうだから言わないでおく。
「あら、下品とは人聞きの悪い。生まれ持った魅力を利用して優しく誘っているだけです」
「ほぉ、それはすまなかった。私にはどうしても『下品』に見えてしまったのだからな」
下品の部分が強調されてたな。オラァ怖くなってきたぞ?
「ワタクシの崇高な行動をそう思うという事は、アナタの頭の中が下品だから思い付くのでしょうね……?」
委員長と会長の目が座ってきたので私は帰りますお疲れさまでした。
「白瀬くん、学校はそっちじゃないよ」
笑顔の船岡に肩を掴まれ、正門に運ばれていく。
これはこれで逃げれて有り難い。
「とにかく、白石くんは今後風紀委員をメインに活動していくと昨夜貴様に報告したそうだからな。余計な口出しはしないでもらおうか?」
「それはそちらの勝手な解釈でしょう? 確かに本人も風紀委員メインで活動していきたと仰っていました。しかしそれは生徒会の魅力にまだ気付いていないからです」
二人とも冷静なようで、鎧甲冑を着込んだ守護霊を背後に呼び出して戦わせるんじゃないかと言わんばかりのバチバチ感だ。
「表の綺麗な部分ばかりを見て裏のほうはまったく目を向けようとしない集まりに魅力など感じないと思うのだが?」
「それはこの学園に汚い部分があると言いたいのですか? 在学生として無礼に値します」
うん、取り敢えず―。
「船岡悪い。吐いて良いか?」
もう耐えられましぇん。
「今は我慢して。あれが二人なりの挨拶なんだから」
「え、あれが!?」
あんな周囲がドキドキする挨拶なんて見たことも聞いたこともないぞ。
「見てもらって分かる通り、会長と委員長さんは入学当時から反りが合わないらしくて、会長が生徒会書記だった時、委員長さんが入りたてだった時、とにかくいがみ合っては教室一つメチャクチャにしてたみたい」
「暴れたってことか……?」
「そ。だからあれでお互い手が出てないから、まだマシだって副委員長が言ってた」
な、なるほど……。
「ところでお前は、なんで会長さんと一緒に登校してきてるんだ?」
「自宅が遠いってことを話したら、毎朝迎えに来てくれるようになったのさ。おかげで早起きしなくて良いから楽だよ」
「お前結構気に入られてるんだな……」
男子生徒からは忌み嫌われてるけど。あ、サッカーボール。
「おっと」
それを船岡は避け、避けた先の俺が透かさずキャッチする。
これは黒瀬に任せずとも反射的に取れた。
《呼んでもらえないと結構寂しいよ》
ごめん。
《良いよ》
優しい。
「じゃあ、会長と委員長は宜しくやってる訳だから、お前の服装検査だけでも済ませるか」
「ごめん白瀬くん。出来れば麗奈さんにチェックしてもらいたいんだよね」
「麗奈……? あ~国見か。別に構わないぞ」
普段名字で呼んでいると、名前を呼ばれても直ぐにピンと来ないところが非常に悩ましいところ。
それにしても、ご指名とは驚いたもんだ。
委員長と会長の静かなる喧嘩を呆れながらも見学していた国見を呼びつける。
「なんでしょうか?」
「船岡が服装のチェックをしてもらいたいんだとよ」
溜め息が少し吐かれる。
「またですか……?」
また……と言う事は習慣的な流れになっているのか。
「えぇ、真面目で綺麗なアナタに見てもらいたのです」
歯が浮くようなセリフを、これまた慣れたように発言した。
《おい、アイツ地面に埋めていいか?》
今はみんなが見てるやめておけ。
「はいはい……ありがとうございます」
しかし国見は照れる訳でもなく、聞き慣れてる様子で船岡の身だしなみと模範用紙の照合を続けた。
「減点箇所はありません。相変わらずの誠実さで見習いたいところです」
「いやぁ、褒めてもらえるなんて嬉しいです!」
《女のほう感情こもってなかったぞ》
知ってる。
国見に対する船岡の想いも気になるところだが、こっちも気になる。
「ふ、二人とも……も、もうその辺でやめましょうよ?」
未だ煽り合戦を続けるダブルトップを、南先輩があたふたしながら止めにかかっていた。
そろそろ互いの胸倉を掴み合っても良い距離感だ。
「そうですわね。いつまでも正門前で睨み合っていては他の生徒さんを怖がらせてしまいますからね」
「貴様の場合は思い通りにならない生徒を無理矢理従わせている点で怖がられているんじゃないのか?」
「ふふ、侵害ですわ。学園を穏やかにする為に教育しているだけです」
「男女ともに魔改造することが教育だと言うのか? 笑わせる」
「聞き入れない者には多少手荒なことでも徹底して聞かせる。それを風紀委員の方々が実行していただけないからこちらが行っているのですよ?」
「ご心配せずとも、不良三人を更正させた人材が入りましたので、これからは我々に任せて教室で大人しく資料でも整えていてもらいましょうかな」
「ですから白石くんをそちらだけのものとして話を進めないでもらえませんこと? それにワタクシ達にもプライドがありますから、資料整理だけでなく学園の平和を守るためにも彼の力が必要なのです。ということは、生徒会メインで活動したほうが彼のためにもなります」
「はい終了ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
クロスチョップの構えで二名の間に割って入る。
ダメだ、もう我慢できない。
止めようとしてた南先輩泣いちゃってるし、矢本先生に至っては朝の会議だかで職員室に戻っちゃうしで、俺がこうするしか選択肢ないでしょぉぉぉぉ!!!
《うん、お前頑張ったよ》
ありがとう黒瀬、大好き!
「ここで一旦試合は終了! 委員長は会長の服装検査をさっさと済ませてください!」
こういう空気の場合、南先輩のような怯えた態度は効果が薄い。
堂々と行けば大抵上手く進む!
「そういう訳だ。今から身だしなみの確認を始めていく。構わないな?」
「えぇ、いつもは南さんにやってもらっていますが、たまにはアナタに見てもらうというのも新鮮で良いかもしれませんわね」
すると会長は抵抗なく、無防備状態で服装検査を受けた。
はぁ、これで一安心。さて、国見のほうはどうなっているやら―。
「ですから、今度の土日にどっちかに一緒にお茶でも」
「離れてください。活動の邪魔です」
「活動と言っても、もう始業ベル数分前ですから登校してくる生徒はいませんって」
「次は遅刻者の取り締まりと指導です。アナタこそ早く教室に戻らないと遅刻扱いにしますよ?」
「構いません。それだけ麗奈さんと一緒にいる時間が増えるなら」
あ~なるほど、船岡そういう事か。
《マニアっているんだな》
ホントだねぇ。
「し、白石くん!」
「どうしました?」
呼び掛けてきた南先輩が両目に涙を浮かべたまま向こうを指差す。
また委員長vs会長か……。
「ほら、生徒会長様ともあろうお方がリボンが緩くなってるぞ。私が締め直してあげよう」
「ヴぇッ!?」
キレイな顔からとんでもない声が発せられた。
「今明らかに息の根止めようとしてましたわね!? 学園の秩序を守る委員のトップがそんなことして良いとお思いで?」
冷静を保ちながら怒っている。
「おっと、スカートも短いぞ」
「なッ!? 聞きなさい!」
「私が下ろしてあげよう」
大体次の展開は読めた。
「ふん!」
そして予想通り委員長は勢いよく会長のスカートを下ろすが、会長も行動を読んでいたらしく、負けじとウエストを掴んで引っ張り上げた。
『チッ!』
正門前にいる男子生徒と俺含め、ほとんどが同時に舌打ちする。
「どうした? なぜ引っ張り上げる? 直さないと減点だぞ……!」
委員長、笑顔が怖いです。イジメになってます。
「アナタこそ……公衆の面前でワタクシに辱めを受けさせたら只では済みませんよ……?」
「ほぉ、またいつものSP脅しか? 残念だったな、そんなんで怯えるほど私も弱くはない」
「でしたら家族のほうを……」
「それも無駄だ。どうこうされて悲しむほど私は家族を愛してはいない」
委員長、悲しいこと言わないでください。
「とにかくその手を早く離すんだ。委員長である私が直々に制服を直してあげてるんだぞ? 有り難く思えッ!」
どうしよう……どっち応援しよう?
「ついでにそのデカい胸も生徒会の人間として下品ではあるから削り取ってやろう」
「それはアナタも同じでしてよ……! 風紀守るとか言っておきながら一番風紀乱す下品な胸部をお持ちになって……!」
二人の攻防はまだ続きそうだ。
そして国見&船岡は―。
「駅前に美味しいパンケーキ屋さんがあるので、今度行ってみませんか?」
「無駄なことにお金も時間も使いたくないのでお断りします」
「でしたら図書館で一緒に勉強しに行きませんか? お洒落な場所知ってますよ」
「アナタが隣にいるだけで恥ずかしいのでお断りします」
存在そのものを否定されたか。
二年組は猥褻に近い服装指導、一年組は崩壊寸前の青春。
……よし、決めた。
「南先輩」
「は、はいッ! ど、どうしました……?」
「早退させていただきます」
私はもう疲れました。
結局帰れなかったけど。
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