第13話
ロイドは一呼吸置き、今までの自分がした調査の経緯や結果について、事細かにフランソワに話した。
自分が現在、ソフィとアリアス夫人との会話を盗聴する作戦を実行していることを、だ。
ロイドがその事について話すと、フランソワはとても驚いた様子であれやこれや質問を投げたが、話の全貌を聞くと納得したようだった。
「それでロイドさん、あのお二方の食事会では、何か重要なお話はありましたか?」
「………」
ロイドは首を横に振った。
どうやら、何か決定的になるような話はなかったらしい。
よっぽど期待していたらしく、フランソワがあからさまに残念そうな顔をしていることに気づいたロイドはなんだか少し申し訳ない気持ちになり、なんとかポジティブな言葉をかけようと思った。
「でも引き続き盗聴作戦は実行していこうと思います!何か得られるあるかもしれません!」
「そ、そうですね!ありがとうございます!」
ロイドの言葉に、何ら忖度はなかった。
本心からくるものだった。
まだ調査は始まったばかり。序盤から手がかりを見つけられなかっただけで、いちいち落胆する必要はないのだ。
帰り際に、野菜を栽培した主人をひと目見てみたいとロイドが言うので、フランソワはロイドを連れて主人の前に顔を出した。
突然の王族の出現に、ただただ驚く主人に、ロイドは先ほどフランソワに話したとおり、野菜をベタ褒めする。主人が恐縮しきっているのを見て、フランソワとロイドのふたりは顔を見合わせて笑った。
一方宮殿では、アリアス国王、夫人、執事の3人で予算についての会議を行っていた。
「というわけであなた、増税しましょ」
「う〜ん、国力を上げるためにという理由は分かったが、民衆が暴発せんとも言い切れんわな」
国王は執事と同意見だった。
しかし、ここで引き下がる夫人ではない?
「あなた。ガイヤ村からだけうんと税金とるのよ」
「うん、ガイヤ村?何故ピンポイントでガイヤ村からだけとるというのだ」
国王は訳がわからない、といった様子だ。
そんな国王の理解力を小馬鹿にするように、夫人はこれ見よがしにゆっくりな口調で説明をし始めた。
「先日、ルビーの指輪を盗んだあの汚らしい泥棒娘を追放しましたわよね?」
「うん。それがどうしたというんだね?」
「あ〜らやだわ。あなたったら、まだお気づきにならなくって?ならば説明いたしますわ」
夫人は一旦深く息を吸い込み、まくしたてるような早口で話し始めた。
「アリアス家は王族の証である指輪を盗むような庶民の泥棒を妻に迎え入れるものだと思われたら、我が一族の権威は失墜いたしますわ。
わたくしたちの威厳を見せつけるためにも、あの女には制裁を加える必要がありますわ。
この機会にちょうど良いと思ってよ」
「なるほど、権威か」
国王は権威や威厳などという言葉にめっぽう弱い。威勢を誇示し、代々受け継がれるアリアス王朝の伝統を守ってきたからだ。そして夫人はそれにつけ込んだのだ。
国王はうーん、と唸ったあと、夫人の考えを受け入れた。
「よし、分かった。あとはワシに任せなさい。
近々、ガイヤ村の税金を引き上げる発表をしよう」
「さすがだわ、あなた」
夫人は甘ったれた声で国王を讃える。自分の要望が通ったことで、非常に満足そうだ。
国王もまた、満足そうに笑った。
アリアス王朝の国家予算が自分の妻によって私的運用されていることも知らずに。
酷い、あまりに酷く極悪な増税案がこの時をもって可決された。
ガハハハハハハハ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます