二日連続の昼食忘れ
また弁当を忘れた……。
今朝母親の恐怖から逃げるために持ち物確認を怠って家から出たのが痛手となった。
今日に至っては百円すら無い。
さて、どうしたものか……。
教室内は弁当を開いたりカップラーメンを食べたりと匂いが充満して飯テロ化していた。
ダメだ……一旦廊下に出よう。
空腹で良い香りがするのに食べれない辛さは拷問に近い。
少しでも気分を変えようと廊下に出てみたものの、さて何をしようか。
ここから中庭に出ても、昼食中の生徒がほとんどだから教室と同じ結果になる。
こうなりゃ午後の授業開始まで当てもなく歩くか。
体力を使って余計に腹を空かせるのは充分理解しているが、教室でじっとして美味そうな匂いを嗅ぐよりかはマシだ。
少しでも歩いて気を紛らわせよう。
「お、シロ坊じゃねぇか!」
廊下を適当に突き進むと、背後から聞き覚えのある声で呼び止められた。
「あ、先輩」
ボンバーヘアー先輩だ。
そう言えば昨日この辺で声掛けられたんだっけか。
「昨日は大変だったな。でも無事で安心したよ」
「ありがとうございます。先輩こそ、先生や風紀委員の人たちに声を掛けに行っていただいて、ありがとうございました」
「なぁに、良いってことよ。実際呼びに行ったの風紀委員だけだったし」
先生やその他は悲鳴聞いて集まったってことか。
「ところで先輩」
「なんだ?」
「その遺影は……?」
先輩が大事そうに持っている違和感ありありの遺影に目を凝らすと、リーゼント先輩の姿が写っていた。
「まさか……あの人は……」
「ああ、死んだ……」
じゃあアナタの後ろに立ってる同じ顔の人は誰?
「昨日リーゼントをもがれたのが相当ショックで、心臓麻痺だったらしい」
「まだ生きてるぞ」
「風に乗って死者の声が聞こえる……」
足は見えているから生存は確かなようだ。
リーゼント先輩は昨日の一件で髪の一部をもがれたのに、もう元に戻っていた。
「先輩、髪復活したんですか?」
「ああ、意識を取り戻したとき変な奴らにサーモンピンク色の液体を貰ってな」
怪しさ全開じゃねぇか。
「『これを髪に付けて一晩置いとけば再生する』っつ言われて試してみたらあら不思議、これって事よ」
「なるほどぉ……生命に異常はありませんか……!?」
「ん? あぁ、今のところは何ともないぜ。ただ後ろ髪が消滅した」
ばりばり副作用起こってんじゃねぇか!
「あれ? ところでもうひとりは……?」
モヒカン先輩の姿が見当たらない。
「アイツは……枕の次に愛していたモヒカンを逆モヒカンにされちまって―」
それランク何位に入賞?
「今日は学校を休むっつって、ロープと土台持って森林を散歩しに行っちまった」
「それ下手したら三途の川を散歩しに『逝く』可能性があるので早く止めに行きましょう!」
「心配するな、木に縄括りつけて『ターザンごっこ』してるって呟いてる」
心配した気持ちを返せ。
「それにしてもシロ坊、昨日は助けてやれなくてすまんかったな。無事だってボンバーから聞いたときは安心したぜ」
「いえ、連れていかれそうになった際、先に守ろうとしてくれたので寧ろ感謝してます」
そのあと瞬殺だったけど。
「そう言ってくれると嬉しいぜ。それより、無事だったのは良いとして、お前凄い有名になっちまったな」
「あ~……どっかのお偉いさんが公式アカウントで昨日の騒動を呟いてくれましたからね。いい迷惑です」
「ホント、あの写真を見たときはビックリしちまった。だがこれだけで俺らはお前と距離を置くつもりはないぜ!」
「昨日知り合ったばかりだけど、これからも仲良くしていこうな!」
両サイドから肩を組まれ、目頭が熱くなる台詞を聞かせてくれた。
やべぇ泣きそう。
「ところでよぉ、今日も購買コーナーに行くのか?」
「違いますよ。昼食忘れて金欠でもあるので、午後の授業まで校内を散歩しているだけです」
「そっかぁ……昨日の申し訳さなもあって奢りてぇんだが、今日は俺らも金無いんだわ」
「すまねぇなシロ坊」
「いえいえ、昨日今日と先輩に奢ってもらう訳にもいきませんから。では、自分はこれで失礼します」
「おぅ、今日も放課後会えたら帰ろうな」
「そのときは宜しくお願いしまぁす」
先輩たちの元を去り、再び廊下の散歩へ向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます