白石白瀬は生徒会から勧誘を受けた
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「退学……処分……?」
「はい」
屈託の無い笑顔なのに発言している内容はヤケにドス黒い……。
なるほど……退学か……。
あ~……短い高校生活だったな……。
黒瀬を抑えながら、充実した学校生活を過ごして、友人たちとバカ騒ぎして……いずれ新田先輩に告って、フラれても何度もアタックする俺の計画が……一瞬で無くなった……。
死のう……。
《おいやめろ》
こうなったのもお前のせいだぞ……どうしてくれるんだ……?
《なんかごめん》
お前絶対反省してないだろ。
《どうでもいいからね》
誰かコイツをタコ殴りにしてくれ金払うから。
「白石くん、大丈夫でしょうか?」
生徒会長さんが何か呼び掛けてるけど、耳に入ってこない。
放心状態で口を開けたまま、景色が後方に吸い込まれる様子を眺める。
もう……どうでも良いや……。
「白石くん、確かにアナタは退学処分になりました。ですが、ワタクシが〝なる予定〟にしてあげたのです」
……………………………………………………………………………………………………ん?
なる……予定……?
そこだけハッキリと耳に入り、会長に視線を移す。
「どういう……ことでしょうか……?」
「実は昨夜、無理を言って職員会議に出席させていただいたのです。そこで白石くんの退学処分が決まったあと、ワタクシが取り下げるよう抗議したのです」
「ど、どうしてそんなことを……?」
「当然です。あの迷惑な上級生たちを一掃していただいたからです」
「それが理由……ですか?」
「はい。あの三年生たちには迷惑していましたので、いずれワタクシのほうで密かに懲罰を与えようと考えていました。ですが手を汚すと必ずバレてこちらが罰を受ける対象となってしまいますから、白石くんが彼らを罰してくれたことには本当に感謝しています」
嬉しいような……悲しいような……。
「ですが、どうやって取り下げたんですか……? まさか、膨大な金額を使って……」
「違います。単純に、三年生たちがこれまでどれ程の迷惑な悪態をついてきたのか……その方たちを一掃してくれた白石くんを処分対象にするのは、いささか愚行なのでは? と教師陣に問うただけです」
「そしたら……どうなったんですか……?」
「全員納得していただきました」
「ということは……?」
「えぇ、アナタは本日も紅学園の生徒として、登校しても構わないということです」
「…………」
『ありがとうございます』『助かりました』……そのようなお礼の言葉よりも先に、涙が溢れ出てきた。
「ふふ、嬉しそうですね?」
「あ、当たり前です……。あの……本当に……ありがとうございます……!」
ようやく重い口を開け、お礼を言うことができたが、やはり感情がぶるぶる震えているためか言葉も震えているように感じた。
「いいえ。ワタクシは、教師陣にとって理想の生徒像の優先順位を改めて考えさせただけですから」
感謝を強要しない……アニメで見るお嬢様キャラと言えば、基本が『感謝しなさい!』だからイメージとのギャップが違い過ぎて今後の見方が変わりそうだ。
「ところで……ひとつ聞いても良いですか……?」
「はい、なんでしょうか?」
湧き出る涙を拭い、鼻を啜って会長と視線を合わす。
「問題の政治家のほうはどうするんですか……? そっちは納得してくれたんですか?」
向こうはそんな不良生徒を大切にするような人間だから、ちょっとやそっとじゃ納得しないと思う。
「そちらはメンドかったので我が八乙女財閥の力でご子息ごと消しました」
また溢れ出そうだった涙と鼻水が一瞬で逆走した。
天使のような微笑みしててやってること悪魔だわこの人!
今後この人には逆らわないようにしていこ……。
「それと、今日は他にも白石くんにお願い事があるんですね」
「え、なんでしょうか……?」
先ほどの政治家を消した件を聞いて、思わず身構えてしまった。
なんだ……もしかして退学を取り消した代償として毎日自宅の草むしりでもしろってか?
それなら黒瀬に全部任せるから大丈夫だけどさ。
《人をなんだと思ってるんだ》
化け物。
《否定はしない》
しろよ。
まあ、パワー系なら黒瀬、デスクワーク系のお願い事なら俺ってところか。
さて、なにを言われるのか……。
「白石くんに、我が生徒会に入っていただきたいのです」
予想外過ぎるお願い事だった。
「えっと……なにを仰っているのですか……?」
「言葉通りの意味です。白石くんには生徒会に入っていただき、ワタクシの〝番犬〟として務めていただきます」
「…………」
扱いの酷さに言葉を失って先ほどとは違う涙が出そうになった。
「二年で生徒会長という役目を持ちますと、どうしても当選されなかった上級生からの妬みとかが絶えませんので、生徒会に白石くんがいると知れれば効果があるのではないのかと考えたまでです」
人を蚊取り線香かなにかと勘違いしてないかこの人……。
そろそろ俺が初めに感じた人柄の良さがボロボロ崩れ始めてきているぞ。
「あの~……無理と答えたら……?」
「退学取り消しを取り消します」
「生徒会に入らせてくださいお願いします」
車内で土下座したのは人生初だ。
「良いお返事で安心しました」
まさか『生徒会入部』と『退学』を天秤に掛けられる日が来るとは……人生って怖いな。
《長生きはしなきゃな》
お前のせいで寿命縮みそうだわ。
「あ、ところで……役職はなにになるんですか……?」
『書記』は琴葉、『会計』はアイツ、『副生徒会長』が……思い出したくない。
「『庶務』です。つまり雑用係です」
また屈託の無い笑顔でエグイこと言ってくれましたよこのお嬢様……。
「ということは……荷物運びとか……ですか?」
「えぇ、勿論。他にも番犬やら掲示物やら番犬やら番犬もございます。あ、あと番犬」
もうやめて……種族『ヒューマン』を否定されているみたい……!
「それでは、今この場で入部届を書いていただきます」
「え、あるんですか?」
「こちらに」
どっから出したのか分からんが、目の前に『生徒会・入部届』を突き出される。
急いで指定鞄を漁ってからの筆箱を取り出し、ボールペンを持って教科書等を下敷きにして名前とクラスの記入を始める。
ん、入部動機?
そりゃもちろん―。
【退学になりたくないから。】
「即行取り下げましょうか?」
「はいすみません冗談です!」
【強要成立】
「あ、学園長、おはようございます。昨夜の白石くんの退学の件ですが―」
【生徒会★超★大好きだから!】
「なんでもございません。失礼致します」
こういうときのために『消えるボールペン』買っておいて良かった……。
「では、こちらは後ほどワタクシのほうで処理致しますので、白石くんは今日から生徒会のメンバーになったという自覚を持つよう努力をしてくださいね」
「あ、はい……他のメンバーには報告しなくて良いのでしょうか……?」
「先ほど送りました」
行動が早い……!
「あら、到着しましたわね」
「え、あ……ホントだ」
いつの間にか送迎車は正門前に停められていた。
生徒からの注目は半々ってところか。
それもそうか、平日はほぼ毎日見掛ける訳だからな。
「お嬢様、白石様、ご到着致しました」
「ご苦労様です」
「ご、ご苦労様です……」
会長が先に降車し、俺も反対側から降りる。
そして姿勢を正した瞬間、俺は味わうことになった。
『………………………………』
とんでもない大注目を。
一部の生徒は俺を見掛けただけで脅え、他は写真を勝手に撮ったり、生徒会長と一緒に登校してきたことについてコソコソ話し出した。
正門前で活動している新田先輩や国見も俺に視線を向け、国見に至っては昨日以上に苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべながら俺を睨んでいる。
俺の高校生活……平穏に過ごせ無さそうだ……。
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