幼馴染が足を踏んできた




 軽い朝食と身支度を済ませ、ついでにお湯の用意となんやかんや早朝の準備も大体終わらせると、五時四十分前後には家を出れた。


 こんなに朝早くだと道を歩く人は少ない。

 時折ジョギングウェアを着て走る人が横切るぐらいだ。

 生き生きしてるなぁ、若いって良いねぇ。


《お前何歳?》


 などと今しか楽しめない空間に浸る。

 すると目の前に人影を発見。

 白いジョギングウェアを着込んでいるその人は、走り込み過ぎたのか激しい息切れを起こし、前のめりになっていた。


 あの人大丈夫か?


 距離を近付け、様子を窺う。

 見たことのある風貌、息切れの声も微かだが聞いたことがある。


「ん、琴葉?」


「はぁーッ……はぁーッ……あれ? シロ?」


「大丈夫か? 息も絶え絶えじゃんか」


「大丈夫大丈夫! いつもの事だし、部活でも慣れてるから」


 琴葉は後ろ腰のホルダーからペットボトルを取り出し、一気に飲み出した。

 すげぇ、減る速度だ。


「ぷはぁ! やっぱこれだね!」


 まるでCMの如く爽快に飲料水を飲み切った。


「それにしても、この時間にシロと会うなんて珍しいね。ジョギング?」


「制服着てか?」


「制服……え、なんで制服着てるの? もしかして……もう登校時間!?」


「落ち着けって。まだ六時前だ」


 俺の言葉を信じ難いのかスマホを取り出し、時間を確認しだす。


「あ、ホントだ。良かった~……!」


 焦った表情から安心の表情への切り替えが意外と面白かった。


「あれあれ? そしたらなんでシロはもう学校行こうとしてるの?」


「風紀委員の活動で早く行かなきゃいけないんだ」


「へぇ、風紀委員ねぇ……は?」


 今度は目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。

 リアクションが素晴らしい。


「えぇぇぇぇぇっ!!?? シロ、いつから風紀委員に入ったの?」


「昨日。もっとも、届は今日提出するけどな」


「なんでなんで!? 一番校則違反してそうなのに!」


「まぁ、琴葉がそう思ってるとは反対に、俺の品行方正がついに認められたって訳さ」


「風紀委員の人たち、目腐り落ちちゃったのかな……」


 そこまで言う?


「冗談はこれぐらいにして、昨日風紀委員長さんから直々に勧誘を受けてな。面白そうだからって思って入ることにしたんだ」


《本当は女と関係を近付けたいために入っただけ》


 黒瀬くん黙っててね?


「え、でも生徒会にも入るんでしょ?」


「そうだよ」


「両方入るのって出来るの?」


「出来るみたいだ。会長さんからも許可は得た」


「そ、そうなんだぁ……でも、生徒会メインで活動していくんでしょ?」


「いんや、風紀委員メイン……なぜ足を踏む?」


「ごみん、なんとなく……」


 ふてくされた表情でジッとこちらを睨む。

 つま先でつま先を踏まれるのは地味に痛い。


「琴葉さん、痛いです……」


「待って、あともう少しで骨折れるかもだから……」


 そんな恐ろしい結果聞いて黙ってる俺ではない。

 サッと足を引っ込める。


「イテテ……じゃあそろそろ行くけど、服装検査やってるから身なりキッチリしとけよ?」


「はいはい。でもちょっと整ってなくても見逃してね?」


 頬を膨らませた表情はまだ直らない。

 自宅に向かって走り出す琴葉を数秒見届け、振り返った俺は学校に向けて再び歩き出す。

 踏まれた箇所が未だジンジンする。

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