科学部勧誘(脅迫)
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「さぁ覚悟しろ! 地味に精神に来る痛みを貴様らに味わわせてやる!」
最早発してる台詞が悪役に近かったが気にしないでおこう。
科学部室前に戻り、次の攻撃がいつ来ても良いよう黒瀬を喉元半分のところまで待機させておく。
外に吹き飛ばされてから部室の扉は閉められておらず、そのまま勢いよく入る。
パチパチパチパチッ!
パンッ! パンッ!
そして歓迎の拍手とクラッカーをしてもらえた。
ん~……状況理解できない……脳みそパニック。
「素晴らしい……さすが昨日見込んだだけの人材ではある……!」
「しゅばらしいでしゅ……! しゅばらしいでしゅ、しらいしくんッ!」
涙を流しながら出迎えてくれたのは、癖っ毛の強い男子生徒と、両端で髪を結った
二人とも、目鼻立ちのきりっとした美しい顔で、どことなく雰囲気が似ている。
「えぇ……っと」
少々困惑するが、俺の言う事だけは決まっている。
「取り敢えず一発は一発なんで眼球突いても良いですか?」
「おお、その攻撃的な態度、良いねぇ良いねぇ」
向こうは怯えるどころか、目を輝かせて受け入れ態勢になっている。
「まぁ立ち話もなんだし、適当なところに座ってくれたまえ!」
「え、あ、はい……」
ここまで堂々とした態度を取られると闘争心も薄れる。
素直に従い、出入り口から近くのパイプ丸椅子を手前に寄せて座る。
周囲を見渡すと、理科用実験台が一列三台ずつ、合計六台配置されている。
一台につきパイプ丸椅子は片側二脚ずつ、この前使った実験室と変わらない置き方だ。
「さて、ではせっかく来てもらった訳で自己紹介といこう」
「よろしくおねがいしましゅ!」
男子生徒が仕切り出すと、女子生徒が盛り上げるため大拍手をしてくれた。
風紀委員のときとは豪く違う、若干嬉しい歓迎の仕方だ。
「俺様は、二年B組所属の
「しょしてッ! しょの妹、
二人ともカッコイイポーズを決めながら自己紹介をしてくれたが、女子生徒の喋り方が気になって何も頭に入ってこなかった。
ん、待てよ……薬師堂……?
「え、お前、あの薬師堂なのか!? 教室と全然雰囲気違うじゃんか!」
名前を聞いて驚く。
薬師堂紅葉は俺と同じ一年B組所属である。
普段は大人しく、髪など結ってない。ストレートヘアーで過ごしている。
小柄で可愛いという理由から男女ともに人気があって話し掛けられているが、本人は一切口を開かず、すべてタブレットに打ち込んだ文字で返答していることだけは覚えている。
隣の席で見慣れていたはずが、雰囲気が違い過ぎて全然気付かなかった。
「しょうでしゅッ! ワタシ、『しゃ行』が『しゃ行』になるので、普段喋らないようにしてるんでしゅ!」
「…………なんて?」
「『さ行』が『しゃ行』になっちまうから、普段は喋らないようにしてるって言いたいのさ」
薬師堂先輩が隣で解説をしてくれた。
「なるほど、そりゃ無口キャラでいたいわな」
「しょうゆうことでしゅ!」
教室では大人しい子なのに、ここでは元気の良いキャラだなんて……意外な一面が見れて何だか嬉しい気分に浸る。
「さ、二人が顔見知りと分かったところで、よく来てくれたね。白石白瀬ッ! 先ほどは空気砲での手荒な歓迎すまなかった」
あの黒光りする大砲は空気砲だったのか……うん、それより。
歓迎じゃねぇだろ!
一歩間違えば殺人未遂だぞ!
大声で前述の台詞を叫びたかったが、薬師堂先輩が捲し立てるため自然と遮られた。
「今回キミを呼んだのは他でもない。唐突に聞くが、我々の実験体になってくれないか?」
本当に唐突だ。
大事な部分ショベルカーでごっそり取ってったぞ。
「すみません、意味不明です」
「おっとすまない、端折り過ぎた。実は昨日校舎裏で悲鳴を聞いてね」
またそれか……。
「現場に駆け付けてみれば、学園が問題視していた不良生徒数名が倒れていた。その中にキミは佇んでいた。そして公式SNSのほうで詳細を見てみると、あの不良たちを撃退したのはキミ一人だという! 我々は感動した……。あれほどの強靭な力を持つ人物ならどんな実験にも耐えてくれそうだ、と。だから科学部に入部してもらい、俺様と愛する妹の実験体になってほしいのさ」
「ほしいのでしゅッ!!」
「お断りさせていただきます帰ります」
アホらしい付き合ってられん。
「ポチッとな」
即行帰ろうと出入り口に立った途端、金属に覆われた巨大な手が両サイドから現れた。
「なッ!?」
気付いた時には捕まっていた。
いくらもがいてもビクともしない。
「室内専用捕縛ロボ、ユウスケくん四号。欲しい人材は必ず捕まえてきた超逸材品だ。バッテリー切れで、ほとんどには逃げられたけど」
「けど今度のは大丈夫でしゅ!」
自信満々の態度に少し腹が立つ。
黒瀬、抜け出せるか?
《もう終わる》
言葉通り、バキャッと音を立てて金属の手は粉砕された。
「…………」
「…………」
薬師堂兄妹は目を点にした。
自信満々のロボが破壊されたのだから、当然か。
「す……」
「しゅ……」
「「す(しゅ)晴らしいッ!!!」」
発せられた台詞は俺が予想していたのとだいぶ違った。
二人とも涙を流しながら盛大に拍手をしてくれている。
「一度不良生徒一人を間違って潰しちゃったユウスケくん四号の手を、あれほど見事なまでに粉々にしてしまうとわ! これを素晴らしいと言わず何と呼ぶッ!!」
え、ユウスケくん四号前科持ち!?
どうりでちょっと鉄臭くて赤い染みが付着してた訳だ……。
「これはまた改良が必要だぞ……! いずれは白石白瀬が破壊できないほどの強固な作りにしないとな……!」
バラバラになった機械の部品を泣きながら集めると思いきや、目を見開き不気味な笑みを浮かべながら集め出した。
悪の科学者になれるな。
「作るのは良いですけど、AIとかは搭載しないでくださいね。人類に報復しだして俺でも勝てなくなったら滅亡間違いなしです」
《いや俺負けねぇよ?》
反論するなメンドくさくなる。
「いや~しゅばらしいでしゅね、白石くん」
軽い拍手をしながら紅葉が近付いてきた。どうやら『し』は普通に発音できるようだ。
「兄の手荒な真似パートツー申し訳ありましぇんでした。良かったらドリンクどうじょ」
「おお、ありがとう」
不意にまた来るかと思ったが、普通に液体の入ったペットボトルを手渡される。
そう言えば風紀委員の一件もあって喉が渇いた。
キャップを開け、『さ行』だけじゃなく『ざ行』も苦手なのか……と思いつつボトルを傾け液体を口に運ぶ。
そこでどうしてか、黒瀬が勝手に入れ替わった。
お前―。
《良いから大人しくしてろ。死ぬぞ?》
は?
《この液体、飲んだらやべぇぞ。致死率100パーセントに近い》
お前は大丈夫なのか!?
《俺は外だけじゃなく内臓も強靭だから。こんなもん、数秒で消化してやるさ》
は?
そんなこと知らないぞ!?
《聞かれてないからね》
本当に大丈夫なんだろうな……?
《一秒だけでも入れ替わるか? 血吐くぞ》
どうかそのままでお願いします。
《おう、お前が死んじまったらいくら俺でも蘇生までは出来ねぇ。待ってろ、あと五秒だ》
五……四……三……二……一―。
「ぷはッ!」
黒瀬と交代すると、後味は悪いが、喉は潤った。
「…………」
「…………」
薬師堂兄妹がまたもや目を点にする。
まさかこの展開……。
「「す(しゅ)晴らしいッ!!!」」
やっぱな。
また二人とも涙を流しながら盛大に拍手をしてくれている。
「この前飲んだ不良しぇいとは血をはくだけじゃなく、物のしゅう秒で溶解したのに!」
…………なんだって? 数秒で溶解?
「いやぁ白石白瀬。我ら兄妹の発明品を良くぞ打ち破って耐えてくれた。キミのその体を隅から隅まで実験しまくりたい! 入部しないかい?」
「お断りさせていただきます帰りま―」
ガシッと紅葉が片足に抱き着いてきた。
「行かないでくだしゃい!」
「離せ! ここに居たら逝っちまう!」
「お願いでしゅ、しゃい《最》近甘い誘惑に乗しぇられて実験体になってくれる人が
「そりゃそうだろ! 普通なら警察案件だ!」
「しょれでもワタシ達は実験を続けたいんでしゅ! このままだと次は〝じぇん人〟の
「〝じぇん人〟?」
「〝善人〟のことだ」
薬師堂先輩が通訳してくれた。
「俺様たち兄妹は、毎日のように発明品を作り上げている。俺様なら『人に害を与える機械品』、妹なら『人に害を与える薬品』をな」
涼しい顔してとんでもねぇ発言し出したぞこのサイコパス野郎。
「しかし、最近甘い誘惑で実験体にしてた不良生徒どもが来なくなってね。しかも昨日キミがほぼ全員倒しちゃったことでサンプルをごっそり持っていかれた……いわゆる被害者だ」
自覚の無い犯罪者って皆こんな考え方なのかな? 怖くなってきたぞ。
「キミが入部してくれて毎日実験体になってくれるのなら我々も一々サンプルを探しに行かなくて済む。紅葉が色仕掛けしなくて済む」
「実の妹になにやらせてるんですか!?」
「誰も相手にしてくれなかった……」
「なんかごめん」
俺なら喜んで相手するけど。可愛いし。
「だがキミが断るのであれば諦めるしかない。明日から一クラスずつ甘く誘惑して実験体になってもらうしかないな……。まず手始めに……俺様のいるB組から―」
え、B組だと!?
確か二年B組は新田先輩と南先輩もいたはず……こんな奴に良いようにされちまうのか?
そんなのダメだッ!!!
見てみたいけど!
「あ、あのッ!」
「なんだい?」
これはもう仕方がない選択……だ。
「にゅ、入部します……」
「お、さっきと言ってることが違うじゃないか?」
「急に気が変わりました……。先輩たちの実験、喜んで受けます……」
「そっかそっか、それなら良かった」
「なので、自分のクラスメイトを実験体にするのはやめてもらえませんか……?」
「ほいほい、オッケーだ」
「あと、ひとつ聞きたいことがあります」
「なんだ? 言ってみろ」
「昨日の一件から生徒会と風紀委員から勧誘を受けまして、どちらにも入る予定なんです」
「え、しゅごい……!」
紅葉が自然と言葉を発する。
「そこから更に科学部に入っても、恐らく上二つの活動と重なって参加が難しいと思うんですね。それでも大丈夫でしょうか……?」
薬師堂先輩が暫し悩む素振りを見せる。
足を組み、腕を組み、片方の手で顎を軽く触る。
「ならしょーがない。毎日ではなく、都合が良いときだけ来てくれ」
「一か月近く来れない可能性とかあるかもしれませんよ?」
「そしたら長期休暇中の一日を使って朝から晩まで人体実験だ」
最悪だ。
「安心しろ冗談だ。どうしても試したいときは近所の高校から不良たちを見つけて来るよ」
「ありがとうございます……!」
話の分かる人で助かった……。
《お前らの中で不良生徒って人権無いんだな……》
そう思われたくないのならルール守って大人しくしてれば良いだけの話さ。
《アッハイ》
「それじゃあ入部届は明日にでも提出してくれ」
「はい、了解しました……」
また用紙が一枚増えた。
「紅葉、もし生徒会も委員も無いのに来ようとせずサボろうとしたら無理矢理連れて来てくれ」
「オッケーでしゅ!」
薬師堂兄妹がサムズアップで表明する。チキショウ……監視付きか。
「そいじゃあ、明日から頼むぞ~」
「はい……では今日はこれで失礼します。お疲れ様でした」
既に俺の元気メーターはゼロになりつつある。
これでようやく帰れる……ん、待てよ。
「あの……薬師堂先輩―」
「部長で良いぞ」
「じゃあ、部長。もうひとつ聞いても良いですか?」
「なんだ?」
「この手紙書いたの、部長ですか?」
「妹だ。俺様は字が書くのが苦手だからな」
紅葉のほうを見ると可愛げにピースサインをしていた。
これが正真正銘女子からの手紙というのを知れただけでも収穫もんだ。
元気メーターが10回復した。
部室を出て廊下を歩くとき、少し気分が良くなってか自然とスキップをしていた。
ただ階段をスキップしながら降りてはダメだ。
転ぶ。
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