騙された
科学部は三階にある。
以前理科の授業で実験室を使う際、隣の教室を見たら【科学部】のルームプレートがあったのを覚えていたからだ。
今俺は猛烈にドキドキが止まらないでいる。
キャーッ! キャーッ! キャーッ!
《引くわ》
黒瀬の感想はどうでもいい。
あ~今日は色んな女の子と出会えてるなぁ……。
まるでギャルゲーの主人公になった気分だ。
黒瀬ありがとう、力以外いらない。
《今度入れ替わって戻るとき右手圧し折ってやる》
先にダメージを受けるのはお前だ。
《この野郎……!》
まあそのあと入れ替わったら激痛喰らうのは変わりないんだけどね。
《あ、じゃあ―》
今はやめて。
さて、コイツとの漫才も幕を閉めて、この手紙の女の子とご対面しようじゃないか。
まずはノックだ。部活動中なら無礼極まりない。
え、ガラス越しに活動中かどうか窺えば良いんじゃないのかって?
残念。風紀委員同様、カーテンで閉め切られてて中の様子が確認できんのだッ!
コン、コン、コン。
手の甲で三回ノック、返事は数秒後に聞こえてきた。
『はい、どちらしゃまでしゅか?』
…………ん? 噛んだのかな?
ま、気にしないでおこう。
返ってきたのは女の子の声であったため、それだけでテンションが更に上がった。
「一年の白石白瀬です。貰った手紙にここの場所が書かれていたので来ました」
『え、しらいしくん? お兄しゃまーッ! しらいしくん来ましたよーーーッ!!』
…………ん? お兄しゃま?
瞬間、黒瀬が笑いを押し殺しているのが分かった。
『おお、よく来てくれた。ま、入ってきてくれ』
幼い女声の後に、男声が聞こえた。
まさか…………?
不安が脳裏を過り、テンションが一気に落ちる。
《次は男に惚れられたか……》
やめてくれ考えたくない……ッ!
《ま、俺は暖かい目で見守っとくよ……》
どうしよう、今直ぐ逃げたい……。
でも来てしまった以上、入るしかない……。
こんなことなら生徒会長を探しに行けば良かった。
後悔先に経たず……仕方ねぇ、覚悟を決めるか。
黒瀬、妙な動きしてきたら即入れ替わって対処してくれ。
《……あいよ》
告白してくる相手が男性なら丁重良く断る。
微かな希望として、南先輩のように内気な女の子が手紙を出したが、自分で返事するのは恥ずかしいからさっきの男子に任せた……を望む。
「お邪魔します!」
扉を勢いよく横に開く。
シュッ
ガシャーンッ
ヒュー
ドサッ
よし、ひとつずつ解説していこう。
まず初めに扉を横に開けた。
開けた先には白衣を着用した男女が一人ずつ待ち構えていた。
二人と俺の間には黒光りする大砲のようなモノが配置されており、砲口は明らかに俺に向けられていた。
そして―。
①シュッ
これが一つ目の擬音。
てっきり砲丸でも発射されるのかと思いきや、それは目に見えない威力―つまり空気だ。
圧縮された塊が一気に放たれ、勢いよく全身に命中、後方に吹き飛ばされた。
そして俺は宙を舞い、背後の窓ガラスに全身を打ち付ける。
②ガシャーンッ
これが二つ目、窓ガラスが俺の全身を受け切れず、割れた音だ。
外に放り出された俺の周辺は、壁も地面も無い。ただの空間―。
このまま終わることもなく、体は重力に従って下への落下運動を始める。
③ヒュー
これは落下するときの擬音だ。
漫画でよく見掛ける音を直に聞けるとは、まぁ現状それに感動できる余裕は無い。
上に向かって泳ぐようにして落下を減速させる暇も無い。
もう地面は近い。
このままいけば骨折、あるいは打ち所が悪くて天に昇ってしまう。
黒瀬ッ!
《ほーい》
直ぐ黒瀬を呼び出し、入れ替わる。
黒瀬は常人離れの腕力だけではなく、常人離れの防御力まで備えてある。
どこまでかは不明だが、高所から落下しても傷ひとつ付かないのは確かだ。
なんとまぁ……羨ましい限りの無敵設定。
寧ろ着地した地面に
④ドサッ
これが最後の擬音だ。
黒瀬が引っ込むと、俺の視界には夕方で赤だか橙色に染まった空が広がっている。
黒瀬、助かったよ。
《ああ、けどさっきのはなんだ?》
分からん。
とにかくもう一度科学部の部室に行ってあの二人の前に来たら再度出て来てくれ。
ぶちのめさせてやる。
《マジ?》
おうよ、人呼び出しといてこの仕打ち……歯磨き粉で眼球洗ってやれ。
《なんだ、頭ごと背骨引っこ抜いて良いのかと期待しちまった》
この前レンタルした特撮作品の内容は忘れろ。
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