ジェーン・スミス著:実例から学ぶパーティーマネジメント~追放前にちょっと待て。その人本当に役に立たず?~
銀星石
過去を知り未来の波に乗ろう!
アドル大陸は毎日のように新しいパーティーが結成され、そして同じくらいの数のパーティーが消えてきます。
実力が不足している冒険者が仲間から見限られパーティーから追放されてしまうのはよくあることです。
しかし、真の勇者のパーティーはリーダーである勇者本人を含めて、その全員が元のパーティーから追放された冒険者であることは意外にも知られていません。
世界を救った勇者だというのに、なぜ彼らは元のパーティーから足手まといと判断されて追放されてしまったのか。
本書ではその理由からパーティーのマネジメント術を学びます。
●マテリア・マテルのケース
ドワーフのマテリアは〈空間拡張〉というレアスキルを持ち、大量のアイテムを収納できる特殊空間を作れました。
更には膨大な知識を駆使して、鑑定の魔法に頼らずアイテムの正体を見抜きます。
彼の戦闘力は
そんなマテリアですが、もともといたパーティーでは全く評価されていませんでした。
他のメンバーは全員が
そのパーティーのリーダーであるダン(仮名)は仲間の能力を単純な戦闘力でしか評価しておらず、マテリアを単なる荷物持ちとしか認識していなかったのです。
マテリアを追放した後、ダンは
結果としてダンは迷宮の最深部にたどり着き、莫大なマジックアイテムを得ますがマテリアを追放したために、持ち帰れる量は限られていました。
この時、ダンはマジックアイテムの中から帰還のスクロールを発見します。
これがダンたちの運命を決めてしまいました。
もしその場にマテリアがいたのなら、帰還のスクロールに1箇所だけ誤字があったのを見つけたでしょう。
不良品のスクロールを使ってしまったダンたちは、パーティー全員の体が融合し、おぞましい肉塊と成り果てて街中に出現しました。そのような状況では助かるはずもなく、すぐに全員死亡します。
ダンたちの悲劇は決して例外ではなく、ダンジョン攻略における死因の6割は遭難やマジックアイテムの不用意な使用による自滅など戦闘以外の理由です。
●クリエ・ワークスのケース
真の勇者のパーティーで紅一点のクリエは、〈魔力剣製〉というレアスキルを持っていました。このスキルは魔力を物質化して剣を作り出せる効果があります。
反面、クリエは〈剣術〉スキルが無いために、このレアスキルを自分では活かせませんでした。
真の勇者のパーティーに参加する以前はジャクソン(仮名)というAAA級冒険者のパーティーに所属していました。
ジャクソンがもつレアスキルの〈万能切断〉はあらゆる物質を切断する代わりに、使用した武器が壊れてしまう効果がありました。
クリエはジャクソンが〈万能切断〉を使うために〈魔力剣製〉で使い捨て用の剣を作っていました。
ですがある日、ジャクソンが決して壊れない不壊の魔法が付与された魔法剣を手に入れたことで、クリエは用済みとパーティーから追放されてしまいます。
その後、ジャクソンはアイアンゴーレムの群れを討伐するにあたり、不壊の魔法剣で万能切断を使用しますが、驚くべきことに決して壊れないはずの剣が壊れてしまったのです。
〈万能切断〉が持つ武器破壊のデメリットは使用者本人の予想以上に大きく、不壊の魔法の力すら超えていたのです。
ジャクソンの〈万能切断〉ありきで戦い挑んでいたため、アイアンゴーレムは最初の一体だけ倒すのみで、パーティーはジャクソンを残して全滅。ジャクソンも後遺症が残る重傷を負い、冒険者の引退を余儀なくされました。
もしジャクソンが〈万能切断〉スキルを十分に検証していれば、デメリットの内容を正しく把握できたでしょう。
●マーティン・オルトのケース
我々は生まれたときからスキルを平均して3つから5つ持ちますが、その殆どがコモンスキルと呼ばれる効果の小さいものです。
マーティン・オルトは〈汎用特化〉スキルを持ち、その効果はすべてのコモンスキルを使用できるという、レアスキルの中でもかなり特殊なものでした。
マーティンは冒険者になったばかりの頃、自分と同じ最下級のC《チープ》級冒険者同士でパーティーを組みました。
しかし仲間たちが順調にと昇格したにもかかわらず、マーティンのみがB級止まりでした。
当時の冒険者は戦闘用レアスキルの有無と魔物の討伐数で評価されていたため、大量のスキルを使えるとはいえ、それがコモンスキルのみで、しかも味方の補佐に専念していたマーティンはなかなか昇格できなかったのです。
パーティーリーダーのミザリー(仮名)も当時の評価基準と同じ考えを持っていたため、自分たちより昇格が遅れているマーティンを足手まといとしてパーティーから追放してしまいます。
その後、ミザリーは新しくAAA級の剣士を入れて冒険者活動を進めますが、思った以上の成果はありません。
実のところ、ミザリーたちが順調に昇格できたのはマーティンが様々なコモンスキルを駆使して彼女たちを補佐していたからでした。
レアスキルは確かに強力ですがありとあらゆる場面で使えるわけではありません。どんなスキルにも使い所というものがあります。
一方、マーティンの汎用特化は効果の高さは他のレアスキルに及ばないものの、欠点や弱点の少なさは群を抜いています。
ミザリーは自分たちの足りない部分を補ってくれる存在を手放してしまったのです。
結果、マーティンを欠いたミザリーたちはクエストに失敗し続け、ランク降格という冒険者にとって最悪の不名誉を受けてしまいました。
●ツルギ・ジンヤのケース
魔王と第二の魔王軍を討伐した真の勇者ツルギ・ジンヤは驚くべきことにスキルを一つも持っていませんでした。
本人が言うところによると、ツルギは地球と呼ばれる異世界で生まれたそうですが、その真偽は定かではありません。
ツルギはスキルを持っていないがために、当時の基準では全く評価されず、AAA級冒険者に匹敵する剣の腕のみで、ようやくB級に昇格したくらいです。
そのため彼もまたパーティーからの追放を経験しています。
そしてツルギが追放されたのは、悪名高き最低最悪のパーティーである第二の魔王軍です。
当時は彼らの本性が知られておらず、第二の魔王軍ではなく勇者のパーティーと呼ばれていました。
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今では信じられませんが、彼らは魔王討伐のための人々の希望としてみなされていました。
事実彼らは魔王の軍勢と戦い、幹部を何人か討伐していましたが、それは正義や平和のためではありません。
彼らはただ欲のために戦っており、勇者として戦うのが1番都合が良かっただけに過ぎません。
のちの調査で、欲を満たせない場合は人々を簡単に見捨てていたことが明らかになっています。
また、彼らが魔王の軍勢との激しい戦いに生き残れたのは秘密があります。
彼らは常に捨て駒用の仲間をパーティーに引き入れており、いざというときはその仲間を見捨てて逃げていたのです。
ジャスティンたちがジンヤを仲間に入れたのも、彼を捨て駒にするためでした。
ジンヤはパーティー加入からわずか1ヶ月で捨て駒とされ、生死の境を彷徨いますが奇跡的に一命をとりとめます。
傷が癒えた頃、すでにジャスティンたちは人類を裏切り、アドル大陸の半分を得る代わりに魔王の味方となっていました。
ジンヤは魔王と第二の魔王軍となったジャスティンたちを討つため、仲間を募りますが一切スキルを持たぬ彼と共に闘おうとするものはいませんでした。
そんな中、ジンヤに手を貸したのはマテリア、クリエ、マーティンの三人でした。全員がパーティーを追放されて行き場所がなく、しかたなく組んだパーティーでしたが、やがて大陸最高のパーティーとなります。
真の勇者ジンヤの偉業は魔王と第2の魔王軍の討伐だけでは有りません。
彼はこれまでの冒険者とは全く異なる価値観を持っていました。
それは訓練です。〈剣術〉スキルがないのなら、剣術を自力で学べば良い。ジンヤはクリエに自らの剣術を伝授しました。そして〈魔力剣製〉スキルとジンヤから学んだ剣術を得たクリエは、かの有名な剣聖ジェーン・アドル王女殿下を超える大剣豪となりました。
また、ジンヤは独創的な発想力も持ち、これまでは想像もできなかった新しいスキルの使い方も考案しました。それによりマテリアの〈空間拡張〉スキルは単なるアイテム運搬以上の力を得ました。それは〈空間拡張〉で2つの空間の穴をつくり、片方の穴で敵の魔法攻撃を受け止め、残りの穴から打ち返すという強力な反撃能力です。
さらにマーティンの〈汎用特化〉も、ある意味では究極のレアスキルと化しました。
通常、スキルは常に個別で使用するものですが、ジンヤは複数を同時に使えないかと考えたのです。そして過酷な訓練のはて、マーティンはコモンスキルの同時使用を実現したのです。
レアスキルの多くは、複数のコモンスキルの複合であることを考えれば、マーティンはスキルの上限である5個を超えた、しかもレアスキルを使える様になったのです。
これだけでも驚異的ですが、ジンヤはなんと全く新しいスキルすら編み出したのです。
それは活性心肺法と呼ばれるもので、魔力を心臓と肺に込めることで全身を強化するというものでした。
我々はただ世界を救ったという事実だけに目を奪われず、ジンヤがもたらした功績と真摯に向き合い、冒険者の何たるかを改めて考えるべきかもしれません。
ジェーン・スミス著:実例から学ぶパーティーマネジメント~追放前にちょっと待て。その人本当に役に立たず?~ 銀星石 @wavellite
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