黒瀬との対談




 不機嫌な妹と晩御飯を取り、バラエティ番組を観て、入浴して、自室に籠る。

 ドアを閉めるも、電気は点けない。

 今から話し合いをするからだ。

 中央で胡坐をかき、虚空を見詰める。


「黒瀬、起きてるか?」


《おぉ、バッチリ》



 〝黒瀬との対談〟。



 実際目の前に現れる訳ではない。部屋を暗くし、虚空を見詰めることでアイツが出てくる感じがするだけだ。

 ドス黒い人型が、俺と同じポーズをしているように見える。

 相変わらず表情はよりドス黒くて、目と口元が不気味に赤く光っている。


「はぁ……」


《なんだよ、いきなり溜め息なんか吐いて》


「溜め息だって吐きたくもなるよ……。お前のせいで明日から大忙しだ」


《でも風紀委員には入れたからそれはそれで良かったろ?》


「ま、まあな……」


《よく考えてみろ? 今日嫌な事ばかりじゃなかったろ?》


「確かに……」



 ◎良い事

 ・退学を取り消してもらえた。

 ・新田先輩から話し掛けられた。

 ・ラブレター(仮)を貰えた。

 ・三つの兼任を許してもらえた。



 ◎悪い事

 ・退学処分を受けた。

 ・強要成立で生徒会入部。

 ・ほぼすべての生徒に脅えられた。

 ・由来の不明なアダ名を付けられた。

 ・国見から毛嫌いされた。

 ・科学部に脅迫された。

 ・八乙女会長の本性を知った。

 ・妹からのドロップキック。



「悪い事が圧倒的に多いんだが?」


《気のせいだ》


「いい加減なこと言いやがって……」


《まあまあ落ち着けって。それよりもさ》


「なんだ?」


《風紀委員に入るっつうことは、昨日みたいなヤツ等を相手にしたりするんだろ?》


「そうだな」


《お前ひとりで対処できそうか?》


「…………」


《やっぱな》


「だけど無暗にお前の力は借りない。俺が俺なりに最後まで努力して、それでもダメだったらお前を頼ることにする」


《要するに越えられない壁にぶち当たったら俺とバトンタッチって訳だな》


「俺よりカッコイイ表現するのやめてくれない……?」


《つうか科学部は良い事だろうが! 入れ直せよ!》


「なんだ、今日そんなに楽しかったのか?」


《おぅ、あの機械はぶっ壊し甲斐があったし、薬品に関しても中々に美味かった》


「常人を数秒で溶解させる液体だぞ……?」


 つうかそんなモノ毎回飲まされたら死なないにしても排泄が豪いことになるぞ。


《だからよぉ、どうしても力で解決しなきゃならねぇときは遠慮なく呼んでくれ。その代わり―》


「科学部に入部して楽しませてくれ……って言いたいんだろ?」


《ザッツライト!》


「了解した。ただ科学部の方は毎日行けるとは限らないぞ」


《そんときは我慢してやる》


「話の分かる奴で助かるよ」


《お前と共有してるからな、我儘は言わんよ》


 そう言うと黒瀬は霧状となって目の前から消え、俺の中に戻ってきたように感じた。

 明日から忙しくなるが、頑張っていくか。


《なんだもう寝るのか?》


 当然、明日五時起きだぞ?


《昨日のゲームの続きしてくれ。見たい》


 ダメだ、寝る。


《漫画の続き読みたい》


 ダメだ。


《久しくオセロやろうぜ。初手二枚使わせてやるから》


 寝るんだ!

 こんな押し問答をした結果、寝付いたのは深夜十二時……睡眠時間五時間だけになった。

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