自称友達が来た

『おい……現れたぜ。昨日校舎裏で三年たちをボコったアルティメットマンだ』

『おいおいシャイニング男だぜ』

『出たサバイブ野郎……!』

『あ、ブラスターマンが来た。触れると灰になるぞ』


 アダ名の由来を教えてくれ。


 高級車から降りて以降、明らかに俺に聞こえる音量のコソコソ話を耳にした。

 気になる部分は多々あったが、気にし出したらキリがないため正門に向かう。


 今日は昨日の一件で名前を覚えてくれた新田先輩に見てもらおうとしたが、会長と話し合っていたため断念し、国見に見てもらうことになった。


 だが一言も発さず、目も合わせてくれない状態で通され、心が寂しくなった。

 その傷付いた心を癒そうと朝の日課である新田先輩をふと見るが、会長と対面している際の表情がかなり険悪であったため、思わず目を逸らしてしまう。

 それから校内に入って廊下を歩く最中も、横切る生徒がこっちを見てはコソコソ話をしだした。


『あいつが噂のキングマンか……』

『アームドマン……普通の奴かと思っていたらそんな……』

『ハイパー男……恐るべしッ!』


 だからアダ名の由来はなんなんだ!?


 などと考えていると、教室に着いた。

 扉を横に引くと、俺と分かった瞬間クラス中が静かになった。

 この視線は痛い……俺を危険視した眼差しだ。


「ははは……おはよう……」


 挨拶をしても返してくれる人はいない。

 席に着き、即突っ伏す。


 ああ……終わった……俺の高校生活が……。


 暴力により友情も信頼も恋愛もすべて無くなった……。

 取り消してもらった事実を聞いた際は嬉しかったけど、こんなことになるならいっそ退学処分喰らって新たな道切り開いたほうが良かったのかもしれない。


 それか死のう。


《おいやめろ》


 今はツッコんでくれる黒瀬だけが強い味方に思えた。



「白瀬くん」



 暗くなった視界の中で、男の声が聞こえた。

 顔を上げると、男子生徒が一人目の前に立っていた。

 小学生の頃から成長してないだろと言わんばかりの童顔、適度な体躯に身長……嫌でもコイツの名前は覚えている。


「なんだ船岡……?」


 船岡仁ふなおかじん、入学当初から爽やかイケメンということで一年だけじゃなく、上級生からも人気がある隣のクラスの生徒だ。死ねばいい。


『え、なぜ船岡くんがライナー男を!?』

『あんなエンペラー野郎に何の用って言うの?』

『羨ましいわ、あんなコンプリートマン』


 もうアダ名はどうでもいい。


 それよりもコイツが何の用で来たのかが気になる。


「酷いなぁ、同じ生徒会メンバーになったってさっき連絡があったから改めて挨拶をしに来たのに」


「あ~、そのことか……」


 船岡は生徒会の『会計』を務めている。

 元々活動内容に興味は無かったようだが、コイツも生徒会長さんから勧誘を受けて入部したらしい。

 正直どうでも良い。


「それにしてもビックリしたなぁ。まさか今話題の、不良生徒たちを倒した生徒が白瀬くんで、しかも会長の勧誘から生徒会に入部するだなんて」


「あんまり大きい声で言うのやめてくれる……?」


 注目度が増した気がした……。


「まあでも、これから宜しくな」


「こちらこそ」


「つうかお前は大丈夫なのか? こんな危険人物とつるんでて……」


 自分で発言したが、少し寂しい気持ちになった。

 周囲の女子たちも軽く頷いて船岡に信号を送っている。

 その光景が異様に腹立った。


《やっとく?》


 やめてくれ、これ以上問題を増やさないでくれ。


「友達なんだからつるむのは当たり前じゃないか。それに元から危険人物だなんて思ってないよ」


 なんだろう……歯が浮くような台詞で背筋が一瞬震えたが地味に嬉しい。

 さっきの『死ねばいい』を『毎分小指ぶつけろ』に変えても良いだろう。


 すると船岡の背後から鋭いモノが飛んでくるのが見えた。

 慣れたようにそれを避けると、飛ばされたものは俺の机に綺麗に刺さった。



 クナイ。



 忍者題材の漫画で覚えた武器を前にしても、俺どころか船岡も左程驚いていなかった。


 いつもの事だからだ。


 船岡は顔面偏差値が非常に良いため、嫉妬した生徒たちから毎日のように命を狙われている。

 本人は中学の頃から慣れているらしい。


 俺はというと最初は確かに驚いたが、五回目辺りから気にしなくなった。


 船岡とは入学してから初めの体育の授業で知り合い、身体測定をするのにペアを組まなければならず、余り者同士で測定を行ったのがきかっけで話す間柄となった。

 向こうは友人として受け入れてくれているようだが、俺にはその気持ちはあまり無い。


 だが正直に伝えてしまえば『船岡を泣かせた最低の男』として校内約八割近くの女子の反感を買ってしまうだろう。

 だから表上は普通に会話を交わすようにしている。


 そして次は船岡の横から金属バットが振り下ろされてきた。

 あ、黒瀬、頼む。



 ガシッ



 即座に黒瀬と入れ替わり、本来なら避けるので精一杯な振り下ろしを受け止めてもらう。


《なんだ? 出てきてほしく無かったんじゃないのか?》


 今のは俺も巻き込まれそうだったし、避けるのが面倒だったから呼んだだけだ。

 もう引っ込んで良いぞ。


《はいはい……》


 黒瀬から俺に戻った瞬間、手に金属の感触が伝わってきた。

 バットを振り下ろしてきた野球部所属のクラスメイトは、きょとんとしている。

 これこそ当然の反応だ。


 普通ならバットが振り下ろされた段階で二人とも驚愕アクションを起こさなければならないところ、一切の無反応、しかも受け止めて以降の反応も皆無。

 向こうがおかしい行動を取ってくるならこっちもおかしくなってやろうという発想だ。


「ところで、今日生徒会の活動ってあるのか?」


「今のところは無いかな。もし何かあれば、そのときは連絡が来るようになっているから」


「そっかそっか、了解した。あとよ」


「ん、どうしたの?」


 斧が回転しながら船岡の頭頂部目掛けて飛んでくる。

 それを俺が立ち上がってキャッチし、教室の窓を開けて放り投げる。


「ちょっと場所移動しねぇか?」


 これじゃあおちおち話も出来ん。


「そうだね。このクラスも僕の安置は無いし、廊下に出ようか」


 了承を得てから移動を開始する。

 歩くだけでまさか脅えられるとは思わなかったし、クラスの女子たちに至っては船岡と一緒にいる俺を悔しながら見ている。


 廊下に出ると、教室に入ろうとしていたクラスメイトが俺を見た途端、逃げるようにして入室するのが視界に入った。

 もう完全なる化け物扱いだな、こりゃ……。


「ちょっと向こう行かないか?」


「え、ここじゃなくて良いの?」


「おう」


 教室近くにいたら、俺を怖がって入れない生徒が続出するだろうからな。


「別に構わないよ」


「サンクス」


 次から次へと要望を飲んでくれる都合の良いイケメンくんを隣に、廊下を少し歩く。

 その途中も、女子たちからの視線は絶えなかった。


『ちょっと、なんで船岡くんがあんなエクストリームと一緒なの?』

『船岡様とプトティラ男……全然有りかもッ!!』


 ついでにコソコソ話も。

 というかどれかに統一してくれ。


「ここなら良いだろ……」

「そうだね、人も少ないし」


 俺と船岡は、部室や実習室等がある人通りの少ない場所に来た。

 特に話したい内容がある訳ではないから、なんて切り出そうか悩む。

 いや、待てよ……あったわ。


「なぁ船岡」


「ん?」



「そろそろ被害届出さないのか?」



 今後もし回避不可能な武器とかが飛んで来たら恐らく死ぬだろう。


「毎週出しに行ってるけど、犯人が特定できないから受理されないんだ」


 笑いながら返された。

 今の日本どうなってんだか……。

 考えると涙が止まらなくなるから考えるのをやめよう。


「でも大丈夫、こんなことで僕はめげないよ。堂々と校内で生き抜いてみせるんだから!」


「そっか……じゃあ、しゃがめ」


「え、何を言って―」


「足元に五百円玉」


「え、ホントに!?」


 そして黒瀬。


《あいよ》




 ヒュン




 ガチンッ




 船岡の後頭部を狙って飛ばされた矢を、入れ替わった黒瀬が歯で受け止めてくれた。

 さすがにこのケースは初めてだったのだろう、本人は一切気付いていない様子だった。

 あのまましゃがみ込まなかったら、俺ごと貫通していたことは確実だろう。


 黒瀬、サンクス。もう良いぞ


《ほいよ》


 戻ると、上下の歯で掴んだ鋭く尖った鉄の先端の感触が伝わってきた。


「ペッ」


 まずい鉄味を廊下のゴミ箱に吐き捨てる。


「ありがとう……! 白瀬くんッ!」


 狙われた船岡本人は、涙を流しながら笑顔で手を握ってきた。

 今後もしかしたら、船岡のボディーガードもさせられそうだ……。

 そんな笑えそうで笑えない未来を予想しながら、始業ベル時間ギリギリまで駄弁っ

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