第二十九話 救助———そして、
ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼
三つ首の竜が吠える。
「来るよ!」
一つの首から発せられた火炎をエマが盾で受け止め、盾を剣で鳴らしながらメイデ
ィが竜の後方へ回っていく。
「こっちだ!」
その光景を見ながら、ハルは固まっていた。
「何やってるの! 早く!」
「……ッ! ハイ!」
ハザードの言葉でハッとし、倒れ伏している『グロッド』の死体をボスフロアから運び出す。皆丸焦げだったり、爪で胸を割かれていたりとひどい有様だった。
「くっ、しまったそっちに行った!」
エマの剣が弾かれ、トリプルヘッドドラゴンがハルたち向けて口を開けてやってくる。
ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼
「うわわわわ!」
「『プロテクトウォール』!」
ハザードがハルの前に立ち、光壁の魔法を発動させる。竜の牙は光の壁に阻まれ、爪を立てるが、壁に傷一つつかない。
「ありがとう、ハザード! 頼りになる!」
「お礼はいいから、『グロッド』の奴らを早く遠ざけて!」
「もうやってる!」
最後の一人、比較的に軽傷だった金髪の男に走り寄る。
「うぅぅ……」
その男はまだ息があった。傷も軽い切り傷が多く、まだ瀕死という状態でもない。
ハルはその男の頬を張る。
「おい、あんた、生きてるか? 動けるのなら自分で歩いてくれ。そしたら一気に他のあんたの仲間を運べるから」
「う……うぅ、君は?」
男の目が開く。この男どこかで見たことが、いや、確か、『グロッド』のリーダーだった……、
「あんた、確か『グロッド』リーダーのトーマス・ラモン。まだ生きてたのか。歩けるか?」
「無理だ、両足が折られている……」
見下ろすと、トーマスの足は本来曲がってはいけない方向に曲がっていた。
「しょうがねえ、少し痛むが我慢してくれ、あんたが最期だ。早くドラゴンがいる場所から逃げないと」
自分よりはるかな巨体のトーマスを背負う。レスキューアームに筋力強化の永続魔法がかかっていなかったらハルは潰れていただろう。
ボスフロア出口まで駆け出す。
「ぐあああ!」
「我慢しろって!」
揺れて痛むのだろうが、彼に構っていられる余裕はない。とっととボスフロアの外に出て、他の死体と同様に地面におろす。
死体の数は十。屈強な男どもがほとんどで、女の子はシスターらしき衣装を着た女性一人しかいない。
随分と男くさいパーティーで潜ったもんだ。回復役も一人だけじゃないか。
「随分と早く来てくれたな。結構このダンジョンは入り組んでいて、もっと時間がかかると思ったが……いやはや、ハイエナ隊に礼を言うことがあろうとは、ありがとう」
「嫌味を言ってないで、確認しろ。これで全員か?」
トーマスは倒れている死体を見渡し、ハルは時間がもったいないとボスフロアの中を見渡す。
エマとメイディがトリプルヘッドドラゴンの攻撃を受け止め、ハザードが魔法でサポートしている。ボスフロアの中にいるのは三人だけで、倒れている人間も見受けられない。
「ユウキ、レン、ヒゾン……あ、ああ、全員だ」
一人一人の名前を唱え、数え終わったトーマスが頷く。
「よし!」
ハルはボスフロアへ向かう。
「『グロッド』のメンバーは全員救出完了! 脱出しま……しょう……!」
「「「了解!」」」」
——————ヒゾン?
トーマスが先ほど数えた名前の中に、以前ファイと揉めていた男の名前があったような……。
エマ達がトリプルヘッドドラゴンの元から帰ってくる間、もう一度倒れている『グロッド』のメンバーを見つめる。
「おい、ふざけんなよ。おい……」
ブワッと背中から汗が噴き出す。
倒れているのは女性一人、だけ。
「トーマス! 答えろ‼ 俺の勘違いだ、俺の勘違いだよな⁉」
もしかしてという推測が頭によぎり続ける。
『角笛は冒険者にとって絶対に手放したり、傷つけたりしちゃいけないアイテムなの。たとえモンスターの激しい攻撃にさらされても絶対に守らなければいけない物』
『救助が来なくなるから?』
『そう、すぐに救助が来ないと手遅れになる』
だいぶ前にメイディとした会話を思いだす。
「今回の遠征メンバーに……レイス、ファイ、リペアハート姉妹は入っていないよな?」
そして、メイディは最後に、ファイを疎む人間は多いと言った。
トーマスは訝し気にハルの顔を見つめる。
「何を言っている? 君たちがラーズ火山に来たのは二回目じゃないのか? だから、俺が角笛を吹いた後、すぐに来れた」
「二回、目?」
「リペアハート姉妹は我々本隊を助けるために囮となって、昨日別れた」
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