風紀委員の腕章をいただきました
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風紀委員室が見えてきた。
時間は六時十八分、指定時間の約十分前に到着できたのは比較的良いほうだろう。
教室内からは複数人の声が聞こえ、既に誰かいることが確認できる。
扉を横に引くと、新田先輩・国見・南先輩の三人が視線を同時に向けてきた。
「おはようございまぁす!」
透かさず俺から挨拶を行う。
「「「…………」」」
しかし三人の反応は無かった。
てっきり歓迎されていない雰囲気なのかと思いきや、新田先輩と南先輩の二名は徐々に表情が明るくなりだした。
一方国見は、眉間にシワを寄せているが昨日レベルの強い睨みではなった。
そして俺の前に、新田先輩が歩み寄ってくる。
「おはよう、白石くん。来ると信じていたぞ」
その可愛い笑顔が刺激的過ぎて、尊過ぎて、倒れそうになった。
「おい、大丈夫か?」
「は、ははは……いつもの何時間も早く起床したので、少し睡魔が取れ切れてないだけです」
「わ、分かります……その気持ち……」
「でしたら早く寝てください……!」
「は、はいッ!」
昨日と同様、国見の静かなる叱りに南先輩が脅える。
「それよりも、生徒会との兼任……許されたんですね?」
「ああ、昨夜生徒会長さんに聞いたら、支障が出ないよう気を付けることができれば大丈夫って言われたんだ」
「そっかそっか、良かった。ところで、どっちメインで活動していくんだ? やはり生徒会か?」
「それに関してはご心配しなくて大丈夫です。今後は風紀委員メインとして頑張っていきます!」
「お~そうか! 良かった良かった!」
背中をポンポン叩かれ、三十分延長コースを頼もうか脳内で葛藤する。
「またどうしてこちらをメインにするのでしょうか?」
「やっぱ学園のために働きたいって思ったからかな」
《ダウト。実は女のため!》
うるさい。
「それなら生徒会でも良かったのでは?」
「それもそうだけど、〝生徒を良くする〟=(イコール)〝学園の印象〟を良くするって考えたらさ、やっぱり風紀委員のほうが良いんじゃないかって思ったのさ」
「そ、そうなんですか……」
《ここ来る前に考えてきて良かったな》
ああ、おかげで助かったよ。
ホント、その場の嘘はお前得意だよな?
《嘘だけじゃないけどな!》
分かってるって、うるせぇな……。
「よし、良い心掛けだ。しかも十分前に来るだなんて良い心掛けだ。早々ポイント高いぞ!」
新田先輩が左肩に手をポンと乗せ、ニッと笑う。
絶対守りたいぞこの笑顔ッ!
《うるさい》
ごめん。
「しかしそれだけでは意味がありません。今から服装検査中に、アナタが違反生徒に対し、暴力を振るわず指導できるかどうかを見させていただきます」
国見は未だ認めていない空気を醸し出し、眼鏡を軽く整えこちらを睨む。
「あ、あたしは大丈夫だと……お、思いますよ?」
一瞬凍り付く空気をビクビクしつつ打破してくれた南先輩、相変わらずデカい。身長が。
「ははは……気を付けます」
苦笑を浮かべ、返答する。
はぁ……今日から来週の水曜まで、監視される身か。
しかし要は、無意味な黒瀬の呼び出しを止め、必要としてないときの勝手な入れ替わりを阻止すれば良いだけの話だから心配ないか。
《で・き・る・か・な?》
お前に懇願されて買ったゲームのデータ消すぞ?
《ごめんなさい》
「あ、そうだ。新田先輩、入部届書いてきました」
「お、ありがとさん」
入部届を受け取ると、一瞥だけで済まし、そこからまた俺と視線を合わせてくる。
「あと、私のことは『委員長』と呼ぶようにしてくれ。これでも委員のトップな訳だし」
「委員長……確かにそっちのほうが呼びやすいですね」
「そうだろ? 楓は全然言ってくれないけど……」
「え、えぇっと……一年のときからの『麻美さん』が抜けなくて……」
「それでも言うようにしてください」
「は、はい……ッ!」
昨日と同じ、南先輩が国見からお叱りを受ける。
「はいはい二人共そこまで。それじゃあ白石くん、今からする服装検査の活動内容について軽く説明をするぞ?」
「はい、お願いします」
返事をすると、一枚の用紙を手渡される。
用紙には、紅高の制服を着た男子生徒と女子生徒のイラストが載っており、制服の各部位から矢印が外方向に伸びている。
少し離れた空間まで移動しており、終点先には文章が書き込まれていた。
内容を読むと、ネクタイが見本通りに結ばれているか、ワイシャツがズボンの中に仕舞ってあるか等の詳細だった。
「この用紙と生徒を見比べて、明らかに異なる部分があれば呼び止めて指導をする。間違い探しみたいなものさ」
そう例えられると面白そうだ。
「それだけではありません。こちらも所持してもらいます」
国見が渡してくれた用紙は、二列の表が挿入されていた。
行は軽く数えて一列につき二十行、計四十個の四角い空欄がある。
右上には『服装検査用』と書かれていた。
「これは?」
「指導を受けた生徒の氏名とクラスの記入表です。平仮名でもカタカナでも構いません」
「ありがとう……」
「別にアナタのためではありません。風紀委員として活動するなら当然持ってなければならないものです」
《お、ツンデレか?》
黒瀬うるさい。
「あとは減点についてです。指導を受けた箇所分点数として名前の横に記入をしてください。集計して十点溜まったらペナルティを与えます」
「ペナルティって?」
「ば、罰みたいなものです……。反省文書いてもらったり、時計に貼り付けにして長針と短針に挟まれたり……」
後者は罰じゃなく処刑の間違いじゃないかな?
南先輩の発言に誰もツッコミを入れないところを見ると、本当のようだ。
え、本当なの!?
《楽しそうだな》
お前の感性どうなってんだ?
「説明は以上になるが、何か質問はないか?」
「女子のスカートの短さも自分が指導して良いんですか?」
「早速ここにいられなくさせますよ……?」
目を細めて顔を近付けてきた怒りの形相MAXの国見が凄く怖かった。
「すみません冗談です……」
咄嗟に謝り、許しを得る。
「あはは、面白いヤツだ。じゃあ特に質問も無いなら、白石くんに活動する時の必須アイテムを託そう。楓、渡してくれ」
「あ、はい……」
そう言うと南先輩は、深緑色の〝物〟を手渡してきた。
白い文字で【風紀委員】と刻まれた軟質塩ビ製の腕章だ。
「活動中は、これを左の腕に付けるように」
委員長が自分の付けた腕章を見本として見せてくれた。
見本通り、左の二の腕辺りに巻き付ける。
「なんか……カッコいい……」
そして語彙力ゼロの感想が自然と漏れた。
「そうだろ? これが分かるなら風紀委員としての自覚が芽生えたってところだな」
「あとは精々喧嘩に走らないよう、気を付けてくださいね」
国見が黒いレバーファイルを目の前に差し出してきた。
ご丁寧にボールペンも付いてるし、『風紀委員』のラベルまで貼られている。
「ありがとう。優しいんだな」
「勘違いをしないでください。書きにくいだの書く物が無いだので、活動中大騒ぎされたくないだけです」
素直に感謝しただけなのに……。
気持ちが少し落ちるも、先ほどの用紙二枚をファイルに挟む。
「それじゃあ時間だし、行くか」
「そうですね、行きましょう」
「は、は~い……」
委員長のあとに教室の時計を見ると針は六時に近かった。
「最後の人は鍵をするのを忘れないように」
「え、鍵?」
「こ、これです……」
南先輩が教室の脇にぶら下がっていた鍵を持ち、自分がかけるからと俺を先に教室から出させてくれた。
次から一番下の俺が鍵をかけようと心に決めた。多分明日には忘れてると思うけど。
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