第14話
あれ以来、フランソワは野菜売り場に再雇用されることになった。心優しい主人は、解雇した時からずっと底知れぬ罪悪感に駆られていたようであるのだ。それにもかかわらず先日、フランソワがロイドを自分の店に招待してくれたということに感激し、目を覚ましたらしい。
とても嬉しかった。収入源が増えたことも勿論そうだが、主人がいつも自分を気にかけてくれていたということもだ。
なんて優しい人なんだ、と心の底から感激し、この店のために一所懸命に働こうと奮起するのだった。
この日も午前中からせっせと働き、夕方の店仕舞いの時間まで動き回っていた。
「フランソワー、今日はもう店仕舞いだ。
あがっていいぜ」
「分かりました。お疲れ様です」
次の工場での仕事があるため、フランソワはすぐに帰りの支度を始める。
挨拶をし、工場に向かうべく野菜売り場を立ち去ろうとすると、主人に呼び止められた。
「フランソワ、ちょいと待ってくれ」
「はい。なんでしょう」
主人はそそくさと店の裏に入っていき、数分ほどフランソワを待たせた。
戻ってくる時には、両手に沢山の野菜が入った紙袋を持っていた。
「今日こんなにあまっちまってさ。このまま捨てられるにはかわいそうだから、フランソワ、残りもんで申し訳ねえが、もらってくれねえか」
「良いんですか!!ありがとうございます!!!」
野菜がかわいそう、という言葉を口実に、フランソワは遠慮なくそれを頂いた。
しかしこれは後で気づいたことだが、心の優しい主人はフランソワが断らずに受け取りやすいよう、気を遣ってそう言ってくれていたのだ。
何故なら、家に帰りそれを食すと、それらには全て残りものとは思えない新鮮な味わいがあったからだ。
主人に心から感謝し、暖かい気持ちで工場の仕事へと移る。心なしか、気分が良かった。
ロイドとの食事のことや、野菜売り場の主人の優しいに触れたこと。
工場での単純作業をこなしながら、フランソワは楽しい思い出に耽っていた。
自分は決して豊かであるとは言えないが、宮殿において生活していた時よりもよっぽど暖かく、よっぽど幸せだと思った。
豪華な住居がなかろうと、豪華な服がなかろうと、豪華な食事がなかろうと、人間的な暖かみがあればそれで良い。
この生活がいつまでも続いて欲しいとさえ思った。
夜も遅くなり、工場での仕事も終わり、帰宅する。工場での単純作業は、ついつい考え事をする余裕を脳に与えるものだ。
工場においてずっと幸せな考えごとをしていたため、フランソワは異様にテンションが高かった。1人でいるにもかかわらず、だ。
しかし、夜も深いので。家にいるナタリーはもう既に床についていることだろう。
ハイテンションで帰宅して起こしてしまうと申し訳ないため家に着くとフランソワはテンションを鎮め、そうっと部屋に入る。
すると、意外にもフランソワの心配は無用だった。ナタリーは珍しくこの時間まで起きていたのだ。
「あら、お母様。まだ、起きていたのね。
丁度良かったわ、野菜」
「フランソワ…おわりよ…」
フランソワの話を遮り、ナタリーは妙なことを言い出す。不思議に思い、フランソワは聞き返す。
「え?どうしたの?お母様」
「増税よ…」
「増税?増税ならこの間、国税が引き上げられたわね。本当につらいことだわ」
「違うの。フランソワ」
「え?」
ナタリーは、この世に絶望しきったような表情でフランソワを見つめた。
「ど、どうしたの?お母様」
「ガイヤ村にだけ、50%さらに税金を引き上げるそうよ」
「え……?50%?!?!?!」
真夜中だということも忘れ、フランソワは彼女らしくない、大きな声を出してしまった。
それくらいナタリーの言葉は現実的なものではなかったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます