第三十二話 悪寒
ファイの死体を背負いながら、やっとのことでラース火山入り口までたどり着く。
レイスを背負うメイディと共にロープを伝い、アリスの背中までたどり着く。
「ようやく来たわ……ね」
アリスの上にはハル達以外のジェンシー隊の面々も、今回冒険に参加した『グロッド』メンバーも全員揃っていた。
隊長のエマがハルたちを確認するなり、少し上ずった声を上げたが、ファイの様子を確認するなり、眼が細められ、眉間にしわが寄った。
「ハザード! 診てくれ!」
ハルとメイディがリペアハート姉妹をアリスの上に横たえ、緊迫した声でハザードを呼ぶ。
彼は事態は急を要すると察し、返事もせずにリペアハート姉妹に駆け寄る。
「エアロ! 急いでアリスを出して!」
メイディがエアロに出発するように指示を飛ばすと、エアロは「あいよ!」とアリスの口につながる手綱を振るう。
アリスが近くの村へ向けて飛び立つ。
いつもよりもスピードが増しており、全身にあたる風が強く、アリスの背の上も不安定にぐらぐらと揺れる。
不安定さに恐怖を覚えつつも、一刻も早くファイの無残な姿を元の元気な姿に戻したいという気持ちで、その恐怖を押さえつける。
心配のあまり、リペアハート姉妹を見ているハザードを見やる。
ファイ・リペアハートにかざした手が煌々と輝いていた。
ファイに治癒魔法をかけているようだ。必死の形相で、顔じゅうに汗をびっしりとかいている。
「…………」
首をかしげるハル。
教会に行けば、完全に元に戻るんじゃないか?
それなのに、なぜ、今死んだ状態でいるファイに治癒魔法をかけているんだろう?
どうしてそんなに必死に……。
確かに、ファイが死んでいるというのは酷い。胸が痛い。一刻も早く彼女の元気な姿を見たい。
だが、この世界ではどんなに傷つこうと———どんなに時間が経とうと———、
復活、できるではないか———。
死者蘇生が————できるじゃないか。
「急いで‼ もしかしたら、ファイ・リペアハートは手遅れかもしれない!」
メイディがエアロを更に急かす。
エアロは口を結んで、返事もせず、アリスの手綱を振るいもしない。
ただ、頬を一筋の汗が流れるのみだ。
普段、軽口ばかり叩く彼女らしくない。
メイディも、切迫した様子で爪を噛んでいた。
「あの……」
ハルが口を開き、問いかけを投げつけようとする。
が、視線が泳ぎ、喉元まで出かかってた言葉が引っ込んでしまった。
ファイは甦るんですよね?
その一言がどうしても出なかった。
「ハル君……」
ポンと肩に手が置かれる。
エマだった。
彼女は、嫌に悲しい瞳をしてハルを見つめていた。
「なん、ですか……?」
「ごめんね」
「……なんで、謝るんです?」
エマのその一言は、なぜか、無性に、嫌に、ハルの背筋を凍らせた。
「多分……これから辛い現実に直面すると思う。時期が来たら、時期が来たら、ハル君に言わなきゃと思っていたけど、それが、今日だったみたい」
「な、何を言うんです? いや、やめてくださいよ。なんか深刻そうな顔で、変な事言うのは———」
「言わずに、無知なあなたを責める態度を取っていたのは、多分私自身も、それが起きるのが怖かったから。私だけじゃない、あの娘も」
そう言って、エマの視線がメイディに向けられる。
「やめてください!」
思わず、大声をあげてしまった。
「やめてください……やめて、くださいよ……」
ハルは、それ以上エマの言葉を聞きたくなくて、やめるよう繰り返し言い続けた。
どうして、ファイの無事を尋ねられないのかようやくわかった。
怖かったからだ。
否定されるのが————怖かったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます