生徒指導&担任の先生
正門に近付いてくると、紅色のジャージを上下着込んだ女性が既に佇んでいた。
南先輩と同じポニーテールの髪型だが、向こうの場合は首の後ろ位置で結んでいる。
休日以外はほぼ毎日見掛けているその人物に、委員長が挨拶を行う。
「矢本先生、おはようございます」
矢本七海(やもとななみ)教諭。生徒指導と保健体育担当、そして俺と国見が所属する一年B組の担任でもある。
三十路近いとの噂だが肌質は若々しく、つい『姉御』と呼んでしまいそうな凛々しい顔立ちをしている。
「よぉ、おはよう~」
先生が挨拶を返すと、続けて国見、そのあとに出遅れた俺と南先輩で挨拶を口にする。
「相変わらず時間通りに行動できる連中だねぇ、委員長さんの教育が良いからかな?」
クラスでも聞き慣れてる男口調で委員長をからかってきた。
「冗談は良してください。全員しっかりしているだけです」
そりゃあ遅れたら正門に張り付けにされるからね。
「先生、今日から風紀委員の一員になりました、白石白瀬くんです」
不意に俺の紹介が行われた。
ご紹介に預かるならと一歩前へ出る。
「新しく入りました、白石白瀬です。よろしくお願いします」
「いや、いつも会ってるんだし、そんなかしこまらなくて良いよ」
こういう返事をしてくるのも予想はしていた。
ただ顔見知りとは言え、無礼な挨拶をすればまた国見に注意されると思い、フルネーム紹介とお辞儀をしたまでだ。
「まぁ良いじゃないですか。改まってですよ改まって」
「へぇ、いつも生気が感じられなかったお前が、こんなに変わるもんなんだな」
余計なお世話だ。
「そうだ。白石~、一昨日は大暴れしてくれたなぁ。あのあと緊急で職員会議が開かれて大変だったんだぞ?」
今更になって一昨日の騒動を蒸し返される。
なんだったら昨日の時点でそれ言ってもらいたかった。
だが迷惑を掛けたのは確かだ。ひとまず頭は下げておこう。
「その節はご迷惑をお掛けしました。昨日は早朝先生からお声が掛かると思ってビクビクしてました」
嘘だけど。
「いや~、変なこと聞いてぶっ飛ばされたりしたら嫌だったから、白石が声掛けて来るまで怖くて掛けれなかったよ」
おい教師、生徒を恐れるな。
「それにしても驚いたよ。あの一件からまさか風紀委員に入るなんてな」
「はい、この学園を良くしたいと思ったので入りました」
《正式には女目当てだけど》
黙っててくれ。
「入りましたが、今日からしばらくの間、彼が暴力を振るわず生徒たちを指導できるか監視を行っていきます。もし先生のほうでも生徒指導の際に暴行を起こしているところを見掛けた場合は、ご一報お願いします」
横から国見が現状を解説してくれた。余計な部分ありがとう。
「そうなのか、なんか大変だな。でもよっぽどのアホじゃない限り、白石に歯向かう奴なんていないと思うがな」
「そうであることを願いたいですよ……ははは」
微かな希望を持つような感じに軽く笑うが、本当にそうあって欲しい。
歯向かう奴が一人もいなければ、俺は黒瀬を使うことなく活動できるんだ。
「だ、大丈夫だとは……お、思いますよ。き、昨日だって、騒動とか何も……ほ、報告ありませんでしたから」
南先輩がフォローを入れてくれる。
ありがとう、そしてデカい。身長が。
「ま、麗奈もあんまり白石くんに注目し過ぎると、本来の活動を忘れてしまうからな。今の内に警戒心を軽く解いておいたほうが良いぞ」
「その隙を狙って裏切る人とかも世の中にはいます。ですので、現状維持させていただきます」
となると、次の水曜まで俺にはこの態度ってことか。
《ホント俺のこと全面否定だな》
お前だけじゃないってば。
お互い来週まで我慢しようや。
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