白石白瀬は風紀委員から勧誘を受けた
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「まぁ、こんなところで立ち話もなんだし、ひとまず入ろうか」
「え、入れるんですか!?」
国見が語気を強くする。入室すら認められないんですか。
「当然、私が招いたんだからな。委員長命令だ、我慢しろ」
「ぐ…………ッ!」
悔しそうな表情をした後に、親の仇でも取るような顔でこっちを睨んできた。
「さ、入ってくれ……と言いたいところだが、まずこの子をどうにかしないとな」
未だ泣き止まない女性の先輩、確かさっき『南』と、『楓』って呼ばれてたな。
「楓、いい加減泣き止め」
「あじゃみざぁぁぁぁんっ!!!」
すると南先輩は姿勢を低くし、新田先輩の胸に顔をうずめる様に飛び込んだ。
はぁ!? 羨ましい!!
「ほへぇ~……癒されます~」
「まったく……素直な子だよ」
新田先輩の豊満な胸部に顔をうずめ、深呼吸をし出す南先輩。羨まし過ぎて血涙出そうだ。
「すみません。そういう下品な行動は、出来れば室内でしてもらえませんか?」
そして国見が冷静ながらも怒りを込めた発言で先輩たちの幸せ空間を破った。
「あはは、すまんすまん。さ、白石くん、入ってくれ」
「あ、はい」
少し悪くなった空気の中、風紀委員室に足を踏み入れた。
レイアウトに関しては、室内中央に長机四台が『□』を形作るように並べられている。
椅子は一般生徒たちが使う物とは違う、パイプ椅子が長机一台につき一脚ずつセットされていた。
「あ、あの……そ、そちらにお掛けください」
今度は南先輩に話し掛けられ、座る場所を指定してくれた。
新田先輩と対面する位置に座らされ、両サイドに国見と南先輩も座る。
客人が来たことによる普段の室内雰囲気のぶち壊れ感、これが余り好きになれない。
「え、えっと……さ、さっきはごめんなさい。急に泣き出したりしてしまって……」
体を強張らせていると、南先輩が話し掛けてきた。
「い、いえ、こちらこそすみませんでした。以後発言には気を付けます」
「そ、そう言ってくれると……嬉しいです。あ、あたし二年B組の『
「あ、自分は―」
「し、白石白瀬くんですよね……? あ、麻美さんから聞いてます」
「えぇっと……ということは昨日の件も?」
「も、もちろんです。室内で待機していたら、急にアフロヘアー君が来て『一年が三年にやられそうだ』なんて言ってきたので、し、心配しちゃいました」
「ご迷惑をおかけしました……」
「あ、謝ることないです! 向かったのは、あ、麻美さんと、麗奈ちゃんですから……」
「南先輩は?」
「あ、あたしは別件で動けるように、待機してました……」
「嘘言わないでください。怖いから行きたくないって駄々こねてましたよね?」
「あ、あはは……ピンポーン……ッ!」
南先輩のビクビクした返しに、国見は少々苛ついている様子だ。
「はいはい、雑談はそれまで。せっかく白石くんが来てくれたんだ、早速本題に入ろうじゃないか」
新田先輩が場を仕切り、俺たち三人は口を閉じる。
「では改めて、白石白瀬くん。風紀委員へようこそ」
「わ、わ~い……」
「チッ……」
右サイドの南先輩は空喜びをしながら小さい拍手を。
左サイドの国見はあからさまに舌打ちをした。
天国と地獄を体現した気分だ。
「それでは、色々と省いて単刀直入に聞く。風紀委員に入ってみないか?」
「お断りさせていただきます」
俺ではなく、まさかの国見が答えた。
「私は白石くんに聞いてるんだが?」
「彼が入る必要はありません。わたし含め、このメンバーで充分です」
「ほ、ホントにそうでしょうか……?」
異論を容認しない空気が醸し出される中、恐る恐ると南先輩が意見した。
「どういう意味ですか……?」
「だ、だって……女の子にも限界ってものがありますし、そ、そういう時のために男の子って、必要だと思うんですよね……」
「そうだぞ麗奈。今年は男子の候補者は皆無、女子だけでは昨日の三年生は対処できなかった。白石くんほどの喧嘩慣れしてる人材が一人いても、風紀委員の評価は下がらない」
「それって、暴力に
「そういう訳ではない。出来ることなら私だって喧嘩はせず事を解決したい。しかし中には、恨みを買った生徒からの復讐、最悪の場合こっちがケガをする恐れがある。そうならないためにも、彼が必要なのさ」
「ははは……まるで番犬ですね……?」
「平たく言えばそうだな」
その屈託のないその笑顔は、会長に似るものを感じた。
ここでもかぁぁぁッ!
生徒会でも番犬扱い!
風紀委員でも番犬扱い!
そろそろ誰か俺を人間として扱ってくれ!
しかも注目を受けているその力の根源は黒瀬。
白瀬がなにひとつ活躍してねぇぇぇッ!!!
《…………ッ!!》
ああ……勝ち誇ったポーズしてやがる……腹が立つ。
「とにかく、わたしは認めません。もし彼を入れるのでしたら、わたしが風紀委員を辞めます!」
「国見。それはやめたほうが良いぞ」
咄嗟に止めに入る。
「は? なんでですか?」
「今は風紀委員という肩書きがあるから、クラスの連中も注意を素直に受けてきたけど、その肩書きが無くなったら後々どうなるか……」
「…………」
苦い表情で黙り出す。
「国見が辞めるなら最初から俺が入らなければ良い話だ。もし暴力騒動に巻き込まれそうになったら生徒会に頼みに来てくれ。直ぐに駆け付けるから」
「さ、さすが男の子……か、カッコいいですッ!」
南先輩の称賛で少しむず痒い雰囲気になったが、国見がそこまで俺を毛嫌いしているのであれば入らないのが正解だ。
新田先輩との関係を近付けたかったが、既存の子の日常を壊すぐらいなら諦めるしかない。
また機会があれば話し掛けに行けば良いだけだ。
「それじゃあ自分はこれで失礼します。わざわざ時間を作っていただきありがとうございました―」
「勝手に済ませて帰るな」
「へ?」
新田先輩が笑顔で呼び止めてきた。
「麗奈は納得しても私は納得してないぞ。そんなちっちゃい理由で人材を逃がすほど私は甘くない」
「いえ、あの……だって国見は嫌がってますし、それに正直な話……生徒会のほうはどうしても辞められない事情がありますので……」
「事情ってなんだ?」
「と、トップシークレットです……」
辞めたら退学処分なんて口が裂けても言えない。
「それなら、兼任すれば良いじゃないか」
すると、新田先輩から驚きの提案がされる。
「え、認められるんですか……?」
「知らん」
なんとも清々しい返事、でもそういうところも可愛いですッ!
「せ、生徒会長さんに……ちょ、直接聞いてみては……?」
「そうだな。それで認められれば明日から風紀委員と生徒会、どちらも頑張れば良いじゃないか」
随分簡単に言ってくれますね……。
「それに麗奈に関しては、白石くんが活動の中で違反した生徒に危害を加えなければ良い話だ。彼女は実力行使を嫌っているから、キミが手を出したり脅し無しで校則違反者を指導することができるのであれば認める。それで良いだろ?」
新田先輩が国見に問う。
「ま、まあ……それなら……」
「問題無しって……事ですね」
「け、けど! 昨日あれだけの騒動を起こした人ですよ? いきなり手を出さず活動するだなんて……」
「だったら、しばらく監視すれば良いじゃないか」
「監視……?」
国見が目を丸くする。
「明日から来週の水曜まで、彼が手を出さず、違反者を指導できるか私たちで観るのさ。一日何回かを決め、それを守れるか守れないかで判断すれば良い。もし彼が回数を破ったなら、その時は止む無く諦めるさ」
「わたしは一回でも危害を加えたり、力で脅したりすれば認めません」
「三年生が復讐に来てもか?」
「話し合い、もしくは防衛手段を取れば良いだけです」
それで大ケガしないのならね。
「し、白石くん、ボコボコにされちゃいます……ッ!」
「それは嫌ですねぇ」
まぁ黒瀬が黙っちゃいないけど。
「…………分かりました。一日一回振るったらそこでアウトです!」
「一日三回で良いだろ。なにが起こるか分からんし」
「委員長ッ!」
「決めるのはここのトップの私だ」
「…………」
また黙っちゃった。
上下関係に弱いなこの子。
「そう言う訳だ。明日の朝から放課後まで活動以外でもしっかり監視しておくから、回数に気を付けながら事を解決するように」
「え……あの、もう入った形になったんですか?」
「今のところはな」
「もしこのあと生徒会長さんから兼任はダメと言われたらどうしましょうか……?」
「まあそのときはこっそり活動させる訳にもいかないから、この話は無かったことになってしまう。もしオッケーなら来てくれ」
絶対来たい……ッ!
「それと仮に兼任が許されたとしても、こちらから誘っておいて申し訳ないんだが来週までキミが約束を守れていなければ、残念だが入部の件は取り消させてもらう」
「了解しました……。それに関しては、自分が気を付けるようにします」
頼んだぞ黒瀬、俺が呼ぶまで出て来るなよ……。
《へいへい》
そして入部届を受け取り、明日の放課後までの提出と告げられる。
「活動は何時から開始ですか?」
「朝六時半には登校しておいてくれ」
「え、朝六時半?」
起きてボケ~っとしてる時間じゃないか……。
「当然。朝練の部員よりも早く来て服装検査をしなきゃだからな」
「だ、大丈夫ですよ。あたしもこんな隈してますけど、ちゃ、ちゃんといますから……ッ!」
「南先輩は深夜のゲームを我慢してください……!」
「ひいっ!? き、気を付けます……」
怯える南先輩に、国見は再び苛つく様子を見せる。
この人、なんで風紀委員に入ったんだ?
「それじゃあ、もし来れるなら登校後直ぐここに来てくれ」
「りょ、了解しました。あの……もし遅れたら?」
「十分以内なら許す。それ以降なら正門に張り付ける」
よし大体分かった。
今日は夜十時に寝ようそうしよう。
「こっちは以上となるが、なにか質問とかは無いか?」
「質問と言いますか、気になる部分として……三年生はいないんですか?」
「ああ、去年の上級生から誰一人として候補が出なかったから、二年と一年だけだ」
「二年組で男子は入らなかったんですか?」
「全員、西たちのグループを怖がって、入る気にもなれなかったらしい」
なるへそ……。
「他には?」
「そうですねぇ……。不躾な質問ですが、一日に何人ぐらいの違反者がいるんですか?」
「いつもなら大体十~二十人ほど取り締まっています」
国見がスラスラ答えてくれた。
「け、けど、今日は……ひ、一人もいませんでしたね?」
「どっかの番犬さんが暴れてくれたおかげかもしれませんね」
皮肉っぽく言われた。
「ははは……」
愛想笑いしかできなかった。
「あ、あたしは感謝してます。だ、だって……仕事少なくなりましたから」
「…………ッ!」
国見がまたもや南先輩を睨む。ダメだもう見てられない。
「それじゃあ自分はこれで! 明日から宜しくお願いします!」
「ま、待たねぇ……」
「気を付けて帰るんだぞ~」
「…………」
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