女子陸上部は俺が怖いらしいです……




 会話が一旦無くなると、遠方から声が聞こえてきた。


「お、朝練組が来たぞ」


 矢本先生の向くほうに視線を移す。

 会話しながら正門に近付いてくる人数はざっと六~七人、しかも全員女子だ。

 目を凝らすと、琴葉も混ざっていた。

 ということは陸上部のメンバーか。


 琴葉も凄いな。

 自主練で朝あんなに汗かいて疲れてるだろうに、その上朝練にまで参加するのか。

 小学生の頃から体力には自信があると聞いてたが、有り過ぎだろ。

 などと驚いていると、女子陸上部メンバーとの距離が徐々に縮まってきた。


「お、シローッ!」


 そして琴葉が俺と目線が合うや駆けてきた。


「わぁ、本当に風紀委員やってる~」


 物珍しそうに腕章とファイルを見たり触ったりしてくる。

 だが問題はそこじゃない。

 琴葉以外の女子たちは、俺を快く思ってない……或いは怖がっている目付きで睨んできた。

 昨日は予想していたからまだ平気だったが、二日連続はさすがに応える。


「おはようございます。今から服装の検査をさせていただきます」


 委員長が先陣を切って女子グループに服装検査を始めた。

 続けて国見、南先輩も行動に移る。

 俺は暗黙の了解で琴葉を任された。


「琴葉、今から服装検査に入るぞ?」


「あ、は~い。どうぞ」


 身を任せるように無防備状態となり、俺も風紀委員の活動を開始する。

 う~ん……とは言ったものの、女子の制服をマジマジと見るのは何とも恥ずかしい。

 リボンのずれは無し、スカートは膝まで隠れている、靴は朝練組は自由と書かれているから問題無し……大丈夫だな。


「オッケーだ。もういいぞ」


「…………」


「どうした?」


「えぇっと……シロにジーっと見られたの、今更になって恥ずかしくなって」


 恥ずかしいのか照れているのか、赤面になっている。


「そりゃ異性だからな。俺だってじっくり見たことないから変にドキドキしちゃったよ」


「そっかそっか……えへへ―」


 と笑う琴葉の腕を陸上部メンバーの一人が掴み、少し強引にメンバーサイドに引っ張り込んだ。そして他の部員二名が前に出て琴葉を囲む。

 まるで守る陣形だ。


「あれ、先輩。どうしたんですか?」


「いいから行くよ……!」


 琴葉の問いに、彼女の腕を引っ張り込んだ先輩が小声ながらに語気を強くして言った。


「え、あれ、あれれぇぇぇ???」


 琴葉以外の女子部員たちは時折俺を睨み、また前を向いて歩き出す。

 琴葉本人は、理解が出来ない状態のまま連れていかれた。


《アレは完全に俺たちを警戒しているな》


 うん、見れば分かる。

 不良たち十数名を葬ったんだ。下手なことしたら同様葬られるって思ったんだろ。


「やはり、力で解決するというのは良くありませんね」


 一連の流れを見た国見の皮肉な台詞が、グングニル宜しくで心に突き刺さる。

 このまま膝と手を地面に着け、ORZポーズをしようかと考えたが、制服のズボンが汚れると妹に処分されかけるためやめておく。

 取り敢えず首だけ前に垂らす。


「気にするな。あの一件からまだ一週間も経ってないんだ。だったら警戒されるのも無理はない」


「そ、そうです……。ここから自分のイメージを、か、変えていきましょ?」


 首のみショックさせていると、委員長と南先輩の二年コンビが励ましに来てくれた。

 やはり年上は良い。


《〝アイツ〟は?》


 論外。


《だよねぇ~♪》


「麗奈も、白石くんが気にしていることを口にするな」


「申し訳ありません。気遣いが苦手なもので」


「麗奈ちゃんの場合は……だ、男性への気遣いが―」


「苦手なものは苦手なんです……!」


「はひぃ……ごめんなさい……」


 南先輩が可哀想だ。あれ絶対涙出してるぞ。


「ほらほら、コントはその辺にして、次の子たちが見えてきたぞ」


 矢本先生の言った通り、今度は男女混合の集団が近付いてくるのが見えた。


「元気を出せ。さっきは警戒されたが、今度は大丈夫かもしれないぞ?」


「そうだと良いですね」


「と、とにかく、頑張りましょう……!」


 さすがにショックしたままだとしつこく感じられると思い、肩に力を入れる仕草を取る。

 そうだ、さっきは偶々怖がられただけだ。

 南先輩の言葉通り、次の生徒は警戒せず制服検査を受けてくれるかもしれない。

 それならいつまでもウジウジしていられない。


「はい、頑張ります!」


 よぉし、俺の風紀委員としての活動は、これからだぜ!!




 短いご愛読ありがとうございました。作者の次回作にご期待しちゃったほうが良いよ。




 終わらせんな。


《え、そんな流れじゃなかった?》

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