不良のパシり

「おいそこの一年! アンパン、食パン、カレーパン買ってこい」


 神様に見放された。

 昼休みの時間になり、いつもは弁当を持参してたはずが、鞄の中を見てみたら〝あらまあビックリ〟忘れてきてしまっていた。

 仕方なく、なけなしの金を握りしめてパンでも買いに行こうとしたら……廊下でコレよ。


 相手の数は三人、しかも絵に描いたような不良生徒、そして明らかに上級生だ。

 一人は横に広い、二人目は肥満、三人目は太っちょ……要するに全員デブだ。


「なぁ……良いだろ?」


 三人のうち、中央にいたリーゼント頭がメンチを切りながら顔を寄せてきた。

 と、言われても……。


「すみません……。今、これしか持ってなくて」


 下手に了承の返事もできず、俺は財布の中でキラリと光る一枚の百円玉を三人に見せた。


「あ、ごめん……」


 すると哀れんだ目を向けられ、逆に謝られた。

 あ、この人たち実は良い人たちなのかもしれない……!


「いえ……では先輩方、もう行って良いでしょうか?」


「待て、金は俺らが出すからパンだけ買ってきてくれ」


 そう言うと、リーゼントの不良先輩が自分の財布から二百円を取り出して渡してくれた。


「金が無いときは、許可をちゃんと得てからバイトしろよ……!」


 モヒカン頭の先輩から三百円とアドバイスをもらい―。


「働きたくないときは、親に土下座してでも借りるんだぞ……!」


 ボンバーヘアー先輩がこっそりと俺のズボンポケットに五百円玉を入れてくれた。

 やっぱこの人たち良い人だ!


「任せてください先輩方……自分、絶対買ってきます……!」


「おう、じゃあ頼んだぞ!」


「お前の帰りを待ってるからな!」


「気を付けるんだぞ!」


 ほろっと涙が出るのを抑え、先輩方に見送られながら目的地へ向かう。


 紅高は食堂に購買コーナーがあり、そこで安いパンやらオニギリが買える。

 昼休みで当然混雑はしていたが、どうにか指定された三つのパンを購入、人混みの中を懸命に突き進み脱出する。

 パンが潰れていないか一瞥し、先輩たちの元に向かおうと歩を進める―。


「シロ―っ!!」


 すると、朝も聞いた声が後ろの人混みの中から聞こえた。

 気のせいかと一瞬思ったが、直ぐに出てきた。

 琴葉だ。


「ぶはぁーっ!? あー苦しかった!!」


 息切れしながら、手にはメロンパン、ロールパンと甘い系を持っていた。


「おう琴葉、大丈夫か?」


「大丈夫大丈夫、いつもの戦争だからッ!」


 ニッと笑みを口角を上げ、ブイピースを見せてきた。

 確かにこの様子なら大丈夫そうだな。


「それにしても珍しいね。シロが購買にいるなんて」


「おう、弁当忘れたから買いに来た」


「なるほどなるほど。にしては偏ってるね? 甘いの、普通の、辛いの……って」


「これは先輩たちの分、俺のはコレ」


 そう言ってフランスパン一本を見せる。


「それあんま味しないし、硬いだけじゃん」


「噛み応えあるし腹に溜まるし何より安い、コレ百円だぞ?」


 あと毎回売れ残っているから確実に買えるのも良いところ。


「へぇ~、ところでさっき先輩たちって言ってたけど、シロと親しい先輩なんていたの? 部活入った感じ?」


「いや、さっき廊下で会っておつかい頼まれただけ」


「え!? それって……俗に言う『パシリ』ってヤツじゃ……?」


「心配するな。金は向こう持ちだし、小遣いもくれた」


 嘘偽り無し。


「ふぅ~ん、珍しい人もいるんだね」


「ところで俺と雑談してて良いのか? 友達待たせてるんだろ?」


「え、なんでアタシが昼休みに友達とご飯食べてるの知ってるの? もしかしてシロ……アタシのストーカー? きゃーッ!!!」


 琴葉が変な悲鳴を上げるもんだから数人の注目を集めてしまった。

 出来ればこういうノリは人の少ないところでやってほしい……。


「お前がこの前教えてくれたんだろうが……!」


「アッハハ、そうでしたそうでした。それじゃあ待たせると悪いからアタシ行くね」


「ほいよ、パン落とすなよ」


「大丈夫大丈夫ッ!」


 そう言って琴葉は早足に去っていった。

 走ってるところを風紀委員にでも見られれば再び注意を受け、減点を喰らう。

 今朝減点を受けた身の琴葉も、そこは理解して走りたい欲求を抑えているようだ。


 俺もあの純粋なデブ三人のために、早く向かうとするか。

 じゃないと昼休みがどんどん短くなっていく。

 このフランスパンを食すのにも二十分近くは掛かる。

 食事した後は数分だけでも仮眠を取らないと午後の授業には望めないから、さっさと帰ってさっさと食べてさっさと寝ないと。

 脳内で時間計算を行いながら廊下を歩いていると―。



「おいそこのお前!」



 本日二度目の呼び止めを喰らった。

 今この場には俺しかいないから~……うん、ご指名は俺だ。


 声のしたほうに顔を向けると、さっきの肥満三人とは違う、これまた絵に描いたような不良生徒たちがいた。

 人数は大体六~七人、しかも全員メッシュだのピアスを開けていて、校則違反ビリビリだらけだった。

 神様、俺なにかしましたか?


 すると中央に立つ、耳ピアスに赤いメッシュの入った高身長の男子生徒が俺に近寄ってきた。


 げ、あの人って……三年の『西さん』じゃねぇかッ!?


 一度怒らせると手が付けられない……校内でも随一の悪って噂されている人物だ……。

 今までは変に校内をうろつかなければ会わないと信じてたけど、まさかここで遭遇するなんてタイミング最悪にも程があるだろ……。


 やべぇ、実物マジこえぇ……。

 まだこちらがなにもしていないのに、すんごいメンチ切っている……。

 下手したら目から光線出すんじゃないか、というレベルだ……。


「お前さっき、廊下でパシられてたよな?」


「まぁ、そうですね」


『おつかい』と訂正したかったが、不良は自身の発言を訂正されると反射的に殴ってくる生き物だって偉い学者さんが言っていた。


「俺らも腹減っててよ~、だけど金欠なんだわ」


 そして俺の肩に手を置き―。



「買ってきてくれよ♪」



 血走ったウインクをされ、マジもんのパシりを受けた。

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