生徒会長からの退学通知




「おはようございます、白石様」



「…………」


 玄関を開けたら直ぐ目の前に黒スーツにサングラスを掛けたスキンヘッドの屈強な男が立っていた。


 ……よし、一旦閉めよう。


 静かに後退し、玄関を閉じる。

 そして次開けたらきっといなくなってる……そうだそうに違いないッ!


「おはようございます、白石様」


 誰か状況教えて。


 夢のようで夢じゃなった……ただの現実が俺を襲う。

 なに……?

 俺どうなっちゃうの……?


 自宅前には黒い車が一台停められている。

 しかも海外の映画やドラマなどでザ・金持ちが乗る高級車だ。


 で、どうしてそんな高級車と黒服が俺の目の前にいるんだ、あるんだ?

 もしかして……西先輩のお父様が俺を処分するために雇ったのかな?

 だけどさっき普通に挨拶してくれたし、俺のことも『様』付けしてくれた。


 どうしよう……さっぱりわからないッ!



「おはようございます、白石白瀬くん」



 すると、黒服からは到底思えない綺麗な美声が聞こえた。

 だが口を動かしていないところを確認すると、この人ではないことは直ぐに理解できた。


 美声のあと、黒服が横にずれる。

 後ろから、紅高の制服を着た女子生徒が姿を現した。

 肩まで届く柔らかそうな髪に、黒いカチューシャを付けている。

 ハーフと思わせる容姿は、蠱惑こわく的なものを感じた。


「え……」


 その人物の顔には見覚えがあり、思わず驚きの声を漏らす。



「八乙女……生徒会長さん……?」



 八乙女雫やおとめしずくさん……。



 二学年でありながら、現・紅高の生徒会長を務めている先輩だ。

 自宅がお金持ちで、本当のお嬢様と耳にしたことがある。

 下手したら新田先輩以上に近付けない人が……なんで俺の前に……?


「えっと……おはようございます……」


 取り敢えず、そんな大セレブから先に挨拶をさせてしまったのだから、咄嗟に返事する。


「お待ちしておりました。随分と遅いご登校なのですね?」


「え、えぇ……まぁ……色々とありまして……」


「そうでしたか。では、時間も押していますので早速車にお乗りになってください」


「へ?」


 また意外な言葉に変な声が出てしまった。


「どうされたのですか?」


「い、いえ……自分が乗るとかそんな! それにそもそもなんで生徒会長さんがここに?」


「はい、そちらも含めてご説明致しますので、どうぞお乗りになられてください」


「いや、あの……悪いですって! でしたら自分の連絡先教えますので、それで詳細を」


「白石様、車にご乗車お願い致します……」


 黒服がずいっと前に出てきた。


「あ、はい……」


 逆らったら処分されそうな威圧感だ……。

 ここは下手に拒否するのではなく、素直に従おうそうしよう!


「では、こちらへ」


 黒服に案内され、道路サイドのドアから車内に通される。

 普通こういうときって玄関サイドから入れてくれるもんじゃないの?


「では雫お嬢様、どうぞ」


「ありがとうございます」


 なるほど、あくまでお嬢様優先か。

 そりゃ当然か。


 道路サイドから通す際、横切る車にもし轢かれでもしたら大事おおごとに成り兼ねないからね……。

 俺は轢かれても構わないのかよ……。

 遠回しな扱いの酷さに少しメンタルが削れる。


 しかし参った……。

 まさか時々見ていた生徒会長さんの黒塗り高級車に乗れる日が来るだなんて……!

 車内は対面シート形式、大体一シート二人座れる幅、しかも外装同様の黒生地だ。

 黒服の指示で、進行方向に向かって正面の席に腰を下ろす。


 うわ、なんだこの座り心地感……最高か?

 このまま寝てしまいそうだ!

 そんな感想を脳裏に浮かべていると、対面席に会長、運転席に黒服が座った。


「それでは、出発致します」


「はい、宜しくお願い致します」


 決して大柄な態度は取らず、一人の人間として扱っているという点で、漫画やアニメで見るような生意気お嬢様ではない……人柄の良さが窺える。

 車が発進され、走行時の軽い震動が伝わってきた。

 やべぇ……人生初の車登校だ……。


「では、車も出たのでこれから白石くんが知りたがっていた詳細のほうをご説明させていただきます」


「へ、え、え~っとあの……宜しくお願いします……ッ!」


 思わず深々と頭を下げてしまった。


「んふふ、面白い方ですわね」


 八乙女先輩が軽く微笑むと、ポケットからスマホを一台取り出した。

 手慣れた操作で画面をタッチし始める。


「あ。ありましたわ」


 どうやら探しものだったようで、お目当てが見付かった様子だ。

 そして画面が俺に向けられる。


《あ、さっきも見た俺たちの写真だ》


 うん、大体予想してました!


「昨日は派手に暴れていましたね?」

「いえ人違いです」


 今は認めるな……認めたらなんか来るぞ……。


「嘘はいけません。この写真はワタクシが撮影したものなのですから」

「はい自分です申し訳ありませんでした!」


 認めざるを得ない。

 つうか犯人アンタか!

 生徒会長が生徒のアカン写真SNS上に公開しないでよ!


「なぜ謝るのでしょうか?」


「はい……?」


「アナタは、校則をいつまで経っても遵守せず、更に生徒に危害を加えていた三学年の不良生徒たちに制裁を加えてくれたのですよ? 謝る必要性はございません」


「え、じゃあ何故その画像を投稿したんですか……?」


「白石くんの勇姿を皆さんにも見ていただきたく載せたのですが、まさか炎上するとは思いませんでした」


 俺のプライバシーはこの余計なお世話で侵害されたのか……!


「まさか……それを言うためだけに自分を車に……?」


「いいえ、それだけではありません。もっと大事なことです」


「大事なこと……ですか?」


「はい。昨夜、緊急で職員会議が開かれまして。白石くんも知っての通り、あの西という三学年は有名政治家のご子息に当たる方なのです」


 なんかそんなこと言ってたな……。

 腹痛くてほとんど忘れてた……。

 黒瀬は覚えてたか?


《タマゴ掛けご飯のことを考えてた》


 聞いた俺が間違いだった。


「そのご子息様が全治一年のケガを負わされたという事実を訴えてきまして、しかも当事者が公開された画像から即白石くんと判明されてしまったのです」


 判明の原因、十割でアナタのせいですよね……?


「それから向こうのお父様が厳重な処分を与えるよう指示をしてきまして、そこで忖度が発生してしまったのです」


「と、いうことは……?」


 恐る恐る聞くと、八乙女生徒会長様は笑顔をこちらに向けて口を動かした。




「白石白瀬くん、アナタは今日付けで退学処分となります」




「…………」


 彼女の言葉を理解するのに913秒掛かってしまった……。

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