第五話 深紅の鉄鳥
エデンの空の上を真紅の鳥が飛んでいる。
それは二十メートルほどある巨鳥だった。
そして全身が金属でできていた。
それが、シグマデルタ直下の逆ドーム型の都市を浮遊させる動力部の傍を進み……やがて機体をその鉄の壁に隣接させ停止させる。まるで鳥が止まり木を見つけて止まるような静かさだった。
巨鳥の羽をつけた壁面には四角い穴があった。人が一人通れるぐらいの作業員用に取り付けられた作業ハッチ。そこから梯が延々と伸びており、整備点検作業員が使う物だと推測できる。
鳥の胸部には宝玉のようなフォルムのコックピットがある。
コックピットの中には―――三人がいた。
ピンクの髪にアラビアンスタイルのファッションの少女と、金色のカブトムシのような外殻に覆われた明らかに普通の人間ではない男。そして、小柄な巻き毛ツインテールでゴスロリの褐色少女だ。
狭いコックピット内。ピンクの髪の少女は座席に座り、その足元にゴスロリの少女は正座でちょこんと座り、そのひざ元にはノートパソコンが。座席の後方にいるカブトムシ男は狭苦しそうに身をよじって収まっていた。
「着いたぞ。とっとと降りようぜ。暑くてたまんねぇよ……」
ピンク髪の少女は汗だくで顔をしかめて、ゴスロリの少女に話しかける。
「………」
ゴスロリの少女は褐色に視線を向けずに片手でキーボードを叩き、逆の手で待てというように手を広げて褐色に突き出していた。
「知っていますか? 地球では十二月二十四日はクリスマスという祝い事があるそうです。恋人と過ごす冬の聖夜に我々はこんな狭いコックピットで三人何をやっているのでしょう……」
金色のカブトムシ男が、汗はかいていないが熱そうに手で顔を仰ぎながら不満気に言う。
「てめぇは来なくてよかったんだよ! シルヴィ! オレとセイレンだけいればよかったんだ! ここの空調は基本一人用なんだよ! てめぇが来たせいで暑くてたまんねぇよ!」
褐色の少女はカブトムシ男を睨みつけながら、セイレンと呼んだゴスロリ少女の肩を叩く。
セイレンは若干迷惑そうに肩に乗る手を睨みながらも作業を酢漬ける。
「何を言う、こういう時こそ白兵戦要因である私シルバリオンの筋肉の出番ではないですか。それに、キティ。女の子なのですから、自分の事をオレと呼ぶのはいい加減おやめなさい。せっかくかわいい名前をもらったのですから……貴方の筋肉が泣いていますよ」
筋肉と言うたびに、ポーズをとり、金色の外殻の下から覗き見える黒い筋肉を見せつける。
「筋肉を見せるな、暑苦しい! 大体、どうやってシグマデルタの中に入るんだよ。この空中都市は特権階級の管理社会。貴族みたいな人間しかいない町で、亜人が歩いていたら一発で侵入者だってわかるぞ?」
「そこは大丈夫、私も変装しますので」
そう言って、シルバリオンは黒い紳士服を座席の下から取り出す。
その程度で普通の人間たちに紛れ込めると思っているのかと正気を疑う。
「お前はここで待機な。どうしてもオレらの護衛がしたかったらずっと下水道を歩ていろ。虫らしくな」
「ひどい!
「訴えられるもんなら訴えてみろ! どこに訴えるんだよ! シグマデルタの都市警察か⁉ その瞬間、俺たちは御用だ!」
座席から立ち上がり、後ろのシルバリオンと顔を突き付けて間近でにらみ合うキティ。
セイレンはうるさい二人に対し、全身を震わせて怒りを表していた。
「…………ッ!」
そして、手を振り上げ、キーボードに拳を叩きつけた。
バン!
その音に二人がパソコンのモニターへ注目する。
「お、セイレン。わかったか?」
セイレンの怒りを全く感じとらずにキティが尋ねる。
「…………フゥ」
セイレンは呆れて肩をすくめつつも、モニターに表示されている地図を指さした。
地図の中に赤く光る点がある。
「それがイフ・イブセレスか?」
「ン~ン…………」
キティが尋ねると、セイレンは悲しそうな顔をして首を振り、地図の端にある名前を指で叩いた。
『YURI・VOIGER』
「スポンサーか。場所はここ確か歓楽街だぞ? 仕事もせずに遊んでいるのか?」
赤い点はシグマデルタの有名な歓楽街・ゴールドストリートをさしている。
「ん」
セイレンが画面を切り替える。
今度は青い点が表示される。
『IF・EVESERES』
横にはそう書かれていた。
「なるほどね」
赤い点と青い点はゴールドストリート内の、内と外と非常に近い距離にあった。
「俺たちが行く前に仕事してるってわけね。でもよく、シグマデルタの特権市民データにアクセスできたな! 偉いぞ、セイレン」
「ん~ん………」
嬉しそうに抱き着くキティ。だが、セイレンは鬱陶しそうに眼を閉じ、キティの顔を手で押しのけた。
「さて、それじゃあ目的地も決まったところで向かいますか」
セイレンから体を離し、立ち上がる。
ボタンを押して、コックピットハッチを開ける。
雲の上の強い風がコックピット内に入り込み、キティの髪を揺らす。
「気が乗りませんなぁ、正義の筋肉の我々が誘拐なんて」
シルバリオンが座席と壁の間から這い出ながらも苦言を呈する。
「誘拐じゃない。スカウトだ。イフ・イブセレスにはあくまで自分の意思で俺たちの仲間に入ってもらう。そうじゃないと、できない。この世界を進化させるなんて」
キティがコックピットの外へ身を乗り出し、くるりと二人へ向けて振り返った。
「じゃあ、まずスポンサーと合流しよう、俺たち『エリクシル』の出資者。ユーリ・ボイジャーに」
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